Wargaming Esoterica

After Action Reports & Reviews of Simulation War Games ほぼ引退した蔵書系ウォーゲーマーの日記

「Across the Bug River」Campaign Solo-Play AAR 

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夏休みの宿題その2。先月購入した「Across the Bug River」を初めてソロプレイしてみた。まあ最初からキャンペーンシナリオでも大丈夫だろうと思ったが、この後、結構なルール間違いをしたままプレイを続けてしまうハメに。しかしやり直すのもアレだし、今回はあえて間違ったリプレイを載せておこう。

ルール自体は、先手を取ったプレイヤーから、交互に1フォーメーション(師団)ずつ活性化させていく流れ。活性化する際には、10面体ダイスを1個振って、そのフォーメーションの活性化レベルに応じたアクションポイント(AP)を獲得する。最高7APから最低1APとなるので、1回の活性化でも、ただ単に1スタックを移動(1AP消費)させて終わりという場合もあれば、1スタックを移動(1AP)させ、周密攻撃(3AP)を行い、もう一回周密攻撃(3AP)を行うこともできる。あるいは7個スタックを移動(1APx7)させるのも可。また攻撃による損耗ヒットが防御側より少なかった場合、追加のボーナス1APが得られるため、1回の活性化でもかなり幅が出てくる。

1回活性化すると、そのフォーメーションの活性化レベルは1落ちるが、レベルが残っているうちは何度でも活性化できる。たとえばドイツ軍第14装甲師団は、活性化レベル4でゲームを開始するため、1ターン中に4回活性化できる。活性化レベルをすべて使い切っても、第14装甲師団の有効値は7なので、次ターン開始時の管理フェイズで活性化レベルが5復活する。また活性化レベルは次ターンにも持ち越せるので、あえて活性化回数を残して、次ターンにより多くの行動を行うようにしても良い。

しかしこれがソ連軍になると、ターン毎に決定されるドイツ軍の航空阻止値によって、回復できる活性化レベルが変動する。つまりソ連軍は、計画的な部隊ローテーションが行えないし、各フォーメーションの有効値も低いので、復活する活性化レベルも少ない。

また活性化レベルが落ちるに従って、獲得APも低くなりがちなので、何度も活性化させたフォーメーションが、次第に小さなAPしか得られなくなるという、師団単位の疲労っぽい雰囲気も出ている。

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さて第1ターン。先手ドイツ軍は、第298歩兵師団(ユニット上段が薄青)に第91突撃砲大隊(上段が白)を配属させ、これを活性化。ブランデンブルク部隊が占拠したブーク川の橋を渡り、Ustyluhのソ連軍部隊を蹴散らした。一応、ドイツ軍の作戦としては、歩兵師団に露払いをさせ、突破口が開いたら、後方に控える第14装甲師団を流し込めばいいや……と思ったが、まずここでルール間違い。舟橋マーカーを使えば、第14装甲師団も青の点線矢印のように対岸へ渡れたのだが、それをすっかり失念していた。さらに言うと、とりあえず先鋒は歩兵+突撃砲スタックで大丈夫だろうと思ったがそんなことはなかった…… 

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これに対してソ連軍は、第41戦車師団の2スタックをUstyluhへ急派。三度にわたる周密攻撃(AP3を消費する、戦闘力が倍増しがちな攻撃)を行い、ドイツ軍先鋒部隊を混乱させ、渡河点を塞いだ。ソ連軍は、ある程度の回数、周密攻撃=反撃を行わないと、マイナス勝利ポイントを喰らってしまうので、ノルマ的にも攻める必要あり。

ドイツ軍とすれば、たかがBT7軽戦車と侮ったが、よくよく考えれば自軍は、歩兵8戦力+突撃砲2戦力=10戦力のスタック。ソ連軍は、5戦力×3=15戦力だったので、むしろ戦力的に負けていた。もちろんドイツ軍の方が有効値が高いため、各戦闘で戦闘チットを引く場合にも、戦力が2倍、3倍になる可能性が高いのだが、今回はソ連軍もチットの引きが良く、むしろドイツ軍戦力1倍(つまりそのまま)、ソ連軍3倍などという局面もあり、逆襲を喰らう形になってしまった。そしてユニット中央の戦車ポイント(黄色い四角に黒字)を見ても、III突の方が不利っていう……それでも第298歩兵師団の先鋒部隊は、橋頭堡を拡大すべく、第41戦車師団に周密攻撃をかけたが、戦力チットの引きが悪く、一歩も前に進めない。

これ、そもそも初期配置からして、第14装甲師団を先鋒にした方が正解だった。あるいは第14装甲師団に、舟橋を用いて別の箇所から渡河させれば対処できただろうが、それも忘れていたので、第14装甲師団は足踏みしたままで第1ターンを終えた……

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ソ連軍は、あまりやることが無いので、とりあえず各地の守備隊に強化防御マーカーを(防御力が2倍、3倍になりやすい)を置き、戦線の整備。 

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一方、その南では、ドイツ第44、第299、第111歩兵師団もブーク川を渡河。国境を守るNKVD守備連隊(戦力1)を蹴散らし、ソ連領内へ侵攻を開始した。しかし先の戦闘で、たとえ周密攻撃でも上手く行かなかったせいか、こちらでも慎重になり過ぎ、強化防御マーカーを置かれた箇所へは周密攻撃もかけたが、それも心配しすぎだったと思う。なにごともバランスとかメリハリが大事よな……  

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続く第2ターン。先手を取ったソ連軍は、さらに第41戦車師団による周密攻撃を継続。ドイツ軍III号突撃砲を除去し、奪われたトーチカヘクスを奪還する活躍。

ドイツ第298歩兵師団も、果敢に攻めかかったが、どうにも戦力チットの引きが悪く、遂には3個あったIII号突撃砲中隊をすべて失ってしまった。最終的には、装甲車輌の支援の無いまま、歩兵だけで攻撃もかけたがこれもイマイチ…… やはり装甲師団の戦車隊が必要なのだよ。 

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お隣さんの第44歩兵師団(ユニット上段が緑)も攻め上がってきたが、所詮は歩兵ユニット。移動力3では、ソ連軍戦車隊を側面包囲できるほどの足は無い。 

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南部の第299、第111歩兵師団は、ソ連国境守備隊をほぼ一掃して前進。ソ連軍は、次第に動かすフォーメーションが無くなってきたため、交互手番とは言えパスが多くなり、ドイツ軍が一方的に動かし続ける展開となった。そしてこのあたりでルール間違い(舟橋を忘れていた)に気づいたが、もはやアフターザカーニバル。もう一回仕切り直すのも面倒なので、舟橋は別の場所で使ったことにして、そのまま第3ターンだけやってみることにした。

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第3ターン。ドイツ軍に、増援の第13装甲師団(ユニット上部が濃青)が到着。これが、第44歩兵師団が確保したルートを東進し、ソ連第41戦車師団を攻撃。見事これを殲滅して、ようやく橋頭堡をこじ開けた。いや普通こうなんだよな。その突破口から、やっとのことで第14装甲師団も発進。これまで休んでいたため、活性化レベルはMAXにあり、雪崩のごとくソ連防御陣地を突破し、勝利ポイントが得られるVolodymyr-Volynskyiに達した。 

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南部の2個歩兵師団も、無人の野を行くが如く進撃中。とは言え、盛大なルール間違いにも気づいたので、今回のお試しプレイはここまでとした。

まあ、いずれまた正しいルールでプレイしたいが、それでも基本的にはかなり楽しめた。活性化内で、10個ほどのユニットだけに意識を集中し、ちまちまアクションポイントをやりくりして、その枠内でやれる最善を考えさせられるゲームは好みだし、両軍フォーメーションの個性もシンプルに表現されている。

個人的には、こういった大隊/中隊級スケールだと、戦車と突撃砲の違い等も欲しいところだが、そこはバッサリ省略されている。そういった戦術的ディティールを盛り込んでいくと、最終的にはGOSS(Grand Opeartional Simulation Series)のような、詳細かつ複雑な方向になってしまうし、そこまで求めていない方には良いのかなと思う。なので、スケール的には戦術作戦級っぽく見えるのだが、戦術的ディティールは削ぎ落とされているため、個人的には、あくまでも作戦級ゲームだなと感じた。もし本作をプレイされて、もっと戦術的ディティールが欲しければBCS(Battalion Combat Series)に進めば良いと。

【Operational Combat Series】「The Third Winter」Scorpions in a Bottle Solo-Play AAR

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先月購入した「OCS:The Third Winter」のカウンターをようやく切断。とりあえず小振りなシナリオから試してみようと「Scorpions in a Bottle」を並べてみた。このシナリオは、1943年12月26日~1944年2月19日ターンまでの、コルスン周辺での戦闘を扱っている。勝利ポイントは、ソ連軍が、ドイツ軍ステップを補給切れの状態で除去すると得られる。ソ連軍が19勝利ポイント以上獲得するとサドンデス勝利と。

このシナリオ専用の地図盤は、ほぼA4サイズと小さいが、結局、この時期の東部戦線を切り取っただけなので、ご覧の通り、配置ユニット数はそれなりに多い。入門用と言うには重すぎるだろうし、本当のOCS入門用シナリオがやりたいなら「Sicily II」や「Smolensk」に数個スタックだけ動かす超小型シナリオが入っているのそちらをどうぞ。 

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さてソロプレイ開始。第1(1943年12月26日)ターンの先手はソ連軍。まずコルスンの飛行場で睨みを効かすドイツ軍Fw190A、Bf109Gの2個戦闘機隊に対して、ソ連軍Yak9戦闘機4個が航空撃滅戦を仕掛けてこれを黙らせ、後は悠々と、IL-2戦闘爆撃機等がドイツ軍前線3カ所を混乱(DG)させた。

地図盤北西部では、ソ連第5親衛戦車軍団がドイツ軍前線の弱体な歩兵をオーバーランで潰し、その後方に控えていたドイツ第1装甲軍団包囲下(Kessel)司令部を除去。第5機械化軍団も同様にドイツ軍前線を食い破り、後方へ浸透したが、ドイツ第7軍団司令部は取り逃がした。 

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対して地図盤南東部では、潤沢な補給ポイントがあるうちにと、ソ連軍は火力84の砲兵師団によって、前線の穴埋めに使われていたドイツ第11装甲師団スタックを混乱、その一部を除去した。さらにその両側に、2個戦車軍団を放って包囲するつもりが、第19、第29両戦車軍団とも、オーバーランも通常攻撃も振るわず、ドイツ軍の第一線に踏み込んだだけで終わってしまった…… 

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第1ターン裏のドイツ軍は、とにかく包囲されてはならんと整然と後退。しかしすでに地図盤北西部の戦線には大穴が開いていたため、機動予備に取っておいたドイツ第14装甲師団をバラして戦線の継ぎ目に投入するハメに。また戦線北東部からも、精鋭第5SS装甲師団の各ユニットが予備に回りつつある。

またこのターン、地図盤外のJu52輸送機によってコルスンの飛行場に補給ポイントを空輸する案もあったが、それを迎撃できる位置にあるソ連軍Yak9戦闘機が排除できず(コルスン飛行場のドイツ軍戦闘機隊が航空撃滅戦を挑んだが、返り討ちにあってステップロス)、空輸作戦も中止となった。 

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続く第2(1943年12月29日)ターンも、ソ連軍が先手。第5機械化軍団は、コルスンの西へ進路を取り、ドイツ軍前線をぐるっと包囲する構えに。

地図盤南東部では、増援のソ連第20戦車軍団が到着し、早速攻撃を開始したが、こちらも結果はあまり冴えず、じりじりと戦線を押し進めるに留まった。 

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第2ターン裏、後手のドイツ軍は、包囲されかかった前線部隊を救うべく、第5SS装甲師団と第14装甲師団によって、第5機械化軍団の2個旅団を撃滅。しかしこれも、本来ならまとまったスタックで、オーバーラン含めて攻撃をしたかったが、戦線の穴埋めに部隊をバラしていたため、それが叶わず。それとも第14装甲師団だけは、スタックをバラさずに取っておいた方が良いのかもしれない。また、ここで突出し過ぎると、返す刀でユニット数の多いソ連軍に包囲されそうなのが悩ましい。シナリオタイトル通り「瓶の中のサソリたち」のように、毒針で刺したり、刺されたりの展開になっている。 

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第3(1944年1月1日)ターンも、先手はソ連軍。このターンは、機械化部隊ではなく歩兵師団によって、各戦線の綻びに対して攻撃がかけられた。言ってみれば、包囲網をギュッと絞るための「支点」作りという感じか。「力点」になるのは機械化部隊だが、ソ連軍もさすがに補給ポイントが少なくなり、継続的な突破攻勢がかけられずにいる。さすがに高火力の砲兵部隊を使いすぎたかもしれない…… 

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第3ターン裏のドイツ軍には、増援として第16,第17装甲師団が到着。これを北西部と、コルスン近辺に投入すれば、なんとか戦線の穴は埋まりそうだけれど、さてどうなるか……というあたりで、今回はここでお開き。結果、ソ連軍はドイツ軍ユニットをひとつも補給切れにできなかった……

今回は、ソ連軍の補給ポイントを北西部、南東部に均等に割り振ったが、両戦線で攻勢をかけるだけの補給ポイントは無かったため、第1ターンで南東部が躓いたなら、そっちはもう諦めて戦線を押し進めるだけにし、北東部にリソースを集中させても良かったかもしれない。もちろん、逆の場合も同様に。でも結局3ターン目には、南からドイツ軍2個装甲師団が増援に来るのだから、あまり変わらないのかなあ。  

【参考文献】マイケル・ハワード「クラウゼヴィッツ「戦略論」の思想」

イギリスの歴史家マイケル・ハワードの「クラウゼヴィッツ戦争論」の思想」の邦訳が出たので購入。「戦争論」のバックボーンにある、クラウゼヴィッツ自身の人となりや、当時の情勢、思想なども鑑みて、その論を簡潔にまとめている。この手の解説書は、グタグダ長く書いてある割によく分からない場合もあるが、本書は文章量こそ少ないものの、内容は凝縮されている感がある。今日も、仕事帰りの電車内でパラパラ読み始めたものの、いや待て……と何度も行きつ戻りつして、その文章をしばらく頭の中で反芻したりして、なかなか先に進めなかった。なので、一読するだけではなく、もう何度か読んでみた後で、ようやく読後感がまとまってくるかなと…… 

【Advanced Squad Leader】「Blood Reef : Tarawa」

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1999年にアバロンヒル社から発売されたASL(Advanced Squad Leader)のヒストリカル・モジュール「Blood Reef : Tarawa」をヤフオクにて購入。昨年末、MMP社で売れ残っていた「Blood Reef : Tarawa Gamer's Guide」を買った時に『(本体モジュールも)いいとこ3万円ぐらいで入手したい』と書いたが、クーポンやら余っていたPayPayやらを投入して、なんとか2万円台で手に入ったので良しとしよう……いやこんなことになるなら、当時定価で買っておけば良かった、と思っても後の祭りよ。

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お題はもちろん、1943年11月に行われた、タラワ環礁、ベティオ島へのアメリカ第2海兵師団による強襲上陸作戦である。迎え撃つは日本海軍特別陸戦隊(横須賀+佐世保)で、太平洋戦史に残る死闘と相成った。しかしこのベティオ島、1ヘクス=40メートルのASLスケールで、たった2枚の地図盤に収まってしまうほど小さい。この狭い島で、両軍兵士がひしめき合って激闘を展開したかと思うと感慨深い。 

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カウンターシートは、1/2サイズが2.5枚(カウンター650個)、5/8サイズが1枚(176個)。アバロンヒル時代の製品ながらも、末期の作品なので、印刷はきれい。とは言っても、現行のMMP製カウンターの方がやはりカットも揃っているので、わざわざこちらを切らずに、ASL太平洋戦線モジユール「Rising Sun」を使えばいいかなと。まあ、第三特別根拠地隊司令官・柴崎恵次少将(Adm Shibasaki 10-2)や、第2海兵連隊長デビッド・シャウプ大佐(Col Shoup 10-3)といった実名指揮官カウンターも入っているので、そこは使いたいかも。 

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地図盤の一部だけを用いるシナリオは7本、キャンペーンゲームは3本収録。ありがたいことに「A grove of ASL」でルール訳も公開されているので、忘れないうちに印刷と。

http://war.game.coocan.jp/ASL/

しかしASLの公式ヒストリカル・モジュールだけでも、1942年スターリングラード、1944年アルンヘム、1945年ブダペスト、1945年ハッティン、1940年ディナン、1944年エルスト、そしてこの1943年タラワと手元に揃い、さらに非公式の1942年ホルム、1944年ヒュルトゲン、1944年オルシャ、1945年ケーニヒスベルク、1941年ハルファヤ峠とあるものの、ほとんど手をつけておらず、完全にコレクター状態……これ以上「そのうちやろう」案件を増やしてどうするとも思うが、いつの日かじっくりと、こういったヒストリカル・モジュールを楽しめる日が来るといいなあ…… 

VUCA Simulations「Across the Bug River : Volodymyr-Volynskyi 1941」

f:id:crystal0207:20210722161817j:imageドイツの新興メーカーVUCA Simulationsの「Across the Bug River」を「小さなウォーゲーム屋」さんから購入(日本語ルール付)。お題は、1941年6月22日、バルバロッサ作戦劈頭の、ヴォロディームィル=ヴォルィーンシキー(長いな)周辺での数日間の戦闘を扱っている。攻め込むのはドイツ南方軍集団だが、ほとんどの戦史書では『南方軍集団はスターリンラインを突破し、キエフ包囲に向かい……』とか何とか書かれている程度で、あまり詳細に述べられることは少ないと思う。かろうじてグランツの「詳解 独ソ戦史」で、迎え撃つソ連南西部正面軍の様子もちょこっと書かれている程度。まあ、そういった穴場的な戦場を、ウォーゲームで知れるのも楽しみのひとつよね。

Across the Bug River - Volodymyr-Volynskyi 1941 – VUCASIMS 

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地図盤は、ハードボード製のフルマップ1枚。ゲームスケールは、1ヘクス=2.2km。1ターン=8~16時間。キャンペーンシナリオでも全7ターンなので、いいとこ3~4日間の戦闘というところか。地図盤左側(西側)を流れるのが、タイトルにもあるブグ川=ソ連国境線で、ドイツ軍はここを渡河してソ連領内に攻め込むことになる。 

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1ユニットは基本的に大隊、戦車系とNKVDは中隊。個人的には大好物なスケール。こちらはドイツ軍ユニットだが、師団毎にフォーメーションが色分けされている。各戦闘ユニットには、戦闘力(耐久ステップ数)、戦車/対戦車ポイント、移動力、有効値(戦闘力の乗数に関係する)などが記され、裏面は混乱状態(移動不可、戦闘力の乗数が低くなりがち)になっている。司令部ユニットには、指揮範囲、攻撃支援ポイント(戦闘へのダイス修整)、司令部自体を移転する際の再配置値、フォーメーション全体のリアクション値が記されており、個性的で楽しい。ただ戦車と突撃砲などの区別は無いので、BCS(Battalion Combat Series)ほど戦闘車両のディティールが再現されているわけでもない。 

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こちらはソ連軍ユニット。総じてドイツ軍よりも有効値が低く、戦闘効率の悪さが表れている。ちらっとKVII戦車中隊(本ゲーム中、最強の戦車値7)も見えるが、ドイツ軍が第6ターンより前に、地図盤北端のソ連軍補給エリアに近づかないと登場しないので、まあ、出てこないんじゃないかなと。  

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ゲームシステムは、すでにVUCA Simulationsから発売されている「Crossing the Line」(1944年アーヘン戦)と同じ……というか、その元ゲームである「Piercing the Reich」(Moments in History 1995年)と同じ、と言った方がいいのか。そういやそんなゲームもあった気はするが、なにしろ1990年代はウォーゲームから離れていたし、買うこともプレイすることもなく今に至っている。

システムは、主導権を握ったプレイヤーから、任意の1フォーメーションを活性化させ、各フォーメーションの活性化レベルに応じて10面体ダイスを振り、使用できるアクションポイント(AP)を決定する。移動に1AP、応急攻撃に1AP、標準攻撃に2AP、周密攻撃に3APとかかるため、その活性化中に「移動・戦闘」が行いたければ、最低でも2APが必要となる。1APしか獲得できなければ、移動だけで終わるとか。

その移動中に、敵ZOCに侵入したり、敵ZOCから離脱する場合には、相手方プレイヤーがリアクションを試みることができる。成功すれば、手番プレイヤーの移動を中断させて、やはりアクションポイントを決定し、いずれかのスタックに行動させて、また手番プレイヤーに戻すと。

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戦闘は、戦力比を求めて両軍の損失ステップを求めるが、戦闘毎に、両軍とも戦闘チットを引き、各ユニットの有効値と戦闘状態によって乗数(つまり戦闘力を何倍にするか)を決定する。乗数は1~3なので、最大でも戦闘力3倍までだが、これによって事前の戦闘比計算が立たないようになっている。戦闘チットは、戦闘毎にプールから引き直すので、SPI「Operation Typhoon」「Patton's 3rd Army」のように、ユニットとチットがずっと固定( 紐付け)されるわけではない。

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ちなみにチャート類も、ハードボード製なので、ゲーム全体が物理的にずしりと重い……

とまあ、ざっと見た感じ、1ユニット中隊~大隊レベルで、交互に師団フォーメーションを活性化させ、その活性化量はランダム……というあたり、BCSに似ているなあと。いや、元ゲームの「Piercing the Reich」は1995年発売なのだから、実は先輩ゲームにあたるわけで、知らなかったのが申し訳ない感じ。ただ、BCSの方が補給線ルールが独特だったり、戦車の差異が細かいので、よりシンプルな印象。今回もその詳細を知って、BCSと遊び比べたいと思って、購入してみた。

一応、先に発売された「Crossing the Line」も、ハードボード版となって再販されたし、さらに同システムで北アフリカ・ガザラ戦を扱う「Operation Theseus」も出るようなので、ちょっとシリーズとして追っかけてみたい。 

Crossing the Line - Aachen 1944 - Reprint (2nd Edition) with mounted m – VUCASIMS

Operation Theseus - Gazala 1942 – VUCASIMS

 

【参考文献】イアン・トール「太平洋の試練 ガダルカナルからサイパン陥落まで(上下)」

「太平洋の試練 真珠湾からミッドウェイまで」に続く第2部「太平洋の試練 ガダルカナルからサイパン陥落まで」が文庫化されたので購入。この後の第3部の原著がなかなか出版されなかったせいか、こちらの文庫化も遅れていた模様。しかしようやく昨年、完結編となる第3部「Twilight of the Gods」が本国でも出版され、日本語版の単行本も今年年末に出るそうな。まあ、その第3部も文庫化されてから読もうかなと。第2部は、2016年に単行本が出てから文庫化されるまで5年かかったが、さすがに次はそんなに間が空かないんじゃないかと。 

さてその第2部は、中部太平洋での戦闘を中心に扱っているが、英米連合軍の思惑や、アメリカ海軍部内での人間模様も詳細に述べられたうえ、真珠湾での復興作業や、日米本土での生活、果てはハワイの売春宿の話など、銃後のエピソードも多数含まれている。戦闘に関しても、他の戦史書では割愛されがちなクェゼリン環礁の攻略戦も載っているし、昭和天皇が決戦をするようプレッシャーをかけていたという「大元帥 昭和天皇」にもあった指揮分析も含まれている。「真珠湾からミッドウェイまで」を読んだ時にも思ったが、この手の古典であるジョン・トーランドの「大日本帝国の興亡」と併読すると、新旧の太平洋戦争観が分かって面白いと思う。

時期的にも、そろそろGMT社から「Pacific War」が再版されるはずだし、TSWWの中部太平洋編「Opearation Watchtower」もそのうち発売されるはずだし、この時期の戦闘をおさらいするにも良いタイミングかなと。

 

【参考文献】リチャード・オウヴァリー「なぜ連合国が勝ったのか?」

イギリスの歴史家、リチャード・オウヴァリーの「なぜ連合国が勝ったのか?」の邦訳が出たので購入。初版は1995年だが、今回は2006年に出版された第2版の翻訳。第二次大戦で連合国が勝利した要因を、戦域レベルでは制海戦、戦略爆撃、東部戦線、フランス奪還に絞り、戦略レベルでは経済、技術、リーダーシップ、士気に焦点を当てて概説している。戦後、元ドイツ軍将官たちによって語られてきた敗因(ヒトラーが悪かった的な)ではなく、連合国のさまざまな勝因を分析することで、旧来までの偏りを是正するような内容にもなっている。

ただ、戦争経済面では、旧来のドイツ軍需相シュペーアの主張をそのままなぞっている面もあり、そのあたりは、2006年に出版された「ナチス 破壊の経済」の方がより実像に近い分析なのではないかと思う。オウヴァリーの「Russia's war」は、David Stahelからもケチをつけられていたので、古典なのだろうけれど、より新しい戦史書と組み合わせて読むのがイイのかなと。