Wargaming Esoterica

After Action Reports & Reviews of Simulation War Games ほぼ引退した蔵書系ウォーゲーマーの日記

【参考文献】Nigel Askey「Operation Barbarossa : the Complete Organisational and Statistical Alalysis, and Military Simulation Vol.I」

前々から気になっていた「Operation Barbarossa : the Complete Organisational and Statistical Alalysis, and Military Simulation(バルバロッサ作戦:完全なる組織と統計分析、及び軍事シミュレーション)」シリーズの第1巻を購入。シリーズとしては、全6巻8冊(第2巻と第3巻が2分冊)だが、どれもハードカバーで1万5千円前後、ペーパーバック版でも8千円ぐらい、KIndle版無しという状況。しかし第1巻だけは、Kindle版で2千円台、ペーパーバック版で3千円台だったので、試しにペーパーバック版を購入。

About Nigel Askey | Operation Barbarrosa

著者のNigel Askey氏は、1990年代にTalonsoftで、第二次大戦のコンピュータ・シミュレーション・ゲームの開発に携わり、その調査研究がこのシリーズにつながったとある。彼は、兵器や部隊の能力値を、理論的に導き出す解析方法を確立しており、その方法論をもってバルバロッサ作戦を分析する、というのがこのシリーズのテーマなのだが、今回買った第1巻は、まずその方法論だけが延々と書かれている。そう、タイトルには「バルバロッサ作戦」とあるが、内容的にはほとんどバルバロッサ作戦には触れられていないのだ。バルバロッサ作戦についての記述が読みたければ(高額な)第2巻以降を入手するしかない。

さすがに自分もびっくりしたが、気を取り直して、これを単なるウォーゲームの本として読むと、なかなか面白い。まず最初に『軍事シミュレーションやウォーゲームとは何か』から入り、戦術級、戦術作戦級、作戦級、戦略級という4つのカテゴリーを、有名タイトルを絡めて紹介している。

そこから解析方法……ILARM(Integrated Land and Air Resource Model)が詳解されている。これが恐ろしい積みあげ方式で、戦車、砲兵、機関銃など、個々の兵器の火力や精度を算定し、その戦力を分隊レベルから計算し、小隊、中隊、大隊、連隊、師団……と、その補給インフラやら、作戦的行動の自由やらも加味して、その戦力を推し量るというもの。その計算式も載っているが、基本文系な自分にはさっぱりだ。戦車で言うと、タイガーIやシャーマンを撃破するのに、平均何回の命中弾が必要か、平均何回の貫徹が必要かとあったり、砲塔内の乗員は何人が効率的か、弾薬の消耗率や、速射の効率性などがグラフや表でこれでもかと分析されまくっている。なんとなく『タイガーの防御力は5で、シャーマンの防御力は2かなあ』などと決めていないぞと。まあ、ウォーゲームの兵器や部隊の数値を決定するには、どういった要素を見るべきなのか、という意味では面白かった(バルバロッサ作戦どこいった)。

ちなみに著者サイトを見に行ったら「第二次世界大戦の軍事的神話」というページがあり、シベリア師団、88mm砲等に関する面白そうなコラムがあったので、そのうち読んでみたい。第2巻以降? いや、手は出ないかな……

【参考文献】クラウゼヴィッツ「縮訳版 戦争論」

クラウゼヴィッツの「戦争論」の縮訳版が出たので購入。一応、自分も学生ウォーゲーマー時代から、岩波文庫版(篠田英雄訳)には触れてきたものの、2001年に中公文庫から出た版(清水多吉訳)は、買ってから1回読み通したかどうかという程度。レクラム版の翻訳(日本クラウゼヴィッツ学会訳)も読みやすいが、この縮訳版は、さらに読みやすくなっている。でも、中公版もそうなんだけど、マリー夫人の序文が女性的な訳し方じゃないと、なんとなく違和感。そこは本論から外れるんだけどね……

【Next War Series】GMT「Next War:Vietnam」

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クロノノツーゲームさんから、現代仮想戦シリーズ第5弾にして最新作「Next War:Vietnam」が到着。デザイナーズノートを見たら『これにて中国3部作(韓国・台湾・ベトナム)は完結』と書いてあったけど、いつから3部作構想だったんだこれ。まあそれはともかく、本作の危機想定は、中国軍によるベトナム侵攻、また南シナ海を巡る制海戦。3部作と名乗っている通り「Next War:Korea」「Next War:Taiwan」との連結シナリオもあるが、かなり大がかりだなと。 

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地図盤は、ベトナムの首都ハノイを含む、中国との国境線地帯。1979年の中越戦争でも戦場となった一帯だが、こうして「Next War」スケールで見ると、結構、国境からハノイまでは近い。しかし実際、中国軍が陸路から再びベトナムに侵攻するという想定は、可能性としてどうなのだろう。3部作として連結した場合に、アメリカ軍の戦力を吸引する意味で、ベトナムにも侵攻するということだろうか。たしかに3部作として、北朝鮮が韓国に攻め込み、中国が台湾とベトナムに同時侵攻した場合、アメリカ側がどのように戦力を割り振るかは、興味深い想定ではある。

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さらに「Next War:Taiwan」にも収録されていた作戦マップが、トンキン湾エリアが区分される等、若干の修整を加えられたうえ、航空ディスプレイと統合されて付いている。まあ、現実的な想定としては、中国の海洋進出の方がよく話題にされると思う。と言っても、所詮「Next War」シリーズも「陸主海空従」なシステムなので、陸戦は詳細に表現されていても、こちらは抽象的な表現にとどまっている。それとも、そのうち「Supplement」の形で、詳細な海戦ルールが後付けされたりして…… 

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こちら黄土色ユニットが、ベトナム軍。中越戦争の際にも、ベトナム戦争を経験していた民兵部隊の活躍が知られているが、こちらでも人民自衛隊(PSDF)ユニットが多々あり、中国軍の侵攻を足止め……してくれるのだろうか。一応、人民自衛隊ユニットは、裏面が「抵抗モード」になっており、軍事施設や都市部の掃討(クリアリング)作戦を阻害する働きもしてくれる。 

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こちらが侵攻側、中国軍ユニット。空母グループ駒も2個あり、航空戦力についても、金を注ぎ込んできたなあという感じ。

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こちらは、フィリピン、マレーシア、タイ、インドネシアといった、所謂ASEAN諸国軍。南シナ海を巡っては中国と対立しつつも、経済的には中国との関係が深いということで、参戦チェックの結果によっては、中国側(Non-Allied)に味方したり、アメリカ側(Allied)に味方するという……うん、関ヶ原でもこういう武将いたかも。恐らく「Supplement #1」を導入すれば、各国の参戦を左右するために、両軍がサイバー戦工作をするというプレイも可能なはず。

フィリピン軍は、ユニット両面で兵科マークの色が違い、中国面では効率値(ER)が1落ちる。あと、タイ空軍ってスウェーデン製のJAS-39グリペン戦闘機持ってるんだなあと思って調べたらこんな記事も……

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そしてこちらが、いつものアメリカ軍、英連邦軍、さらにベトナム旧宗主国フランス軍も登場。フランス軍にも空母グループ駒があるってことは、空母シャルル・ドゴール? 

ということで、ここ1ヶ月ほどで、一気に「Next War」シリーズ5作+サプリメント2作を揃えてしまった。まあ、まだ昨年のゲームも処理し切れていないので、実際のプレイは来年以降かなと。2021年は、このシリーズの元祖にあたるGDW「The Third World War」もCompass Gamesから再版されそうだし、それが出る前後で、一緒に触れられれば良いなあと思っている。韓国、台湾、印パ、ポーランドベトナムの、どこから手を出すかは考え中……(それまでに、こういった危機が現実にならないことを祈る)

【参考文献】Martin Kitchen「Rommel's Desert War」

そろそろ「BCS:Brazen Chariots」のルール+ヒストリカルノート訳も終わりそうだなというタイミングで、また北アフリカ戦の洋書「Rommel's Desert War」を購入。こちらは特に「Brazen Chariots」の参考文献リストには含まれていなかったものの、なんとなく以前から気になっていて、Amazonの欲しいモノリストに入れっぱなしだった一冊。値段が5000円~6000円ぐらいだったので、ちょっと高いなあと思っていたが、つい先日、なぜか急に値段が2000円を割り込んできたので、じゃあこのタイミングでと。

内容的には、ロンメル率いるドイツ軍が北アフリカ戦線に登場し、チュニジアで壊滅するまでを概説したものだが、発売が2009年と新しめだったので、何か新たな知見が得られるかなと。個々の戦闘については、先日購入した「The Crucible of War」の方が断然細かく、ボリュームもあるけれど、こちらは図版・写真もあり、フォントも大きめで読みやすい。そうそう、健康診断の待ち時間に読もうと思って「The Crucible of War」を持っていったけど、やはり地図がまったく無い状態で読むのは難しいなあと。あちらはやはり「Brazen Chariots」の地図盤を広げながら、地名と部隊名をつき合わせて読みたい感じ。

【Next War Series】GMT「Next War:Poland」

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2017年に発売された、現代仮想戦シリーズ第4弾「Next War:Poland」を購入。これももう品切れだが、書泉グランデに「Next War:India-Pakistan」と一緒に店頭在庫が残っていたのだ。どちらも普通の値段で。だから一緒に買ってきてしまった。いやもちろん、すでにGMTでは「Next War:Poland 2nd Edition」のプレオーダーが始まっているのは知っていたが、それ出るの何年後よ、それまでの間、持っておくのも良いじゃない、ということで2個まとめて買ってきてしまった。だいたい、ウォーゲームが2個入るバッグを持って書泉に行った時点でダメだったな。うん、反省はしているけど後悔はない。

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地図盤に収められているのは、ポーランド西部の国境地帯から首都ワルシャワへと続く地域。ロシア領カリーニングラードリトアニアベラルーシと接する辺りである。このポーランドにロシア軍が攻め込んでくるという想定だが、いやその手前にあるバルト諸国はどうしたのよと問われれば、すでにこの戦いの前段階でロシア軍に占領されていると。そのバルト諸国戦は、あまり興味深い展開にはならないだろうというヒドい理由で割愛されている。しかしこれから先、発売予定の「Next War Supplement #3」では、リトアニアを含む拡張マップが付いているそうで、プレオーダー中の「Next War:Poland 2nd edition」でも拡張マップが予定されている。

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一応、割愛されたバルト三国に関しては、別途、戦略ディスプレイで表されている。またこの地域に含まれる、ゴトランド諸島だけの地図盤も「Supplement #3」で付くとか。 

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濃茶色のロシア軍ユニットは、さすがに豊富。 

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こちらは色とりどりのNATO諸国。「Supplement #2」で、各国毎にF35戦闘機が追加されている。 

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「Next War:Korea」「Next War:Taiwan」「Next War:India-Pakistan」用の差し替え航空機カウンターも多数収録。

とまあ、冷戦時代の「Next War」の舞台は東西ドイツ国境だったが、それが21世紀ではポーランド国境になっているあたり隔世の感がある。実際2007年にはエストニアが、ロシアからと思われる大規模なサイバー攻撃を受けており、このバルト諸国~ポーランドが、ハイブリッド戦争の最前線とも言える。一応、本作では、この戦いの時点では、すでにハイブリッド戦争は終わり、通常戦争に移行しているという想定だが「Supplement #1」のサイバー戦争ルールを追加してみるのも興味深い。またロシアの子飼いとして、本作でも登場するベラルーシでは、今年8月の大統領選を契機に、親ロシア的な政権に対する反発も強まっている。そういう意味では、いろいろ政情不安な地域でもあるので「2nd edition」が出る頃には、また別種の危機想定が入っているのかも……

【参考文献】Werner Kortenhaus「The Combat History of the 21.Panzer Division」

The Combat History of the 21. Panzer Division

The Combat History of the 21. Panzer Division

 

「The Combat History of the 21.Panzer Division」のペーパーバック版を購入。その名の通り、ドイツ第21装甲師団の戦闘記録だが、その前身である第5軽師団時代や、北アフリカで壊滅するまでの経緯は省略され、フランスで再建された後の、ノルマンディ戦、アルザス=ロレーヌ戦、オーデル戦線という、1944年~45年の末期戦のみを扱っている。前々からAmazonの欲しい物リストには入れていたが、ペーパーバック版でも5000~6000円代だったので、ちょっと高いなあと思っていたら、いつの間にか、しれっと2000円代まで下がっていたので、このチャンスに入手。しかし株じゃないんだから。

元々本書は、ノルマンディ部分が1989年に、それ以降が1990年にドイツで発表され、2014年に英語版ハードカバーが発売された模様(なので、英訳者の注も入っている)。写真もそれなりに入っており、戦況図だけまとめた薄手の別冊も付いている。人名・用語の索引もあるので、調べ物をするにも便利(あいにくKindle版が無い)。

我が家にあるウォーゲームで、この時期の第21装甲師団を、大隊・中隊レベルで目の当たりにできる作品と言うと、ノルマンディ戦なら「GOSS:Atlantic Wall」「GTS:The Greatest Day」、アルザス=ロレーヌ戦なら「GOSS:Lucky Forward」か、ASLのヒストリカル・モジュール「Hatten in Flames」か。特に本書では、Hattenの戦いについて、かなり詳細に記されているので、参考になりそうだ。ノルマンディ戦の方は、他の書物でも読めるんだけどね。まあ、GTSはすでにプレイ済みだが、GOSSはいまだに手つかずというか「Atlantic Wall」のルール訳が途中で止まっている状態。来年あたり、着手できれば良いのだけれど……いや再来年かなあ……

【参考文献】Barrie Pitt「The Crucible of War」

Wavell's Command: The Crucible of War Book 1

Wavell's Command: The Crucible of War Book 1

  • 作者:Pitt, Barrie
  • 発売日: 2019/07/23
  • メディア: ペーパーバック
 
Auchinleck's Command: The Crucible of War Book 2

Auchinleck's Command: The Crucible of War Book 2

  • 作者:Pitt, Barrie
  • 発売日: 2019/10/24
  • メディア: ペーパーバック
 
Montgomery and Alamein: The Crucible of War Book 3

Montgomery and Alamein: The Crucible of War Book 3

  • 作者:Pitt, Barrie
  • 発売日: 2020/10/21
  • メディア: ペーパーバック
 

昨年購入した「BCS:Brazen Chariots」を、ただ今翻訳中。個別ルールは、ささっと訳し終わり、デザイナーJim Danielsの謝辞、デベロッパーにしてシリーズ・デザイナーDean Essigの文章も翻訳完了。これから、最も文章量の多い、Carl Fungのヒストリカルノートに取りかかる予定。 何もそこまで訳さなくてもプレイはできるのだけれど、最近はそういった制作陣の能書きを読むのが楽しく、またそこを知らずにゲームをプレイして、見当外れで『ああだこうだ』言いたくないので。

で、その「Brazen Chariots」の推薦図書(単なる参考文献ではない)として挙げられている、Barrie Pittの「The Crucible of War」をペーパーバック3部作版で購入した。初版は1980年なので、さほど新しい本でもないが、BCS制作陣によれば『北アフリカ戦役全般を知るのに必須』とのこと。たしかに3冊合わせて900ページもの分量で、1940~1942年のリビア=エジプト地域の戦闘を扱っているので(チュニジア戦役までは及んでいない)、かなり詳細な情報が得られそうだ。

ただしこの「The Crucible of War」、図版も写真も1枚も無く、ただずらずらと文章が続くというストロングスタイル。章立てもおおざっぱだし、地名・人名の索引も無いため、興味がある箇所を調べようとすると、結構大変。そういう意味では、用語検索が可能なKindle版の方がオススメ。実際、すでに昨年の段階で3冊ともKindle版で入手できたのだけれど、自分は紙の本が好きなので、第3巻が今年10月にペーパーバックになるまで待ってしまった。まあ、とても全部読み通せるとも思えないが、「Brazen Chariots」のプレイに合わせて、気になったところは、つまみ読みしようと思う。