Wargaming Esoterica

After Action Reports & Reviews of Simulation War Games ほぼ引退した蔵書系ウォーゲーマーの日記

GMT/VG「Pacific War」

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Compassから「The Third World War」という再販大作が届いたばかりなのに、GMTからも再販大作「Pacific War」が到着。本作は、1985年にVictory Gamesから発売された同タイトルの再販で、アジア太平洋戦争の陸海空の戦闘を統合的にシミュレートした作品。自分も昨年、予習的にVG版を入手したが、たいして予習もしないうちにGMT版が来てしまった。それにしてもこの分厚いボックスに(しかも上げ底無し)、びっちり内容物が詰まっていて、物理的に恐ろしく重い。こんなに重たいボード・ウォーゲームもそうそう無いのでは……

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地図盤はA1サイズが2枚、ハードボード製。そりゃあ重くなるわ。ヘクス径はVG版より若干大きく(広く)なっている。VG版では、2枚重ねて南太平洋側だけにする仕掛けが施されていたが、GMT版ではそのようなギミックは無い。色味も、やや暗めだったVG版に比べると、かなり明るい。

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さらにハーフサイズでソフト仕様の、南太平洋マップも付いている。この地域だけでプレイできるシナリオもいくつかあるので、わざわざ2枚全部広げる必要もない。

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カウンターシートは全10枚。カウンター総数2624個。まずシートNo.1から3は、両軍の航空機ユニット。あまりの内容物の重さに、シートの一部が折れ曲がっていたが、ユニット自体にダメージは無く、ぎりぎりセーフ。そして旧VG版の航空機ユニットはシルエットだったが、新GMT版は美しい線画になっている。各ユニットに固有部隊名(台南Tainanだとか)が入るようになったものの、数値の並びはほぼVG版と同じ。と言うか、今回の再版は、細かく改訂されてもいるが、おおむねVG版を踏襲した形になっている。

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シートNo.4と5は、両軍の地上ユニットが占めている。VG版では就役ポイントコストが表面に記載されていたが、GMT版では裏面に変更。そしてVG版では、アメリカ軍は陸軍も海兵隊も全部真っ青なユニットだったが、GMT版では、もっともらしく見える色に変更されている。日本軍も海軍陸戦隊が色分けされ、全体的に判別しやすくなったと思う。

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シートNo6と7は、艦船ユニット。VG版の日本軍は真っ黄色だったが『そういう人種差別的な表現はけしからん』と言われるのを避けるためか、紅白を基調としたユニットになっている。艦船ユニットも、表面の数値の並びはVG版と同じだが、裏面の砲撃力、魚雷力はVG版より見やすくなっている。

しかしあらためて眺めてみると、カウンター数が多い割には、艦船ユニットが占める割合はそれほど多くない。艦船の数値の付け方にしても、さほど細かく差異を出しているわけでもなく、よくある「時期によって改修型ユニットに差し替える」なんてことも無い。もしかしたら軍艦マニアにとっては(いや軍用機マニアと陸軍マニアにとっても)物足りなく感じるかもしれないが、そこが主眼のゲームではなく、あくまで陸海空の統合作戦シミュレーションに重きを置いているのだろう。このスケールで、1日刻みで作戦進行を細かく進めていく場面もあるのだから、むしろ作戦マニア向けのゲームなんだと思う。

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シートNo8から10は、マーカー類。

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そしてルールブックは、使うルール量に応じて3パターン用意されている。最も簡単な戦闘(Engargement)シナリオ用のルールブックは最もルールが省略されており、次が短期戦(Battle)シナリオ用のルールブック、そしてルールがすべて掲載されたコアルールマニュアルという形になっている。またシナリオブックの他に、珊瑚海海戦シナリオのリプレイも別冊化された。

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そして図表類が多いのも本作の特徴。こちらは日米両軍のディスプレイシートとプレイヤースクリーン。もし旧VG版から変更が無ければ、ホビージャパン版の日本語版チャートをそのまま流用できるかもしれない。

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さらに作戦ディスプレイ、両軍の部隊ディスプレイと、これ全部広げるにはかなりのスペースが必要で、地図盤2枚分だけ空間を確保すればそれで済むわけではない。

そしてあいにく、早くもGMTサイトでは本作のエラッタと明確化が公開されている。大半はシナリオ部分の間違いだが、すでに二段組み3ページ……まあ、校正の詰めが甘かったようだ。

このように、おおむねVG版を踏襲した再版だが、新版のデザイナーズノートを読むと、いくつか主要な変更点もあるとのこと。23.1.2「地上ユニットの移動制限」、25.1「潜水艦のパトロール」、2.3.1「港湾と飛行場の統合」あたりが目立った変更点だが、自分がまだVG版で経験していない領域なので、実際どう機能するのかはこれから確認と。

自分の場合、軍艦マニアではないので、あまり詳細過ぎる海戦ゲームよりかは、こういった作戦級ゲームの方が合っているような気がする。本作の場合、作戦そのものを設計し、期間や投入戦力を自分で決められるあたりは、とても魅力的に感じる。とりあえず、また小規模シナリオから少しずつ試していきたい。

Compass/GDW「The Third World War : Designer Signature Edition」

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Compass Gamesの新作「The Third World War : Designer Signature Edition」が到着。初めてキックスターターを使って事前注文したものの、達成されて1ヶ月経ってもモノが届かず、Compassにメールしたら送ってくれたという……蕎麦屋の出前じゃないんだからさあ。

それはともかく本作は、かつて1980年代にGDWから発売されていた仮想第三次世界大戦シリーズの4作、「The Third World War : Battle for Germany(中欧編)」「Arctic Front(北欧編)」「Southern Front(南欧編)」「Persian Gulf(中東編)」をまとめて再販したモノ。日本でもホビージャパンから、欧州編をまとめた日本語版「ザ・サード・ワールド・ウォー」と「ペルシアン・ガルフ」として発売されていた。自分も当時、日本語版を購入し、特に中欧部分は何度もプレイした覚えがある。当時はすでにSPIが潰れていて、1970年代製の現代戦ゲームが入手しにくくなっていたが、そこへ颯爽と1980年代産の現代戦ゲームとして登場したように感じていた。個人的にも、自分とはちょっと年代がズレるSPIの現代戦ゲームよりも、本作の方が『僕ら世代のゲーム』のように感じられた。

システム的にも、今現在GMTから発売されている「Next War」シリーズのご先祖様的な立ち位置(特に航空戦)にあるゲームだと思うので、再販を非常に楽しみにしていた。まあ、ウクライナ戦争によって、まさに第三次世界大戦の危機が叫ばれる中、本作が届いたというのも、なにかの因縁なのかもしれない……

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地図盤は、フルマップ6枚。1ヘクス=45km。こちらは「Arctic Front(北欧編)」用の地図盤B。旧GDW版ではヘクス径が小さく、ハーフサイズに分割されていたが、今回のCompass版ではヘクス径も拡大され、旧版の地図盤を2枚連結した形になっている。ちなみに旧ホビージャパン版の地図盤は紙質が悪く、折り目からメリメリと破れていく悲しい仕様だった……

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そしてこちらが旧「The Third World War : Battle for Germany」(中欧編)の地図盤AとD。旧版は地図盤Aの範囲のみだったが、今回の再版にあたって範囲が東側の地図盤Dにまで拡張され、ポーランド全域はもとより、当時まだソ連邦領内だったリトアニアベラルーシウクライナといった地域まで収められている。この拡張地域が発売前に公開された時、ウォーゲーマーたちから『そこ必要?』というツッコミが入ったが、実際、本作でもこの地図盤Dを使用するシナリオは用意されていない。まあ、そのうち追加シナリオとして、NATO軍の東側逆侵攻シナリオが発表された暁には使うのかもしれないが……

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こちらは「Southern Front(南欧編)」の地図盤C。実は旧版では、地図盤Dのウクライナルーマニアも含まれていたが、今回の再版では、あまり必要ないだろうということで省略してプレイするようになっている。そこを使いたければ、地図盤Dの一部を継ぎ足して使えと。ちなみに当時の自分は、「Battle for Germany」と「Southern Front」を連結するシナリオをよくプレイしていたと思う。「Arctic Front」はあまりプレイした覚えが無いなあ。

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こちらは「Persian Gulf」(中東編)の地図盤EとF。一応、自分も日本語版「ペルシアン・ガルフ」は購入したが、プレイした記憶は無い。ただ当時、湾岸戦争が始まったので、本作のイラク軍などのユニットを見て、その戦闘をシミュレーションしてみたことはある。するとどう考えても多国籍軍の圧勝になり、実際そのような展開になったので、ああ、このゲームって正しかったんだなあと感心したのは覚えている。

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カウンターシートは9枚、カウンター総数2052個。ただし戦闘ユニット系はその半分以下で、大半はマーカー類になっている。1ユニット=師団が基本で、一部、旅団/連隊規模のユニットも存在する。

こちらはソ連軍ユニット。カウンターも旧版より大きくなり、デザイン的には子孫であるGMT「Next War」シリーズに似せてきている。旧版とは違って、各ユニットにステップロス面が設けられ、スタック規模や、ZOCの種類、移動クラス、NBC防護能力の有無などが記載され、ぱっと見て判別できるようになっている。航空機ユニットも、表面に整備値が記されている(旧版は裏面)。

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こちらはアメリカ軍を筆頭とするNATO軍。ソ連軍は赤、アメリカ軍は緑、というのは旧版と同じだが、それ以外の国色は旧版から結構変わっていて、どれがどれやら。また旧版には、アメリカ軍の謎の新鋭機「F19フリスビー」(トム・クランシーのレッドストーム作戦発動でお馴染み)ユニットが付いていたが、今回も付いている。もちろん、そんな機種は実在しないので、リアルさを求めるゲーマー向けに、旧版には無かった「F117ステルス攻撃機」が追加されている。

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そしてマーカー類の山。

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セットアップシートは各シナリオ毎に用意され12枚。そういや旧版では、ユニット裏面に配置ヘクスが記されていたっけ。

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ターン進行表、ターンシークエンス表、戦闘結果表、戦闘比管理トラックと、図表類もてんこ盛り。

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各戦域ごとの空戦ディスプレイは切り離して使うスタイル。

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さらに地形効果表、各国区別表、地図盤外移動ディスプレイ(これは旧版には無かった)、核攻撃と空輸管理ディスプレイ、中立国参戦ディスプレイ、「Persian Gulf」で導入された外交カードと、補助シートも充実している。全部広げたら、えらいスペースを喰うだろうが……

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プレイブックには、旧版にも載っていたFrank Chadwick氏の記事がそのまま再録されているが……そうそう、各地上ユニットの攻撃力・防御力をどのように算定したか、公開されていたんだよね。こういう形で戦闘力を算出するのが適正かどうかはともかく、当時の自分(高校生)はとても納得していた。

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陸戦部分のゲーム手順だけ採り上げると、まずワルシャワ軍セグメントとしてワルシャワ軍第一梯団の移動・戦闘、第二梯団の移動・戦闘、NATO軍の移動・戦闘、ワルシャワ軍の第二移動・戦闘を行い、次にNATO軍セグメントとしてNATO軍の第一移動・戦闘、NATO軍の第二移動・戦闘を行うという変則的な流れになっている。1ターン内で見れば、双方3回ずつ移動・戦闘のチャンスがあるのだが「I Go You Go」ではないと。まあそれも、当時想定されたワルシャワ軍怒濤の梯団攻撃と、それに対するNATO軍のエアランドバトルだかなんだかを表すためのものだろう。

空戦部分は、各戦域毎に航空優勢を争い、地上ユニットの戦闘支援や、補給遮断、ディープ・ストライク、敵航空基地(滑走路)破壊を行うというもの。このあたりは、後のGMT「Next War」シリーズにも受け継がれている。

とまあ、ボリュームたっぷりの内容だし、個人的にも懐かしいタイトルなので、そのうち「Battle for Germany」あたりからプレイしてみたい。

ちなみに昔、コミケで本作の「極東編」も発売されていたが、これもCompassから出してくれんかのお。

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(2022年7月19日追記):Compass Gamesから訂正カウンターが到着。どうやらプレオーダーした顧客のところには自動的に送付されていたようだが、自分はキックスターター経由だったせいか、いつまで経っても届かないので、こちらからCompassに『送ってくれ』とメール。特に返事はなかったけれど、2週間で届いた。まあ、送ってくれればいいけど、こういう扱いでは、Compassキックスターターは使わない方が良いなあと。あくまでプレオーダーした方が良さそうだ。

VUCA Simulations「Crossing the Line : Archen 1944」(2nd Edition)

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「Across the Bug River」「Operation Theseus」と同じシステムを搭載したシリーズ第1弾「Crossing the Line」(第2版)も「小さなウォーゲーム屋さん」から購入した。初版は2019年に出版され、その時もちょっと興味を惹かれたが、あっという間に品切れてしまった。しかし今回、地図盤をハードボード化した第2版として再版されたので、初版をスルーして良かったなと。

本作は元々、1995年にMoments in Historyから発売された「Piercing the Reich」のリメイク版だそうだが、あいにくそちらも存在は知っていたものの、特に惹かれることは無かった。自分の場合、コンポーネントの見た目で好みが分かれるので、MiH版は好みではなく、このVUCA版は好みだったのだろう。

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本作のお題は、1944年9月~10月にかけてのアーヘン周辺での戦闘。アーヘン市を両翼から包囲せんとするアメリカ軍と、それに対するドイツ軍の反撃を扱う。

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カウンターシートは4枚。こちらはアメリカ軍。機甲師団も歩兵師団も指揮範囲15ヘクスという広大な活動領域を誇る。このシリーズでは、戦車と駆逐戦車や突撃砲との違いはあまり表現されていないため、M10駆逐戦車は単なる「弱いM4シャーマン」という感じ。まあ、そのあたりの戦術的ディティールを楽しみたいなら、同じ1ユニット=大隊級のBCS(Battalion Combat Series)か、GOSS(Grand Operational Simulation Series)に挑戦してほしい。

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ドイツ軍にはパンター(戦車ポイント10)、ティーガーIIやヤークトパンター(戦車ポイント12)という強力なユニットがあり、アメリカ軍のM4シャーマン(戦車ポイント6)とはかなりの開きがある。この戦車ポイント差は、そのまま戦闘解決の際のダイス修整になるため、M4シャーマンティーガーIIに攻撃をかければ、ダイス修整-6(超絶不利)となる。プラスのダイス修整を得るには、自軍ユニット(特に同一フォーメーションのユニット)と共に複数ヘクスから攻撃したり、司令部の支援値(砲兵等を表す)をぶち込む必要があり、要するにアメリカ軍は戦力を集中して物量で押し切れと。

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本作も、戦車ポイント以外の部分ではあまり差の無い対決なので、バランスの良い対戦が楽しめそうだ。一緒に買った「Operation Theseus」と、どちらから手を着けるかは悩ましいところ。

VUCA Simulations「Operation Theseus : Gazala 1942」

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昨年購入した、WWII大隊作戦級「Across the Bug River」と同じシステムの新作「Operation Theseus」を「小さなウォーゲーム屋さん」から購入(日本語ルール付)。シリーズ第3弾となる今作のテーマは、1942年の北アフリカ、ガザラの戦い。史実的にはドイツ=イタリア枢軸軍が、イギリス連邦軍が守備するナイツブリッジ~ビルハケイムといった陣地線に対して攻撃をかけ(または迂回して後方に進出し)、最終的にはトブルク要塞を陥落させ、その功によってロンメルは元帥に昇進……というお話。ゲームタイトルにもなっている「テーセウス作戦」とは、枢軸軍側の攻勢作戦名とのこと。テーセウスはギリシャ神話の英雄名で、牛頭の怪物ミノタウロスを倒した人。

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シリーズ前作同様、本作の地図盤もハードボード仕様。海岸沿いのトブルク要塞から、ビルハケイムに至る地域が収められている。両軍の地雷原も描かれており、地雷原突破アクションに成功しない限り、敵地雷原は通過できないし、スクリーン移動(ZOC to ZOC移動)もできない。また「Across the Bug River」には無かったが、本作では各フォーメーション司令部に工兵値が記され、敵地雷原突破に対して有利な修正を与えるようになっている。

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戦闘の焦点のひとつ、要衝ビルハケイム陣地。このビルハケイム戦だけを扱った、GTS(Grand Tactical Series)「No Question of Surrender」をプレイしたの、もう10年前か!

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カウンターシートは4枚入っているが、戦闘ユニットは1枚(104個)に収まっている。シリーズ3作の中では最もユニット数が少ないので、遊びやすいかもしれない。

ドイツ軍とイギリス軍戦車ユニットの戦車ポイント(TP)はほぼ互角、ただし有効性(戦闘効率)はドイツ軍の方が総じて上。ビルハケイムを守備していた自由フランス軍は、さすがに有効性が最優秀。イタリア軍は、有効性としてはイギリス軍と互角なんだけど、戦車ポイントは低い。そしてイギリス軍、イタリア軍の一部には諸兵科連合効果(戦力比を有利に1シフト)が適用できないユニットもあり。ドイツ軍の88mm高射砲ユニットは、フリースタックの上、場合によっては追加戦車/対戦車ポイントが得られると。

しかし、このシリーズの場合、本当の両軍の練度差はユニットではなく、各フォーメーションのアクションポイント回復値と、その最大値に表れる。最も高い回復値を誇るのは、イギリス第1機甲師団。回復値が高ければ、毎ターン、ある程度のアクションポイントは担保される。最大値で言えば、ドイツ第15、第21装甲師団、第90軽師団が最優秀。ポイントさえ貯めれば、1ターン内でかなりの行動が行える。イタリアのアリエテ戦車師団も、回復値、最大値、ともに決して悪い数値ではない。

また各フォーメーション司令部の指揮範囲、支援値にもその差が表れているし、実際プレイしてみると、頼りになるフォーメーション、頼りにならないフォーメーションが分かるかと思う。

また司令部に関しても、シリーズ前作では移動力が設定されておらず、アクションポイントを消費して再配置する形になっていたが、北アフリカの機動戦でそれは上手く機能しないんじゃないかと思っていたら、やはり本作に限っては、司令部に移動力を設定し、他のユニットとぐりぐり移動できるようになっていた。まあ、そうよね。

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「Across the Bug River」同様、チャート、配置ディスプレイ、管理シートもハードボード化されている。耐久性は良いだろうが、物理的に重いので、ゲーム例会などに持って行く派の人は大変よね。個人的にはソロプレイが多いし、「Across the Bug River」をプレイした時も、管理トラックをまとめたシートが入っていて助かった。

その「Across the Bug River」は、1941年バルバロッサ作戦時のドイツ軍vsソ連軍という、練度差のある対決だったが、こちらの「Operation Theseus」ではそこまで両軍に差は無いので、より互角な戦いになるのでは?と思っている。すでに基本的なゲームシステムは経験済みなので、細かい追加ルールを確認して、近いうちにプレイしてみたい。

【参考文献】アントニー・ビーヴァー「スペイン内戦」(上下)

スターリングラード 運命の攻囲戦 1942-1943」や「ノルマンディ上陸作戦 1944」等でも知られる、アントニー・ビーヴァーの「スペイン内戦 1936-1939」(上下)を購入。いや本当は、BTW(Before the War)シリーズのスペイン内戦編「La Guerra」が発売されたら買おうと思っていたが、発売が延期されまくるうち、この上巻が出版社品切れになっていたため、だったら買うかと。幸い、丸の内丸善の棚に店頭在庫が残っていたのでそれを確保した。

とりあえず上巻から読み始めているが、まずは内戦に至る前のスペインでの政治闘争から始まり、様々な政治派閥やら何やらが蠢いているので、その混沌とした状況がなかなか頭の中で整理できていない。著者もまえがきで『スペイン内戦は、左翼と右翼の衝突としてさかんに描写されるが、それは割り切り過ぎで誤解を招く』と書いているように、二元的に切り分けられるものでもないのだろう。一応、主要な戦況図も付いているので、地名についてはそれを参照しながら読み進めている。そのうち「La Guerra」が発売されたら、文中に出てくる部隊とユニットカウンターも照合してみたい。

Against the Odds #29「Buffalo Wings(2nd Edition)」+「Expansion Rules」

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Against the Odds誌29号「Buffalo Wings」を購入。こちらは元々2010年に発売された号だが、2021年にエキスパンションキットが追加され、それと一緒に同梱された形で改訂・再版されたそうだ。付録ゲーム「Buffalo Wings」は、1939年~1941年におけるフィンランド空軍とソ連空軍の空戦ゲームで、第二次世界大戦時の空戦を扱った「Fighting Wing」シリーズの一作でもある。デザイナーは第二次大戦後の空戦を扱った「Air Power」シリーズでもお馴染みのJ.D.Webstar氏。昨年ひととおり「Air Power」シリーズは手元に揃えたので、だったら「Fighting Wing」シリーズも味見してみようかと思い、入手してみた。「Fighting Wing」シリーズは、すでにあらかた絶版で、いずれも中古市場では高値取引されているし、それを全部買う気はしなかったので……しかし、どうせこれを買うんだったら「小さなウォーゲーム屋」さんで日本語ルールが付いている時に買えば良かったのにねえ。あそこは売り切れと同時に日本語ルールも入手できなくなるので、在庫があるうちに買うしか……

AtO29- Buffalo Wings - 歴史ボードゲーム専門通販ショップ: 小さなウォーゲーム屋

【日本語ルールブック付き】Buffalo Wings Expansion Kit - 歴史ボードゲーム専門通販ショップ: 小さなウォーゲーム屋

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さて、本誌とエキスパンション併せて、フルマップの地図盤(両面)が2枚付いている。こちらはフィンランドの春夏の山野が描かれた地図盤と、エキスパンションで追加されたクロンシュタット港が描かれた地図盤。当然そのクロンシュタット港を舞台とした、ソ連軍の戦艦マラートに対して破壊王ルーデルがJu-87スツーカで爆撃に赴く、というシナリオも用意されている。

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春夏の地図盤の裏側は、真っ青な蒼空。クロンシュタット港の裏側は、雪原が描かれている。これ、他の「Fighting Wing」シリーズにももちろん使えるし、カウンターの大きささえ合えば、他の空戦ゲームにも使えるんじゃないかしら。

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カウンターは、1939年~41年当時のフィンランド空軍機、ソ連空軍機が用意されている。また地上の対空砲、戦車、歩兵を表すマーカーも。

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本誌には機体データカードが12種類、エキスパンションにも12種類が付いている。フォッカーDだけで4種類もあるのか。

ゲームスケールは1ターン=4秒、1ヘクス=300フィート(91.44メートル)。同じ第二次大戦時の空戦を扱ったアバロンヒルAir Force」が1ターン=10秒、1ヘクス=730フィート(222.5メートル)、ツクダ「撃墜王」が1ターン=1.5秒、1ヘクス=25メートルだから、だいたい「Air Force」と「撃墜王」の中間ぐらいか。もっとも「撃墜王」は、メチャメチャ細かくてプレイするのが難解、という噂を聞くので、そこまでする必要も無いのかも。

そういやだいぶ以前に、ゲームマーケットでこのシリーズの「Achtung:Spitfire !」の翻訳ルールを買ったはずなんだけど、それもどこかへ消えてしまったなあ。昔、クロノノーツゲームさんにアップされていた抄訳はあるので、なんとかプレイできるかなと。

またエキスパンション誌の裏表紙には、続編として「Tiger Wings」(東アジア戦線での空戦)も予告されていたので、もし出版されたら入手しようと思う。

【Air Power Series】「The Speed of Heat」First Air Combat ! Korea 1951 Solo-Play AAR

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引き続き「Speed of Heat」の練習シナリオT3「最初の空中戦:1951年1月朝鮮半島」をソロプレイ。設定としては、訓練期間を終え、朝鮮戦争に投入された新米パイロットがF86Eを駆り、中国軍のMig15b2機と遭遇するというもの。あくまでソロプレイ用のチュートリアルなので、すでにF86Eは有利な位置にあり、Mig15b2機はダイスでランダムに飛行する。Air Powerシリーズは同時移動ではなく、各ターン毎に双方の位置や状態、練度などによって主導権を決め、不利な側から移動するため、とりあえず有利な位置にいる序盤は、Mig15bの動きを見ながらどうする考えられる。

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さて第1ターン。ランダム移動によって、Mig15b2機はきれいに左右に散開。F86Eも、とりあえず様子見的に2番機を追いかけた。

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第2ターン。Mig15bはさらに左右に旋回しつつ、2機とも降下を始めた。一応、向こうの中国人パイロットも新米という設定なので、F86Eに追われて焦っているのかもしれない。そこでF86Eは、2番機のほぼ真後ろにつく形で急降下して高度差を詰め、固定武装の12.7mm機関銃×6で射撃した。Mig15bは機体が小さいため、命中修正が+1だったが、運良く命中。これがMig15bに重損傷(H)を与え、さらに追加でシステム損傷表でダイスを振った結果、またまた運良く「コクピット」命中でパイロット死亡、撃墜となった。初陣のビギナーズラックという奴か。

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残るMig15b1番機は、そのまま地図盤外へ脱出するかと思いきや、盤端ぎりぎりで旋回して、また戦場に戻ってきた(なにしろランダム移動なので)。『野郎、やる気か』ということで、こちらのF86Eも盤端ぎりぎりで旋回し、上昇して高度を稼ぎ、再び急降下しつつ、すれ違いざまに(移動途中に)機銃を放ったところ、これも命中し、運良く一発撃墜と相成った。

なるほど、これは良いチュートリアル。今時はどうか知らないが、昔のコンシューマーゲームシミュレーションRPG等にも、こういった戦闘手順を覚えるチュートリアルがあったが、だいたいはAI側が『いや普通そんな手は使わないだろう』というヘタな決断を行い、それが良い手加減になっていたと思う。このシナリオのランダム移動も、まさにそんな良い手加減になっている。理論的に言えば『いや、なぜそこで左に曲がるのよ』とか『そこは普通上昇するだろ』というところでも、あくまでもランダム表に記された機動しか行わないし、その機動に一貫した意図も無いが、空戦の練習にはちょうどいい。今回は、こちらもまだ初心者なので、特に変わった機動もできなかったけれど、より複雑な機動を覚えたい/試したい場合にも、このチュートリアルシナリオに戻ってくるのはアリだと思う。