川越の古書店から「戦理入門」(昭和50年・増補改訂版)を取り寄せ購入した。これも以前所有していたものの、経済的ピンチの折りに軍事書専門の古書店に売り払い、そしてまた別の古書店から再購入と相成った。売り払う際も、古書店のご主人から『いいんですか?これ持ってる人、普通は売りませんよ?』と言われたが、まあ、ご縁があればまた会えるだろうと思ったし、実際再会できたので良しとしよう。
光人社NF文庫「戦術学入門」では、本書を「旧陸軍・陸上自衛隊をつうじて唯一ともいえる戦術学参考書」と評しているが、実際には「昭和44年・新書版」「昭和50年・増補改訂版」「平成7年・陸戦学会版」があるとのこと。自分が以前所有していたのも、この昭和50年版を昭和55年に再刊したモノであり、同じ版を買い直したことになる。平成版は、フォークランド紛争などの新しい戦例も載っているようだが、あいにく未見。まあ、新しい戦例が載っているのはありがたいが、基本戦理はあまり変わらないだろうから、この昭和50年版でも、十分に価値はあると思う。
以前も書いたが、本書の存在を知ったのは、ウォーゲーム雑誌「TACTICS」「石川輝の戦術講座」で紹介されていたのがキッカケ。その記事を見た後、たまたま神保町の古書店で発見し、購入したのが、自分がまだ学生時代の1990年。そう考えると、約30年ぶりの再購入というわけだ。
もちろん本書は、自衛隊幹部向けの基本戦理の解説書であり、プロフェッショナル向けなのだが、より高度なテキストである「戦術原則の基礎的研究」や「戦術との出逢い」に比べれば、かなり平易で読みやすい。「TACTICS」でも紹介されていたように、まさにウォーゲーマー向けの一冊でもある。
参考までに、章題を記しておこう。
「第1編 序論」
「第1章 序言」「第2章 戦いの本質と陸戦の特色」「第3章 戦理の意義と性格」
「第2編 戦闘力の意義及び特性」
「第1章 戦闘力の意義及び原理」(戦例:第二次アキャブ作戦における英印軍の戦闘、第1次大戦当初の西方戦場における独軍の攻勢、ポーランド会戦)
「第2章 戦闘力の組織及び調整」(戦例:長篠の戦、フーコン(タルン河畔)における米支軍三角陣地、ノルマンディー上陸作戦、サイパン作戦)
「第3章 戦機と奇襲」(戦例:賤ヶ岳の戦、桶狭間の戦、アルバート運河及びエベンエマエル堡塁に対する空挺作戦)
「第4章 正面戦闘力と縦深戦闘力」(戦例:三方原合戦)
「第5章 拘束と打撃」
「第3編 戦力の集中」
「第1章 要旨」(戦例:国連軍の北鮮進攻作戦、レイテ作戦)
「第2章 戦闘力の求心的行使」
「第1節 求心の理」
「第3節 分進合撃」(戦例:徐州会戦、ケーニヒグレッツの会戦)
「第4節 包囲」(戦例:朝鮮の雲山における中共軍の包囲)
「第5節 突破」(戦例:第2次大戦初期の独軍のマジノ戦突破、第2次大戦終期における独軍のアルデンヌ攻勢)
「第3章 戦闘力の偏心的行使」
「第1節 偏心の理」
「第2節 内戦作戦」(戦例:第3次中東戦争)
「第3節 各個撃破」
「第4章 対上着陸作戦」(戦例:アンチオ上陸作戦)
「第4編 敵戦闘力の逆用」
「第1章 衝力の逆用と操縦」(戦例:ソ芬戦争におけるスオルサルミの戦闘)
「第2章 牽制と逆牽制」
「第1節 牽制と逆牽制の意義及び特性」(戦例:奉天会戦における鴨緑江軍の東翼からの攻撃)
「第2節 主作戦と支作戦の関係」
「第3節 持久作戦」(戦例:フーコンにおける第18師団の持久作戦)
「第4節 主力の翼側に行動する部隊」(戦例:ミシチェンコ騎兵集団の海城周辺における作戦)
「第3章 戦場における殲滅戦」(戦例:タンネンベルヒ会戦、仁川上陸作戦)
「第5編 主動」
「第1章 要旨」
「第2章 遭遇戦」(戦例:遼陽会戦における第12師団の戦闘)
「第3章 陣外決戦」(戦例:ウルムの会戦、ガザラとバー・ハッチェム(ビル・ハケイム)の戦闘)
「第4章 後方遮断」
「第6編 戦闘力の限界」
「第1章 戦局転換点の打算」
「第1節 要旨」(戦例:第2次大戦の独の対ソ作戦=スターリングラード及びコーカサスに向かう攻勢)
「第2節 攻勢転移」(戦例:マルヌ会戦におけるジョッフル攻勢、アウステルリッツ会戦)
「第3節 攻勢終末点」
「第4節 延翼包囲競争」(戦例:第1次大戦の西方戦場における延翼包囲競争)
「第2章 追撃と退却」
「第1節 追撃」(戦例:独山追撃作戦)
「第2節 退却」(戦例:インパール作戦における第33師団の後退行動)
「第7編 特殊地形等の作戦」
「第1章 要旨」
「第2章 地形的特殊性に基づく作戦(戦闘)」
「第3章 夜暗等を利用する戦闘」(戦例:弓張嶺付近における第2師団の夜間攻撃)
ちなみに、このBlogの前身であるココログ時代の2007年に書いたこの紹介記事は、昔も今も、トップアクセス数を誇る人気記事になっている。それだけ、この手の戦術教本に興味をお持ちの方が多いのだろうし、情報も少ないのだろう。なかなか入手は難しいかと思うが、もし見かけたら、是非手に入れて頂きたい一冊である。だったら売るなよと言われそうだが、多分、自分が売り払った一冊も、今頃は、誰かのお役に立っているんじゃなかろうか……(^_^;)