Wargaming Esoterica

After Action Reports & Reviews of Simulation War Games ほぼ引退した蔵書系ウォーゲーマーの日記

【参考文献】ジョン・キーガン「戦場の素顔 アジャンクール、ワーテルロー、ソンム川の戦い」

イギリスの軍事史家、ジョン・キーガンの「戦場の素顔」を購入。邦訳が出たのは2018年で、自分も発売当時に書店で手に取ったはずだが、今日までスルーしてしまった。なぜ今さら本書を買ったかというと、最近Sound of Drumsという新興メーカーから「Eylau 1807」というナポレオン戦争の会戦級ゲームが発売され、その売り文句としてこのようなツイートを見かけたから。

この「白兵戦はウォーゲーマーのファンタジー」という一文が非常に気になったのだ。恐らく、当時の会戦は射撃戦が主流で、わざわざ白兵戦を仕掛けるなんて、よほど止むに止まれぬ状況か、逆に圧倒的に優位な状況のようなケースばかりだった、という解釈なのだろう。そのあたりについては、昨年サッポロ辺境伯さんとお茶した時にも、会戦における戦場心理について語り合い、この「戦場の素顔」が思い浮かんだので、ようやく手に取ってみたと。

実際読んでみると、中世(アジャンクール)、ナポレオン戦争(ワーテルロー)、第一次大戦(ソンム)という3つの会戦をお題にして、それぞれ「歩兵vs騎兵」「騎兵vs騎兵」「歩兵vs歩兵」「砲兵vs騎兵」など、兵科毎の対戦事例を挙げ、そこで実際どのような戦場心理が作用し、兵士たちが振る舞っていたのかが記されている。

でまあ、予想通り、ナポレオン戦争時代の会戦=ワーテルローにおいても、真正面からの白兵突撃はあまり見られず、騎兵同士が突撃してもお互いすり抜けたり、相手が逃げたり心理的に優位になった時こそ肉弾戦に持ち込むことが大概であったと。まあ、それが当時の戦場の実相であるなら「白兵戦はウォーゲーマーのファンタジー」だと割り切って処理するようなゲームがあるのも当然かなと。

もちろん多くのナポレオン会戦ゲーム……「バタイユ・シリーズ」でも、白兵戦前には敵からの防御射撃を受けるし、それによって士気を乱され白兵戦前に敗走、という場面は再現されている。

ただウォーゲームの解釈として「そもそもリスクが高くて当時の兵士はそれを心理的にやらなかったんだから、ルール的にも気軽にはやらせないよ」もあるだろうし、「Eylau 1807」もそういうゲームなのかな? まだ現物を見ていないので知らんけど(笑)。

またルール的に制限されていない他のナポレオン会戦ゲームでも、プレイヤーの心持ちとして「当時は白兵戦なんて滅多にやらなかったんだから、俺も気軽にはやらないぞ」という精神的縛りプレイをするのも良さそうだ。ただ、これも本書で言及されているが、当時の銃火器の命中率はまだまだ低く、もちろん大概のナポレオン戦争ゲームも射撃戦だけではなかなか決着がつかず、結局は白兵戦に持ち込まないと雌雄を決せられないシステムが多いので、そこを「Eylau 1807」は射撃戦メインでどう処理しているのかな?といろいろ気になっている。まあ、そのうち入手してみよう。

戦場心理が表現されているウォーゲームは大好物なので、それを補完してくれるという意味で、本書は非常に面白く読めた。

 

ちなみに本書の方法論や、戦場心理というテーマを用いて、その次にキーガンが著した「ノルマンディ戦の六カ国軍」も3月に邦訳が出る予定だそうなので、それも買わなければ……

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