Wargaming Esoterica

After Action Reports & Reviews of Simulation War Games ほぼ引退した蔵書系ウォーゲーマーの日記

「Pacific War」Coral Sea Solo-Play AAR

f:id:crystal0207:20210221152538j:image

昨年末に購入したVG「Pacific War」にそろそろ触れてみようと、短期戦シナリオ「珊瑚海海戦」をセットアップ。このシナリオは、ルールブック中にもリプレイが掲載されており、まずはそれを読みながら、書いてある通りに動かしてみた。本作は、戦略/作戦レベルながらも、索敵やら、発見した敵戦力の誤認も取り入れられており、あまりソロプレイ向きではないのだが、まあ仕方ない。とりあえず図表の見方なども分かったので、またセットアップし直し、今度は自分なりに動かしてみた。 

f:id:crystal0207:20210221153056j:plain

と言っても、序盤のプレイヤー接触フェイズ(現場海域に向かう戦略移動フェイズみたいなもの)は、リプレイと同様に動かしてみた。日本軍は、トラックにいた第5航空戦隊(空母瑞鶴、翔鶴)を6ヘクス移動させ、ラバウルからは工兵連隊を乗せた輸送船を含む第18戦隊を、これまた6ヘクス先のガダルカナル島へと送り込んだ。このシナリオの勝利条件は、日本軍がガダルカナル島ポートモレスビーの双方を占領することで決まるため、まずはガ島からと。

これに対して警戒態勢にあった連合軍は、日本軍が移動したのと同じヘクス数だけ移動できるため、ヌメアから第17任務部隊(空母レキシントンエンタープライズ)が6ヘクス前進。タウンズビルからも、米英重巡戦隊が出港したが、この段階では戦闘は無かった。

この「自分が動いた分だけ相手も動ける」システムは、なかなか面白い。遠方の基地から長駆して目標へ接近すれば、相手方にもそれだけの時間的余裕を与えてしまうし、なるべく敵が対応できない前進基地から作戦を開始することも重要になってくるのだろう。恐らく大戦後半の、連合軍の飛び石作戦(とその陽動作戦)を再現するにも向いていると思う。

f:id:crystal0207:20210221152553j:image

両軍が接触フェイズを終えた後は、戦闘サイクルへと入る。このシナリオでは、日本軍が作戦実施プレイヤーだが、戦闘サイクルで先手となる優勢プレイヤーは、また別にダイスを振って決定する。リプレイでは、戦闘サイクルでも日本軍が先手を取って、ガダルカナル島に工兵隊を上陸させていたが、今回は連合軍が先手を取った。

ここで米第17任務部隊は、ガダルカナル島へ接近し、上陸部隊を乗せた日本軍第18戦隊を索敵にて発見。すぐさま2隻の空母から攻撃隊を発艦させた。この動きを、日本軍側も探知したものの、直掩機がいるわけでもなく、対空射撃を行ったが、攻撃隊はノーダメージ。そしてアメリカ軍攻撃隊は、輸送船に1ヒットを与え、これに乗船していた工兵隊はその2倍の2ヒットを食らい、上陸寸前に海没してしまった。

後手の日本軍は、第18戦隊をガ島から撤収させたが、次の戦闘サイクルでも連合軍が優勢プレイヤーとなり、再び索敵にて発見され、2度目の空襲を食らって、水上機母艦が1ヒットを被ってしまった。

さらに3つ目の戦闘サイクルでも、連合軍が先手となり、勢いづいた米第17任務部隊は、いよいよ日本軍第5航空戦隊を発見。これに対しても攻撃隊を発艦させたが、この攻撃も日本側に察知され、迎撃に上がった空母機との間で空中戦が展開された。しかしどちらも1ヒットを被っただけで、米攻撃隊は日本軍空母を狙ったものの、戦果も無し。米攻撃隊は、そのまま空母へと帰投した。 

f:id:crystal0207:20210221152601j:image

返す刀で、今度は日本軍が、米第17任務部隊の索敵に成功。空母瑞鶴・翔鶴からの攻撃隊が発艦した。やはり米空母機からの迎撃も受けたが、日本軍の2個艦載機ユニットは対空砲火もくぐり抜け、空母ヨークタウンへ攻撃を集中。見事これに5ヒットを与えて、史実同様に撃沈した……というところで、今回のソロプレイを終えた。

うん、まあ、たしかに独特なシステムだし、上手くやりくりするには、ある程度続けてプレイして修練を積んだ方が良さそうだ。ただ自分の場合、本作を何度もやりこむよりは、すでに慣れつつあるTSWWの海空戦シナリオをやりこんだ方が良いんじゃないかという気もしている。微妙だなあ。どちらも作戦レベルの海空戦なのだけれど、本作の方が、隠匿要素が強い分、対人戦寄りだしなあ。TSWWのように、駆逐艦1隻まで表現されていたり、機種毎の違いとか見える方が自分としては好みかも。近いうちに再版されるであろうGMT版もどうすっかな…… 

MMP「PanzerBlitz:Carentan」(Operations Special Issue #2)

f:id:crystal0207:20210217105530j:image

「PanzerBlitz:Hill of Death」を買ったついでに、同じく2009年に発売されていた「Operations Special Issue #2」がまだクロノノーツゲームさんに在庫があったので、こちらも購入。この付録は「Hill of Death」と同システムの「Carentan」だったので。もちろんこちらも、1944年のノルマンディ戦線、カレンタンの街を舞台とする、ヒストリカル戦術級モジュールになっている。 

f:id:crystal0207:20210217105538j:image

地図盤はハーフマップサイズ。シナリオは2本付いている。 

f:id:crystal0207:20210217105546j:image

「Hill of Death」ではイギリス軍・ドイツ軍のみが登場したが、こちらの「Carentan」ではアメリカ軍・ドイツ軍が登場。アメリカ軍ユニットは、M4シャーマン、M10駆逐戦車、M8グレイハウンド装輪車、歩兵、空挺歩兵とオーソドックスな構成だが、ドイツ軍ユニットは「Hill of Death」には入っていなかったIV号突撃砲、ヴィルベルウィンド対空戦車、Sdkfz234/2プーマ装輪車、Sdkfz250/8・7.5cm自走砲などが登場している。こういった追加ユニットやモジュールが継続して出ていれば、このシリーズももう少し注目されたかもしれないが……

f:id:crystal0207:20210217105553j:image

ちなみにこの号の付録には、かつて翔企画のSSシリーズ第1弾として発売された「ロンメルアフリカ軍団」の英語版「Bravery in the Sand」も付いている。デザイナーの鈴木銀一郎氏は、先月亡くなられ、あいにく自分の手元にはもう鈴木氏デザインのウォーゲームはひとつも無いのだが、これがあれば追悼プレイも出来るかもしれない。

そしてこの「Operations Special Issue」シリーズ、結局、発売から10年以上経って、1号から3号まで全部買い揃えてしまった。この2号も、よく見れば「GTS:The Devil's Cauldron」の追加キャンペーンシナリオが付いており、だったら当時買っておけよと思うのだが、ちょうどお金が無い時期だったり、逆にいろいろ手を出しすぎて注意力が散漫な時期でもあったからなあ。それでも、こうして無事に入手できたので、結果オーライということで。 

MMP「PanzerBlitz: Hill of Death」

f:id:crystal0207:20210216171511j:image

先日、MMP社で品切れ商品のデッドストックが見つかったというアナウンスがあったので、その中から2009年に発売された「PanzerBlitz: Hill of Death」を購入した。これ発売当時、『遂にアバロンヒルのPanzerBlitzも復活か?』と気にはなったものの、舞台はノルマンディ戦線、しかもカーン近郊の112高地の戦闘だけを扱うというシロモノで、ちょっと様子見しているうちに品切れてしまった。発売当時は『Blitzなのに西部戦線なの?』とか『米英独軍全部が入っているんじゃないんだ?』という違和感もあったが、ヒストリカルな地図盤での小隊級というアイデア自体は好みだったし。

この作品は以前、サンセットゲームズでも和訳付きで販売されていたため、今回はその日本語ルールだけサンセットから取り寄せてみた。今から訳すの面倒だしね。

ちなみに112高地の戦闘については、3年前に「GOSS:Atlantic Wall」で、まさにその112高地シナリオをプレイしているので、そちらをどうぞ。 

f:id:crystal0207:20210216171520j:image

地図盤は1ヘクス=250ヤード(約228メートル)、1ターン=15分間と、旧「PanzerBlitz/Leader」とは若干スケールが異なっている。システムは、双方が1枚ずつ作戦チットを引いて、射撃・移動・回復の順でユニットを動かし合う。各作戦チットには、0、1、2という活動範囲が記されており、引いたチットを地図盤上に置くことで、その範囲内のユニットを活性化していく。 

f:id:crystal0207:20210216171529j:image

戦闘は、対歩兵射撃(AP)は戦闘比で解決し、対装甲射撃(AT)は火力差で解決するが、結果表は同じものを用いる。もちろん、臨機射撃や、装甲ユニットによるオーバーラン、突撃射撃、歩兵による近接突撃(CAT)、乗車歩兵によるパンツァーブリッツ攻撃、それらに対する防御射撃、間接射撃と煙幕など、ひととおりの戦術的手段は揃っている。 

f:id:crystal0207:20210216171538j:image

こちらは、イギリス軍カウンター。さすがに今風のグラフィックで、火力・射程・防御力・移動力という数値の並びも旧「PanzerBlitz/Leader」と同じ。ただし火力に関しては、対装甲火力と対歩兵火力が記されている。また裏面はステップロス面になっている。 

f:id:crystal0207:20210216171546j:image

こちらはドイツ軍カウンター。旧「PanzerBlitz/Leader」では、歩兵は兵科マークだったが、こちらではイラスト化されている。

このように、基本的にはタイトル通り「PanzerBlitz/Leader」の流れにはあるものの、システム的には、ほぼ別物という印象である。まあ、ルールにしろグラフィックにしろ好みはあると思うし、デザイナー自身もそのあたりは百も承知らしい。デザイナーズノートにも『もしあなたがこのルールを読んだら、我々がこのクラシックな作品にやったことに対して憎しみを感じるかもしれない』『この作品を憎む人もいるだろうし、愛する人もいるだろうし、気にしない人もいるだろう』と書いてある。ちなみにこのデザイナーズノートは、サンセットゲームズの和訳では割愛されているのが残念。実際のプレイには必要無いけれど、こういうところ、大事よ。 

f:id:crystal0207:20210216171555j:image

シナリオは8本、いずれも1944年6月~7月に行われた、112高地を巡る戦闘のみ。地図盤の一部だけ使うシナリオが大半なので、軽くプレイするには良いかもしれない。 

しかしこの作品、わざわざ「PanzerBlitz」というタイトルを復活させただけに、シリーズ化するかと思いきや、この後、雑誌に追加モジュールが付いた程度で終わってしまい、ちょっと尻切れトンボ的な印象があった。ただMMPでは、東部戦線を扱う「PanzerBlitz:Red wave」のテストプレイも進めているし、十数年ぶりに続編が出るなら、そちらも入手したいと思う。軽そうなシステムなので、そのうちプレイもなんとか……

【Advanced Squad Leader】「ASL Starter Kit Expansion Pack #1, 2nd Ed」

f:id:crystal0207:20210215175425j:image

MMP社から直接「ASL Starter Kit Expansion Pack #1, 2nd Ed」を購入。これ元々は、2011年に発売され、数年前にも初版の形で再版されたはずだが、あいらくどちらも買い逃していたシロモノ。我ながら、いったいなぜ買い漏らしたのかさっぱり分からない。多分、もうすでに買ったと思い込んでいたのか、それとも2011年は、まだTRPGも一般ボドゲMtGもしていたし、さらにミニチュアゲームも(この年だけ)していたので、注意力が散漫になっていたかもしれない。それでも初版から10年経って、すでに品切れの「ASL Starter Kit Bonus Pack #1 Beyond the Beaches」(2009年発売)を含めて第2版として再版され、こうして入手できたから、まあ良しとしよう。

f:id:crystal0207:20210215175433j:image

地図盤は4枚。初版では地図盤「q」「r」「s」の3枚だったが、この第2版では「Bonus Pack #1」に入っていた「p」が追加されている。あくまでASL入門者向けのスターターキットの追加パックなので、地形もごくオーソドックスで、ややこしいルールは必要ではないと思う。 

f:id:crystal0207:20210215175543j:image

追加カウンターは、枢軸中小国軍が多め。

f:id:crystal0207:20210215175551j:image

シナリオは12本。こちらも初版ではシナリオS44~S51の8本だったが、やはり「Bonus Pack #1」に入っていたS41~S43、S59(2017年の再版時に追加)が加えられている。

まあ、いつものことながらASLは、ずーっと商品を整備していながら、全然プレイはしておらず、いかんな~とも思うけれど、コレクション的な楽しみもあるので。一応、自分の中では、もしこの先、大不況が来て、ウォーゲームメーカーが軒並み潰れて新作が出なくなったら、その時はいよいよ、という感じで、買い溜めたASLを消化していくのかもしれない。ある意味、最後の切り札よ。

【C3 Series】「The Dogs of War」

f:id:crystal0207:20210211111025j:image

イタリアのThin Red Line Gamesの新作「The Dogs of War」が到着。2019年に購入した、仮想第三次世界大戦・C3シリーズ「Less Than 60 Miles」に続く、シリーズ第2弾である。すでに「Less Than 60 Miles」も売り切れだが、今回の「The Dogs of War」も、今年1月12日から発売が開始され、1月25日には売り切れており、いったい何個制作したんだと。このメーカーの作品は、出たら即買いしかない。

このシリーズは、SPIの「Central Front」シリーズと同じく、1985年夏、西ドイツへ侵攻したワルシャワ条約軍を、NATO軍が迎え撃つ状況を連隊~大隊規模で表現し、そこへ「NATO Division Commander」のような命令システムを搭載したという、仮想WWIIIゲームファンには、たまらない構成になっている。最近、1980年代の仮想WWIIIゲームも多く出版されているが、自分としてはイチオシのシリーズである。 

f:id:crystal0207:20210211111045j:image

その第2弾である本作は、『良きフォークランド(紛争)の日々は終わった』とあるように、主役は、ライン川駐留イギリス軍(通称BAOR:British Army of the Rhine)。地図盤は「Less Than 60 Miles」の北部に隣接するようになっており、北ドイツ平原に位置する大都市ハノーバー周辺を包括している。言うなれば「Central Front」シリーズでこのテーマを扱った「BAOR」のリメイク作とも言える。

このシリーズの作戦想定としては、攻めるワルシャワ条約軍は、中央のフルダ峡谷(Less Than 60 Milesの地図範囲)ではなく、こちらの北ドイツ平原を主攻勢軸としている。たしかにフルダ峡谷には、精強なアメリカ軍部隊が待ち構えているし、そこへ正面から主力を叩き込むよりも、地形的にも平坦な北ドイツ平原を指向するのは納得。昔なつかしいジョン・ハケット著の仮想戦記「第三次世界大戦」でも、ワルシャワ条約軍は北ドイツ平原を突っ切ってオランダまで侵攻したし、トム・クランシーの「レッドストーム作戦発動(ライジング)」でも、このハノーバーの南から、ウェーザー河を目指す戦闘経緯が主に語られていたので、そのあたりを読みながら地図を眺めると、雰囲気作りに役立つと思う。 

f:id:crystal0207:20210211111056j:image

今回登場する部隊は、NATO軍側が、もちろんイギリス・ライン川軍団に加えて、西ドイツ軍、ベルギー軍。ワルシャワ条約軍側は、 すべてソ連軍になっている。そう、やはりワルシャワ側としては主攻勢軸なので、頼りにならない衛星国の部隊(ポーランドやらチェコ東ドイツ軍)は投入していないのだろう。

f:id:crystal0207:20210211111108j:image

こちらが本作の主役、イギリス軍カウンター。シナリオ的には1985年夏想定なのだけれど、もうチャレンジャー1戦車って実戦配備されていたのだろうか。一応、イギリス軍戦車大隊の中には、アメリカ軍のM-1戦車大隊と同じく「攻撃力6-防御力5」という頼もしいユニットも垣間見える。「5-4」戦車大隊は、まだチーフテン戦車装備か? 

f:id:crystal0207:20210211111118j:image

こちらは、西ドイツ軍カウンターの裏面。シリーズ前作「Less Than 60 Miles」では、戦闘ユニットの裏面には何も書かれていなかったが、本作から、そのユニットが良く用いるであろう態勢が記された面が印刷されている。たしかに実際プレイした際、一部の状態カウンターが足りなくなったので、これはありがたい処理。まあ、できれば「Less Than 60 Miles」のカウンターも、この仕様で出し直してほしいが。 

f:id:crystal0207:20210211111127j:image

こちらは、ベルギー軍ユニット。恐らくまだレオパルド1戦車装備(5-4)、機械化歩兵はM113装甲兵員輸送車装備(2-5)で、フォーメーション的にも数が少なく頼りない。 

f:id:crystal0207:20210211111136j:image

対するソ連軍は、さすが主攻勢軸だけあって、カテゴリーAクラスの親衛戦車連隊(8-6)がぞろぞろいる。 しかし我が家に届いたソ連軍カウンターシートは、若干印刷がズレていて、部隊番号の頭が切れているユニットも多々……もうちょっと頑張りましょう。※追記:後日、メーカーから、正しく印刷されたカウンターシートを送ってもらいました。

f:id:crystal0207:20210211111146j:image

カウンターシートは全7枚。過半数はマーカー類。 

f:id:crystal0207:20210211111153j:image

イベントカードは、両軍合わせて45枚。「Less Than 60 Miles」には無かったカードは、NATO側では「Wallmeister(橋梁の爆破)」「ポーランドの叛乱(ワルシャワ軍の再補給が減る)」、ワルシャワ軍側では「バルト海の危機(NATO軍の航空支援を吸引)」 「第76親衛空挺師団の投入」等。

f:id:crystal0207:20210211111202j:image

「Less Than 60 Miles」と「The Dogs of War」を連結すると、このような形に。我が家の150cm✕90cmテーブルには乗り切らないので、もしプレイするならVASSALかなと。まあ、マップ1枚だけでも結構、プレイが重たいゲームなので、個人的に連結プレイまで出来るんだかどうだか。とは言え、前作も軽く一度プレイした程度なので、ルールが再整理されたこの機会に、また触れてみたいと思う。

【参考文献】ロベルト・ポラーニョ「第三帝国」

第三帝国 (ボラーニョ・コレクション)

第三帝国 (ボラーニョ・コレクション)

 

2016年に翻訳が出た、チリ出身の作家ロベルト・ポラーニョの小説「第三帝国」を読了。この小説は、主人公がドイツ人ウォーゲーマーであり、アバロンヒルの「第三帝国(Rise and Decline of The Third Reich )」のチャンピオン……という触れ込みだったし、自分も最近、その「第三帝国」の発展版である「A World at War」に触れようかと思っているので、プレイする前の雰囲気作りとして読んでみた次第。

しかし翻訳者氏もあとがきで『ウォーゲームという類いのものに馴染んでいる人は、果たしてどれだけいるのか分からない』『(第三帝国は)すでに入手が困難で、私はそれがこの小説内のゲームと同一のものなのかどうか確かめられなかったのだが(実物を取り寄せたからといって確かめられただろうか?)』と書かれているように、ラテンアメリカ文学に造詣は深いのであろうが、あいにくウォーゲーム的な素養はお持ちではなかったようだ。そこでこの記事では逆に、文学的素養を抜きにして、ウォーゲーム的な観点からのみ、この「第三帝国」という小説を見ていこうと思う。

まず、主人公ウド・ベルガーは、恋人インゲボルクと共に、スペインの避暑地に長期休暇にやって来る。しかしウォーゲーム同人誌活動もしているウドは、ゲーム仲間のコンラートから「第三帝国」の作戦記事を書くように言われ、その休暇旅行に「第三帝国」も持参していた。彼女との旅行にウォーゲームを持って行く段階で、おいおいと思うし、ホテルに着くなり、ゲーム盤を広げる大きなテーブルを持ってこいと言い出すあたり、早くも序盤で、ウドのイタさが伝わってくる。

主人公ウドは、彼女がビーチで日光浴をしている間に、部屋でちまちまと「第三帝国」のヴァリアントを試し、彼が言う「有意義な時間」を過ごした後、ビーチに行って彼女と合流するのだが……

僕はちょっとした興奮状態にあったので、普段はやらないことだけれども、自分のゲームのオープニングについて事細かに語って聞かせたのだが、その話をインゲボルクは誰かに聞かれるといけないと言って遮った。(中略) じきに気づいたのだが、インゲボルクは僕のことを、僕が発する言葉(歩兵部隊とか装甲部隊、空中戦の物資補給、ノルウェー予防侵攻、39年冬の対ソヴィエト連邦攻撃作戦を始める可能性、40年春、フランスを完膚なきまでに打ちのめす可能性)を恥ずかしく思ったのだ。まるで僕の足下に溝ができたみたいだった。(p41)

……イタい……イタ過ぎるよ、ウド。彼女と浜辺にいるのに、嬉々として「第三帝国」の話に興じるあたり、まるで自分のことのように胸が痛いわ。て言うか、お前よくそんなんで彼女できたな! 

しかし友人のコンラートもご同様で、

稼いだ金で家賃を払い、いまや家族の一員としてみなされるほど通い詰めた安食堂で食事し、ごくたまに服を買い、残りはすべてゲームに費やしている。ヨーロッパやアメリカの雑誌を定期購読し、クラブの会費を払い、本を何冊か買い(数は少ない。というのも普段は図書館を利用するからだ。そうして節約したお金で少しでも多くのゲームを買う)、寄稿している地元のファン雑誌をヴォランティアで手伝っている。(p33)

とあって、ああ、いつの世も、どこのウォーゲーマーも同じだなと。

彼(コンラート)は僕に、発行部数の多い印刷物に書くようにと勧めてくれた人物でもあるし、僕にセミプロになるよう何度も主張し、納得させた人物でもある。「前線」「シミュレーション・ゲーム」「防御柵」「戦争の大義」「将軍」等々の雑誌とコネができたのは彼のおかげだ。(p34) 

雑誌「将軍」……もちろんこのBlogをお読みのウォーゲーマー諸氏ならすぐ分かるように、これアバロンヒル社の「GENERAL」誌のことだろう。

また序盤で、主人公ウドが、ハイミト・ゲルハルトなる、65歳の老練なウォーゲーマーと「ヨーロッパ要塞」(アバロンヒルFortress Europaだろう)を対戦するシーンがある。この人物、実在かどうかは分からないが、ちょっと故・鈴木銀一郎翁を思わせるキャラクターでもあり、どこの国にもそういった人はいるのだなあと感じた。またこのハイミトが、旧ドイツ軍に所属していたとあるが、その部隊が「第二大隊九一五連隊三五二歩兵師団」と訳されているが、日本語に訳すなら師団・連隊・大隊の順かなあと。ちなみにノルマンディ戦でいうと、バイユーの東に配置されていた大隊かと。

そしてここで、主人公ウドが、ドイツ国内のウォーゲーム・チャンピオンになる過程が語られているのだが、そこをよく読むと……

そしてシュトゥットガルトのトーナメント戦の日がやって来た。その何ヶ月後にはケルンで地域対抗戦(ドイツ選手権に匹敵するもの)が開かれた。(p34)

こうして僕は、シュトゥットガルト代表の座を手に入れた。(p35)

準決勝と決勝は「勝ち抜き電撃戦」で戦われた。かなり均衡の取れたゲームで、地図も対戦する両陣営(グレート・ブルーとビッグ・レッド)も架空のものだ。(p36)

恐らく翻訳者の方は「勝ち抜き電撃戦」というのが、「第三帝国」のゲーム上の戦術名だと勘違いされたのではないだろうか。実際、この前段で「ウクライナ捨て駒作戦」という「第三帝国」の戦術名も出てくるし、それと混同されたらしい。しかしウォーゲーマー諸氏なら、ブルーとレッドが戦う「電撃戦」と言えば、アバロンヒルの「電撃作戦(Blitzkrieg)」だなとすぐ分かるはず。

いやでもこれ、地方大会と全国大会でプレイしているゲームが違うというのも、ウォーゲーマーからしても驚きだし、そんな方法のトーナメント大会なんてあるんだと思ったぐらいだから、翻訳者の方が分からなくても仕方ない。ということで、この小説は、主人公が「第三帝国」のドイツ・チャンピオンで……というのが売り文句だが、正確に言うなら「第三帝国」で地方大会を勝ち抜き、「電撃作戦」で全国大会のチャンピオンになったと。

さて休暇中の主人公のもとには、友人コンラートからの手紙も届く。もちろん「第三帝国」の記事を書けという催促だし、内容はウォーゲームのことばかりだ。

(友人達と)お前が休暇から戻ったらすぐにも「第三帝国」の一番をやるつもりだ。最初はGDW社のヨーロッパ・シリーズはどうかと言っていたが、それは思いとどまらせた。お前が二ヶ月以上もプレイを続けることに同意するとは思えないと。(p120)

コンラート、分別があるじゃないか(笑)。もちろんGDWのヨーロッパ(エウロパ)シリーズは、かなり面倒な類いの作戦級ゲーム。

「襲撃」シリーズの「ブーツと鞍」と「ドイツ国防軍」(p120)

これも分かる人ならすぐ分かる、GDWの仮想第三次大戦戦術級ゲーム「Assault」とその続編「Boots & Suddles」「Bundeswehr」。しかし「Bundeswehr」の発売が1986年なので、この小説の時代も、1986年以降ということになる。実際、この小説が書かれたのは、1989年とのこと。

今では古くさい「分隊長」を売り払いたがっていて(p120) 

これも恐らく、アバロンヒルの「Squad Leader」のことだろう。このようにゲームタイトルは直訳気味だが、物語自体にはさしたる影響はない。

物語後半では、主人公ウドが、ビーチで出会った「火傷」という男と「第三帝国」を対戦することになる。もちろん「火傷」はウォーゲーム初心者であり、練達のウォーゲーマーであるウドが技量的には優っている。枢軸側を担当したウドは、順当にポーランド、フランスを占領し、地中海ではジブラルタルを奪い、 東部戦線ではモスクワまで落とし、西部戦線ではイギリス本土上陸までやってのける。しかし連合軍側を担当する「火傷」はゲームを諦めず、毎晩、ウドが泊まっているホテルに「第三帝国」をプレイしにやって来る。「火傷」は、いつの間にか「第三帝国」のルールブックのコピーを手に入れて作戦を練り、夜の浜辺で謎の人物からプレイの手ほどきを受け、徐々に劣勢を跳ね返し……という展開になっていくが、そのあたりまで細かく書くのは止めておこう。ウドと「火傷」の対戦経過は、ヘクス番号まで詳しく書かれている部分もあるので、実際の「第三帝国」と照らし合わせてみても面白いと思う。

この記事では、ウォーゲーム的な部分にのみ焦点を当てたが、小説としては現代幻想文学的な匂いもするし、ポラーニョの死後に発見された遺稿ということで、不思議な読後感を覚えた。まあ、そういった文学的評論は誰かに任せておこう。

いずれにしろウォーゲーム、それも「第三帝国」という特定のタイトルをモチーフにして、対戦経過までがっつり含んで小説になっているというあたり、酷く魅力的に感じた。そしてもし自分が恋人と旅行に行くなら、ウォーゲームだけは持って行かないぞと思ったり……(^_^;) 

【参考文献】オングストローム&ワイデン「軍事理論の教科書」

新刊「軍事理論の教科書」を購入。著者は、スウェーデン防大学の教授&准教授というコンビで、原書出版も比較的新しい。一般的な戦略論・戦争論も述べられているが、第4章以降で語られる、作戦術、戦いの原則、統合作戦、陸上作戦、海上作戦、航空作戦といった具体的な軍事理論がメインかと。作戦術にわざわざ一章を割いているのも興味深い。戦いの原則として、主導、集中、機動、奇襲、士気など、ウォーゲームでもよく表現される理論が簡潔に説明されているし、陸上作戦で言えば、機動戦と消耗戦、航空作戦で言えば、OODAループなども紹介されているので、たしかに教科書的に使えるなあと。

こういった軍事理論書とウォーゲームを交互に眺めて、『このルールは、この戦いの原則を表現しているんだな』とか『この軍事理論を表現しているウォーゲームってあるのかな?』 などと行ったり来たり、読んだりプレイしたりするのが、豊かなウォーゲーム的スローライフの楽しみだと思う。