Wargaming Esoterica

After Action Reports & Reviews of Simulation War Games ほぼ引退した蔵書系ウォーゲーマーの日記

【Company Scale System】「The Little Land : The Battle of Novorossiysk」

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プレオーダーしていたCSS(Company Scale System)第5弾「The Little Land : The Battle of Novorossiysk」が到着。本作のテーマは、1943年2月、すでにスターリングラードで敗北したドイツ軍がコーカサス方面から撤退する中、その後退を阻止するために、ソ連軍が黒海沿岸のノヴォロシースク(Novorossiysk)付近に上陸するというもの。1982年にPWG(Peoples War Games)から発売された「Black Sea Black Death」と同じテーマと言えば、分かる人には分かるかもしれない。

史実では、主上陸部隊第一波は、オセレイカ(Yuzhnaya Ozereyka)付近に夜間に上陸し、少数ながら空挺部隊も降下している。しかしそれに続く第二波以降が「夜のうちに艦隊は海岸より離れる」という命令通り、上陸部隊を乗せたまま引き返すという前代未聞の行動に。当然、取り残された第一波は、ドイツ軍とルーマニア軍の守備隊に撃滅されてしまった。

ところが、これと並行して行われたソ連海軍歩兵コマンド部隊による、ノヴォローシスク近郊への陽動上陸作戦は、逆に成功。ソ連側としては、オセレイカでの失敗を帳消しにするためにも、このノヴォロシースク近郊に築かれた小さな海岸堡=「The Little Land(小さな土地・寸土)」を是が非でも確保せんと、本来はオセレイカに上陸させるはずだった部隊を投入。以後、7ヶ月に渡って、この海岸堡を巡る戦闘が続いたが、本作で扱うのは、最初の1週間のみである。 

しかしこのノヴォロシースクでの戦闘について、日本語で読める文献と言えば、今となっては悪名高くなってしまったパウル・カレルの「焦土作戦」ぐらいしかない。

独ソ戦史 焦土作戦〈上〉 (学研M文庫)

独ソ戦史 焦土作戦〈上〉 (学研M文庫)

 
マーラヤ・ゼムリヤ―ブレジネフ回想録 (1978年)

マーラヤ・ゼムリヤ―ブレジネフ回想録 (1978年)

 

ちなみにこの戦いには、後のソ連書記長となる、レオニード・ブレジネフが政治委員として参加し、本作でも、英雄カウンターとして登場している。しかしその効果は『プレイヤー自身が、どれだけブレジネフの個人的英雄譚を信じているかに左右され、2つの効果(配置されたユニットの損耗を軽減できるか、逆に配置されたユニットの混乱を増大させるか)のうち1つを選べる』というもの。プロ司書であるN村さんの調査によれば、ブレジネフ書記長の回想録の日本語版も出ているそうだが、これが国会図書館他、わずかな在庫しか無いらしい。またN村さんによって、この戦闘に関する裏話的な「ブレジネフ大佐の小さな場所、あるいは資料のウラオモテ」という論文も発見されたので、ご興味のある方は是非。

http://maisov.if.tv/r/index.php?LittleLand

一応、ゲームデザイナーのAdam Starkwetherのオススメ書籍は、オスプレイ・キャンペーン・シリーズの「The Kuban 1943」なので、こちらを発注してみた。 

The Kuban 1943: The Wehrmacht's Last Stand in the Caucasus (Campaign)

The Kuban 1943: The Wehrmacht's Last Stand in the Caucasus (Campaign)

 

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さて本作のゲームマップは2枚。CSSとしては、小振りな方か。スケールも、以前と同じく1ヘクス=500m。ちなみに「Black Sea Black Death」が1ヘクス=800mなので、さらに細かくなっている。 

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こちらが、上陸に失敗したオセレイカ付近。たしか東西の高地上に、枢軸軍の砲台があって、両側から砲撃されたはず。 

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こちらが海軍歩兵コマンド部隊が上陸に成功した「The Little Land」付近。「Mud Baths(泥風呂)」というヘクスもあるが、名物だったのだろうか? 

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カウンターシートは、7.5枚。カウンター総数1320個。こちらは、目にも眩しいソ連軍ユニット。特にドギツいピンク色ユニットが、黒海集団のペトロフ将軍麾下の部隊。この黒海集団と、第8親衛狙撃旅団は、最大部隊練度(Troop Quality)6となかなか頼もしく、登場する枢軸軍部隊を上回っている。しかし指揮値(Command Rating)1の部隊も多く、やる気はあるけれど、融通は効かないという、なるほどソ連の精鋭部隊っぽい評価だなと。戦車ユニットも多少入っているが、T70戦車や、レンドリースのM3スチュアート戦車は頼りなく、マチルダ戦車は足が遅い(移動モードでも6しかない)。それに比べるとT34/76は、さすが良く出来ているなあと。また英雄カウンターには、ブレジネフ政治委員の他にも、陽動上陸部隊の指揮官クニコフ(Kunikov)少佐も登場。そして先のCSS太平洋シリーズでの「バンザイ突撃」ルール同様の「人海戦術」ルールもあり。 さらにアゾフ艦隊の艦砲支援や、航空支援もあり。特にイリューシン2型「シュトルモビク」は、火力7という恐るべき破壊力。

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対する枢軸軍は、ドイツ第73、第125歩兵師団と、ルーマニア第10歩兵師団(写真右上の薄緑色ユニット)が登場。史実では主上陸部隊を撃退したルーマニア第10歩兵師団だが、最大部隊練度3とかなり頼りない。一応、ドイツ供与らしい88mm砲中隊が3個あるし、砲台と合わせれば、第一波ぐらい撃退できるのだろう。しかしドイツ軍の2個歩兵師団にしても、最大部隊練度5と、ソ連軍に劣っている。装甲戦力も、III号F型、III号突撃砲が多少いる程度。まあ、ソ連軍も大量の戦車を持っているわけではなし、マーダーIII対戦車自走砲でなんとかするしか。 

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そして本作から、今までチャートに印刷されていた「戦場で使い込まれた汚れ感」が削除され、きれいな印刷物になっている。CSSでは、第1作「Saipan」から第4作「Montelimar」まで、戦場の雰囲気を出すためだけに、あえてチャートに「汚れ」が印刷されていたが、当然のように購入者からは『なぜそんなことを?』『要らない雰囲気作り』『チャートが見にくい』と大不評だったので、ようやく是正されたということか。 なんなら今までの4作のチャートも印刷し直してほしいわ。

シナリオは、キャンペーン含めて4本。オセレイカ方面、ノヴォロシースク方面だけのシナリオならマップ1枚で済むので、プレイの敷居は低そうだ。

しかし振り返って見ると、CSSでは初めてとなる東部戦線モノだし、兄貴分のGTS(Grand Tactical Series)でもいまだに東部戦線モノは発売されていない(クルスクという企画もあったが、立ち消えになったか)。つまり、1984年の元祖「Panzer Command」以来、35年ぶりにこのシステムが東部戦線に帰還したとも言える。そう考えると、なかなか感慨深いなと……