イタリアの新興メーカー、Thin Red Line Gamesの新作にして、C3シリーズ第1弾「Less Than 60 Miles」を購入。このThin Red Line Gamesは、昨年2018年に、デビュー作「1985:Under an Iron Sky」を発売したが、それがなんと、かつてSPIから発売されていた1980年代の仮想・第三次世界大戦ゲーム「The Next War」を今風のグラフィックでリメイクした作品だった。
それに続くメーカー2作目となるこの「Less Than 60 Miles」は、やはり同じく1985年想定の第三次世界大戦モノだが、一応オリジナルシステム……しかしルールを読んでみると、どう考えてもSPIの「Central Front」シリーズと「NATO Division Commander」のハイブリッド=魔合体のような作品だったので、ついつい手を出してしまった。このC3シリーズも「Central Front」シリーズ同様、全5作で欧州中央戦線をすべてカバーするらしい。ああ、もう所有ウォーゲームはWWIIモノだけに限定しようと思っていたのに、冷戦真っ只中の1985年当時に青春を送ったウォーゲーマーとしては、こんなモノを出されて買わないワケにはいかなかった……
C3シリーズ5作の連結図:https://trlgames.com/wp-content/uploads/2019/01/CFP-v2.jpg
さてそのC3シリーズ第1弾「Less Than 60 Miles」は、欧州中央戦線のまさにど真ん中、東西国境線の、いわゆるフルダ峡谷から西ドイツの大都市フランクフルトへ向かう戦域を扱っている。まさにSPIがかつて発売していた「Fulda Gap」「Fifth Corps」「NATO Division Commander」が扱っていた地域であり、当時ベストセラーとなったジョン・ハケット著「第三次世界大戦」も、このフルダ峡谷でのアメリカ第11機甲騎兵連隊の戦闘シーンから始まるのは、当時を知る80's現代戦ウォーゲーマーならご存じのはず。
ヘクススケールは、1ヘクス=5km。マップは1枚のみだが、通常のA1サイズよりやや横に長い。恐らく地図盤西端に、ワルシャワ条約軍の目標であるライン川を収めるためだろう。
ちなみに自分がウォーゲームに入門して2番目に買ったのがSPI「NATO Division Commander」なので、懐かしい地名を見つけて『Flitzlarよ、私は帰ってきた!』と叫びたくなる衝動に駆られた(^_^;)
想定としては、例の如く、ソ連を主体とするワルシャワ条約軍が西ドイツに侵攻し、それをNATO軍が迎え撃つもの。攻めるワルシャワ条約軍中央軍集団には、ソ連第1親衛戦車軍、ソ連第8親衛機械化軍、東ドイツ第3軍などが登場。守るNATO軍は、アメリカ第5軍団管轄として、アメリカ第3機甲師団、アメリカ第4・第8機械化歩兵師団、アメリカ第11機甲騎兵連隊、西ドイツ第5装甲師団などが登場。
そう言えば中学1年生の時に「NATO Division Commander」を買った際、タイトルに「NATO」と入っているから、きっと西ドイツ軍やイギリス軍も入っているだろうと思ったら、米ソ軍のユニットしか入っておらず、酷くガッカリした思い出がある。ああ、当時の自分が求めていたモノは、まさにこれだよ……
ワルシャワ条約軍ユニットは、主力部隊が連隊、支援部隊が大隊規模。1985年想定ということで、ソ連軍のカテゴリーA戦車師団は、当時新鋭のT80戦車を装備。モーター・ライフル師団はT72かT62戦車、東ドイツ軍はT55戦車という感じ。支援部隊として、スカッドB地対地ミサイル、Mi24ハインド戦闘ヘリコプター部隊もあり。
NATO軍ユニットは、ほとんどが大隊規模で、戦闘ヘリコプター部隊が中隊規模になっている。こちらも1985年想定なので、当時新鋭のM1エイブラムズ戦車は、アメリカ第11機甲騎兵連隊には配備されているものの、アメリカ第3機甲師団は、まだ換装が済んでおらず、一部の戦車大隊はM60A3装備になっている。AH64アパッチ戦闘ヘリもまだお目見えしていない。また西ドイツ軍装甲師団も、レオパルト2とレオパルト1A3が混在している。
こういった戦闘ユニットは、それぞれ規模に応じた損耗限界(Attrition Limit)=損害や疲労の吸収度があり、連隊なら5、大隊が4、中隊が3、ヘリ部隊は規模に関係無く5となっている。SPIの「Central Front」シリーズは当初、連隊だろうが中隊だろうが損耗度が一律に設定されていて、1個中隊が妙に粘る展開もあったが、後期の作品では規模毎に損耗度が変更されたので、それに倣った形か。
そう、基本的にユニットの動かし方は「Central Front」的であり、各スタック毎に12行動力を持ち(強行軍を行えば+3行動力)、その行動力の範囲で、移動・戦闘を自由に組み合わせるもの。つまり6行動力で移動し、3行動力で攻撃をかけ、また3行動力で移動し、強行軍+3行動力でまた攻撃できるわけだ。もっとも「Central Front」シリーズでは、両軍が1スタックずつ交替しながら動かしていたが、この「C3」システムでは、一方がすべてのユニットを動かし終わったら、相手側に交替する仕組みになっている。
その一方、「NATO Division Commander」からは、戦闘ユニットの態勢(Posture)システムが導入されている。各戦闘ユニットには「攻撃力-防御力」が記されているが、現状の態勢によってその能力は上下する。たとえば「全力攻撃(FASL)」態勢なら攻撃力+2、防御力+3だが、砲爆撃が+1当たりやすくなる。ちなみに態勢は「路上行軍(ROAD)」「戦術(TAC)」「攻撃(ASL)」「機動攻撃(MASL)」「全力攻撃(FASL)」「防御(DEF)」「定点防御(RDEF)」「積極防御(ADEF)」「警戒(SCR)」「偵察(REC)」「射撃&移動(S&S)」「砲撃(BARR)」「近接支援(CSUP)」「ヘリコプター(FARP)」「司令部展開(DEPL)」「司令部移動(MOV)」「補充(REFT)」の17種類。
この17種類の態勢は、大きく3つの移動モード……「行軍」「戦術」「展開」に分かれており、それぞれ移動や戦闘などの消費コストが異なっている。
また、どの態勢からどの態勢へ移れるのか、移れないのか、態勢を変更する場合、どれだけの時間がかかるのかも定められているあたり、ああ「NATO Division Commander」だなあと。
また上位組織の命令は、TCS(Tactical Combat Series)を彷彿とさせるものになっている。いやそれとも「NATO Division Commander」も、こんな感じだったっけ?(もう処分したので確認できない)。
両軍とも、司令部の指揮範囲内にある部隊に、移動・攻撃・防御・補充・再編といった命令を出すのだが、それぞれ規模ごとに、必要な指揮ポイントや、それを伝達する時間、展開する時間が異なっている。簡単に言えば、大規模部隊の命令実行には時間がかかり、小規模部隊の命令実行は早く済む。ただし、指揮系統が混乱していたり、前線で部隊が拘束されていると、その命令が遅延する。
さらに各ターン毎に引かれるイベントカードもあり。空爆や特殊部隊作戦、暗号解読、司令部の捕獲、作戦地図の入手などなど。
ここまで書いただけでも、かなり詳細なゲームシステムだが、戦闘ひとつ解決するにも、かなりの要素を算定しなければならない。戦闘自体は、両軍ユニットの能力値を差し引いて見るが、それに対して砲爆撃とヘリコプターをどれだけ支援させるか、目標をどれだけ探知できているか、対空射撃で航空支援がどれだけ阻害されたか、電子戦の影響はどうかも判定し、場合によっては、化学兵器・核兵器も使用される。
ユニットスケールとしては、よくある連隊/大隊級なのだが、1ターン=3時間なので、短時間でどれだけの行動が行えるかにも、こだわったシステムでもある。このあたり、ゲームデザイナーが「OODAループ」(相手より早く意思決定プロセスを回すことで、作戦テンポを高速化し、相手の思考・行動をマヒさせる)の再現を目指しているようだ。つまり、物量に優るワルシャワ軍は、それだけ部隊規模が大きいため、命令変更や実施にも時間がかかるが、NATO軍は、小規模ながらも、より柔軟に戦うことで対抗する、という場面を再現したいのだろう。
たしかに1980's現代戦作戦級ゲームとしては、ワルシャワ軍の梯団攻撃に対して、NATO(アメリカ)軍のエアランドバトル構想、運動戦理論が本当に通用したのか、というあたりまで再現してもらいたい。そういう意味では、かなり明確なテーマを持った作品だが、実際にプレイしてどうなるかは未知数。
シナリオは3本、キャンペーンは2本収録。まずは一番短い「The Eleventh Hour」(開戦当初の11時間を扱う・5ターン)シナリオから触れてみたい。ありがたいことに、すでに日本語訳ルールも入手したので(馬場夫さん、ありがとうございます)、近いうちに是非プレイしたい。
※7/3追記:日本語訳ルール、公開されました。