Wargaming Esoterica

After Action Reports & Reviews of Simulation War Games ほぼ引退したウォーゲーマーの日記

【参考文献】「シャドウ・ウォー 中国・ロシアのハイブリッド戦争最前線」

今年3月の新刊「シャドウ・ウォー 中国・ロシアのハイブリッド戦争最前線」(原書は2019年刊)を購入。著者はCNNのジャーナリスト。本書では、中国やロシアが、アメリカとの武力衝突に至らないよう、そのぎりぎり手前で、暗殺、サイバー戦、宇宙戦、アメリカ大統領選への介入等によって、アメリカ側の力を削ぎ、自国の利益を確保しようとする手段を紹介している。本書では、武力衝突の前段階(グレーゾーンでの戦い)を紹介しているが、実際に武力衝突が起こった場合(レッドゾーンでの戦い)でも、引き続きサイバー戦や宇宙戦が行われ、そちらもハイブリッド戦と呼ばれるのだと思う。

もしこれをウォーゲームで表すなら、①グレーゾーン段階で終わるゲームと、②レッドゾーン段階だけのゲームと、③その双方を継続的にプレイするゲームが考えられる。①は、冷戦時代を扱ったVG「Cold War」のように、武力衝突に至ったらゲーム終了として、その手前で機密作戦やら低強度紛争でポイントを稼ぐようなゲームだろうか。②は、すでに事前段階の機密作戦が終わり、武力衝突をメインに扱う。GMTの「Next War」シリーズがこれに近いし、多くの近未来戦ウォーゲームがこの範疇に入るかと思う。③はその2つをつなぐもので、サイバー戦やプロパガンダ戦を駆使して自軍に有利な状況を生み出し、任意のタイミングで武力衝突にエスカレートさせ、勝敗を決するという流れ。そんなゲームが実在するのか知らないが、これから先、登場してもおかしくない。 

しかし本書を読むと、暗殺なり、プロパガンダ戦なり、敵国民への浸透にしても、それって特に新しい要素ではなく、昔からあっただろうという疑問も湧く。サイバー戦や宇宙戦にしても、要するに敵側の通信手段を阻害するものだから、敵国の電話線を直接切るか、DDoS攻撃を仕掛けるかの違いなんじゃないの、という気もする。通常作戦と特殊作戦のミックスという意味でも、いや真珠湾奇襲の時も特殊潜航艇がいたし、ノルマンディ上陸作戦時の欺瞞作戦とか、バルジ戦の時のスコルツェニーの米軍偽装部隊とかいただろうと。それと何が違うんだ?という論争もあるようだ。

そのあたり、エリノア・スローンの「現代の軍事戦略入門」に上手くまとめられているが、ハイブリッド戦という言葉を広めたフランク・ホフマン(元米海兵隊)によれば、これまでの戦争では、通常作戦と特殊作戦が個別に行われていたが、ハイブリッド戦ではその部隊が同一の戦場で連携し、作戦区分が曖昧だと言う。そういう意味で言うと「ブラックホークダウン」で知られるモガディッシュの戦いのように、特殊部隊デルタフォースとレンジャー部隊とそれを回収する車輌部隊による連携作戦も、ある意味、ハイブリッド的だったことになる。

ただし今現在では、ハイブリッド戦という言葉は、ホフマンが示したような戦争形態というよりも、中国・ロシアの今現在の戦争形態を指すことが多いようだ。このあたり、まだ言葉の意味や用法が少しずつ変化しているし、『それは本当に新しい戦争形態なのか?』という議論もあるので、その意味をあまりガチガチに捉えず、最新知識にアップデートしていきたいと思う。最新の軍事動向についても、日本語で読めるサイトもあるのでチェックしておきたい。