Wargaming Esoterica

After Action Reports & Reviews of Simulation War Games ほぼ引退した蔵書系ウォーゲーマーの日記

MW #22 「New World Order Battles」Kiev Solo-Play AAR

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Decision Gamesから発行されていた現代戦専門ウォーゲーム誌「Modern War」が、昨年2021年をもって休刊となった。DGからは他にも歴史全般を扱う「Strategy & Tactics」誌、第二次大戦専門誌「A World at War」誌が出ているが、その2誌が健在で「Modern War」がまず最初に潰れるというのも興味深い。自分も熱心な読者ではなかったが、一応、手元に22号「New World Order Battles」があったので、これをソロプレイすることで追悼企画としよう。

お題として選んだのは「Kiev」シナリオ。ウクライナでの内戦勃発を契機に、ロシアとNATOがそれぞれの親和勢力を助けるために介入する……という架空の設定である。一応、本来のルールでは、カウンターを裏面にして戦力未確認状態にするのだが、今回はソロプレイなので、純軍事組織ユニット以外は表面のままプレイすることにした。

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勝利条件的には、キエフ市中心部の目標ヘクス(独立広場等々)の占領と、敵ユニットの除去によって勝利ポイントが加算される。登場するフォーメーションはランダムに決定されるが、今回は、ウクライナ軍第8軍団と第30機械化旅団がドニエプル河東岸の守りにつき、東から攻めてくるであろうロシア軍の襲来に備えた。またロシア軍には空挺降下可能な戦力もあるため、後方を守るためにNATO軍緊急対応空中機動旅団がドニエプル河西岸を固めている。

これに対してロシア軍は、第4親衛戦車旅団と、中央コマンド直轄の武装ヘリコプター大隊が登場。親ロシア準軍事組織と共に、キエフ市郊外へ攻めかかった。この郊外を守るのは、逆に親ウクライナ準軍事組織の面々であり、同じウクライナ人同士が戦うのをロシア軍が支援する形になっている。

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また第1ターンには、ロシア第98親衛空挺突撃旅団の第一波がキエフ市の西方へ降下。このターンはこれ以上行動できないが、キエフ市を東西から挟撃する作戦を採った。

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これに対して第1ターン裏のNATO軍には、増援としてアメリカ軍統合特殊作戦コマンド(JSOC)が登場。ハイパーウォー能力(1ターンに2回攻撃可能)を持つこの部隊は早速、降下したばかりのロシア軍空挺突撃旅団に攻撃を仕掛け、2個大隊を除去した。21世紀の現代戦とは言え、やっていることは「マストアタック」(攻撃強制)「挟んでポン」(ZOCで挟み撃ちにし、後退できずに除去)である。

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第2ターン、ロシア軍の増援として、わらわらと親ロシア準軍事組織ユニットが登場。キエフ市へ突入せんと前進し、攻撃ヘリコプター大隊は退路を断つべく後方へ浸透している。しかし守るウクライナ=NATO連合軍も、地上戦闘を解決する前に空爆マーカーでこれを撃退し、ロシア軍もなかなか思うような戦果は挙げられずにいる。

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キエフ市西部には、ロシア軍空挺突撃旅団の第二波が降下。

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ロシア空挺突撃旅団は、アメリカ軍特殊部隊をかわしてキエフ市内へ突入。そう、NATO=アメリカ軍は火力を高めるためにスタックしているが、むしろバラして戦線を構築し、市街を守る必要がある。なんというオーソドックスな現代戦。結局やるこたあ、ZOCで戦線を組めと。

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第3ターン裏、増援としてウクライナ第1戦車旅団が登場。これとアメリカ軍特殊部隊、NATO空中機動旅団が、降下してきたロシア空挺突撃旅団を包囲した。ロシア軍も空爆を要請したものの、敵を撃退するには至らず、逆に空爆によって後退を強いられ、次々と除去されていった。

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東岸から攻めていたロシア軍戦車隊も、親ウクライナ民兵部隊にまさかの敗退を喫して除去されるなど、手痛い損害が続き、第4ターンの増援も無いと分かった時点で今回のソロプレイはお開きとした。

 

まあ文章として書き起こすと、いかにも現代戦っぽい展開に思えるかもしれないが、やることは旧来型の「マストアタック」「挟んでポン」式のウォーゲーム。ただ状況や部隊名が現代戦の衣装を着ているだけとも言える。ハイパーウォー能力を持った部隊も、移動、戦闘、戦闘結果が良ければ前進して二次移動、二次戦闘という機能としては、第二次大戦ゲームの戦車ユニットみたいなものだ。

もちろん本作は、21世紀の戦争を、よく知られている従来型のウォーゲームの文法に落とし込んで表現する、という手法なのだろうし、それはそれで悪くない。ただ、従来型のウォーゲームに慣れ親しんだ自分からすると『ああ、今時の戦争はこういう形なんだ』という驚きは、あまり感じられなかった。一応、準軍事組織ユニットも出てくるけれど、それだけでハイブリッド戦争を感じられるかというと、うーん……

まあ、Modern War誌の付録にそこまで期待するな、と言われればそれまでだし、あまりボード・ウォーゲームを知らない方がプレイされたら、意外と納得してもらえるかもしれない。武装ヘリで相手の退路を断ち、空爆を呼んで、直接戦闘をせずに敵を除去、そして二次移動・戦闘をするハイパーウォー部隊……あれっ、こう書くと悪くないような……ちなみにBGG(Board Game Geek)での本作の評価は「6.8」点だが、きっと俺のように、スレたウォーゲーマーばかりが評価しているのだろう(^_^;)

まあ、21世紀の戦争では、データリンク等の通信手段は発達しているし、ドローン等の新機材も登場しているが、ボード・ウォーゲームとして抽象化し過ぎてしまうと、所詮インターネットは「ものすごい通信機」、ドローンは「今時の急降下爆撃機」という感じで、どちらも第二次大戦ウォーゲームと同様に「戦闘ダイス修整+1」になってしまう可能性もある。と言って、事細かに最新ツールの差異を再現したゲームが欲しいわけでもなく、なかなか難しいテーマだなと思う。だからこそModern War誌が潰れたのかもしれないし、そこに挑戦するデザイナーが少なかったかもしれないし(そういう人は軍用シミュレーションの開発に携わっているのかも)、そこまで求める読者やゲーマーも少なかったのかもしれない……というのが追悼の辞かな。