Wargaming Esoterica

After Action Reports & Reviews of Simulation War Games ほぼ引退した蔵書系ウォーゲーマーの日記

Modern War #22 「New World Order Battles : Hyperwar in the 21th Century」

f:id:crystal0207:20201012175231j:imageさて、21世紀の戦争を扱ったウォーゲームにも触れようということで、いろいろ探してみた中、一番それっぽい内容のModern War誌22号「New World Order Battles : Hyperwar in the 21th Century (新秩序下の戦闘:21世紀のハイパーウォー)」を購入。2016年発売の号だが、幸い「小さなウォーゲーム屋さん」にまだ翻訳ルール付きの在庫があったので、取り寄せてみた。デザイナーは、この手の近未来戦ゲームも多々発表しているJoseph Miranda。自分にとっては、初MW誌、初小さなウォーゲーム屋さん、初Mirandaと初物づくしとなった。

本誌掲載のMiranda氏の記事を読むと、いわゆるRMA(軍事革命)の第5世代戦争……第1世代のナポレオン戦争、第2世代の第一次大戦、第3世代の第二次大戦、第4世代のテロとゲリラ戦争に続く、新たな世代戦争として、湾岸戦争以降の、コンピュータ・ネットワークと精密誘導兵器、航法機器等を駆使した戦いをゲーム化したとのこと。この号に含まれている2タイトルと、2017年に発売された同じシステムの、Modern War誌27号「Crisis in the East」の2タイトルを合わせると、21世紀版「Modern Battles」クワドリになると。 

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こちらの2タイトルはいずれも仮想戦。まず「Kiev」は、ウクライナで内戦が発生したと仮定し、その首都キエフを奪い合う形で、ロシア軍とNATO軍が衝突する。1ヘクスは3Km。 

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もう1つは「Ulan Bator」。こちらはモンゴルで暴動が発生し、政情不安定になった首都ウランバートルを巡って、ロシアと中国が衝突する。1ヘクス=12km。そう、ヘクススケールは違うが、1ターンはどちらも12時間~3日間を表している。ずいぶん、おおまかだなあ。 

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青色ユニットがロシア軍。1ユニットは大隊規模で、能力値はオーソドックスに「攻撃力-防御力-移動力」。ただし「攻撃力防御力-移動力」となっているユニットは、ハイパーウォー能力……コンピュータ・リンクに優れているとか、夜戦暗視能力があるとか、そういう今時の能力がある。ハイパーウォー能力ユニットは、敵ZOC離脱可、ハイパーウォー戦闘結果表を選択可、反復攻撃と呼ばれる二次攻撃可となっている。そう、この能力が無いユニットは、ZOCから離脱できず、従来型戦闘結果表しか使えず、自軍ターンに単純に1回のみしか攻撃できない。ただしネットウォー・マーカーという便利マーカーを消費すると、一時的に、その能力を持たないユニットもハイパーウォー攻撃が可能となる。まあ、第二次大戦型のウォーゲームで言うなら、ハイパーウォー部隊は機械化部隊や戦車部隊みたいな扱いか。ちなみにロシア軍では、作戦コマンド部隊(OC)だけがハイパーウォー能力を有しており、全軍にその能力が行き渡っているわけでもない。またカウンター裏面が、昔なつかしい「Panzer Gruppe Guderian」のように戦力未確認状態「?」となっているユニットもあり、両軍とも戦闘を行うか、目標となるまで実際の戦闘力は分からない。ああ、なんか、表現されているものは21世紀なんだけど、やらされることは1970年代のSPI的だなあ…… 

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赤いユニットは、中国軍。こちらは1ユニット連隊規模。第38軍という、軽戦闘車両とコマンドの複合部隊のみがハイパーウォー能力を有している。 

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濃い黄色はウクライナ軍。薄い黄色はNATO軍。アメリカ第2ストライカー連隊(2S)と、同じくアメリカ統合特殊作戦コマンド(JSOC)のみがハイパーウォー対応になっている。

ゲーム手順は、増援・移動・戦闘・回復フェイズをくり返す、これまたオーソドックスな流れ。しかし戦闘フェイズは、①防御側射撃②攻撃側砲爆撃③攻撃側一次攻撃④攻撃側二次攻撃(ハイパーウォー部隊による反復攻撃)と分かれ、やや戦術級寄り。航空攻撃に対しては、防空能力による妨害もあり。空挺降下、ヘリによる空中機動あり、と今時の要素も採り入れてはいるが、おおむね既存の、第二次大戦型のウォーゲーム・システムに収まっている。

まあ、第二次大戦型のウォーゲーム・システムに収まっているうちは、新世代の戦争とは言えないのかもしれない。結局、第二次大戦の戦車ユニットの代わりに、ハイパーウォー部隊が機動的にも攻撃的にも有利なだけで、実際プレイしてみると、それこそ「PGG」とあまり変わりないかも。あくまでSPIクワドリの流れを汲んで、とりあえず今時の戦争を「撮って出し」のように切り取ったモノかなと。なにしろ今現在の戦争は、状況的な変化もあるし、技術的な革新もあるし、あまり細かく作っても、数年で古びてしまう可能性もあり、だったら実験作として、一度おおざっぱに作ってしまえというのも、正解なような気もする。でなければ、その都度アップデートをかまして更新していく方法もあるけれど、それはそれで追いかけるのが大変だし。とりあえず、21世紀の「Modern Battles」クワドリとしては面白そうだ。