Wargaming Esoterica

After Action Reports & Reviews of Simulation War Games ほぼ引退した蔵書系ウォーゲーマーの日記

アドテクノス「レッドサン・ブラッククロス」

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1985年にアドテクノスから発売された仮想戦ゲーム「レッドサン・ブラッククロス(以下RSBC)」を中古で購入した。と言うか、その続編である「リターン・トゥ・ヨーロッパ」(1986年)と、拡張キット「海上護衛戦」(1986年)と、3点まとめて買ってしまった。しかも3作とも以前持っていて、数年前の断捨離でいったん処分したのに、また買い直すという、何をしているんだお前はと自分でも思う。

いやキッカケは、先日「TSWW:Singapore !」のインパール作戦シナリオをプレイした後、補給の厳しい陸海空戦域級ゲームって面白いなあ、そういや「RSBC」もそういうゲームだったよなあ、あれって実は補給戦ゲームとして革新的な作品だったんじゃないだろうか……と思い出し、ふとネット中古を探したら、たまたま3点まとめて出品されていたので、即ぽちったと。まあ、いったん手放したモノをまた入手するのは、あまり褒められないが、そういうことも、ままあると……  

 ウォーゲーマー諸氏、また作家・佐藤大輔氏の読者ならご存じかと思うが、小説版「RSBC」と、このウォーゲーム版「RSBC」は、アメリカが参戦しなかったため、ドイツが第二次世界大戦に勝ち、日本と相対する、という前提は同じだが、戦場が異なる。小説版では、ヨーロッパを制したドイツが、亡命イギリス政府を追う形でカナダに入り、そこからアメリカ合衆国に攻め込むため、主戦場はアメリカ大陸となっている。もちろん、アメリカを支援する日本軍の戦力を吸引するため、ドイツ軍はインド洋でも作戦活動を行い、その根拠地であるソコトラ島上陸作戦が小説版のクライマックスでもあるのだが、あくまでインド洋は副戦場に過ぎない。日本軍は、次に太平洋を制するため、パナマ運河侵攻作戦を開始し……というところで、著者物故のため、小説版は永遠に中断されている。  

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その小説版が発表される以前に発売された、このウォーゲーム版では、ヨーロッパを制したドイツ軍が、1945年、イラン、カザフスタン方面から、アフガニスタンへ侵攻し、すでに旧イギリス領インドに進出していた日本軍と交戦する(西阿事変)。さらにその3年後の1948年、ドイツ軍が2個軍集団をもってインドへ侵攻、これが日独の全面戦争=第三次世界大戦となった……というのが、ウォーゲーム版「RSBC」の設定である。一応この設定では、いったんインド亜大陸の過半をドイツ軍が制したものの、オーストラリアに避難していたイギリス政府の援助もあって、日英連合軍が戦線を押し戻しつつあった1950年8月にヒトラーが死亡して、停戦が結ばれるという筋書きであった。まあ、戦場の規模はだいぶ違うが、いったん押し込まれた防御側が、戦線を押し戻したところで停戦というのは、1950年前後という時代からしても、史実の朝鮮戦争をモチーフにした展開だと思われる。 

ゲームのコンポーネントとしては、フルマップ2枚に、アフリカ東部からビルマまでが描かれ、小説版で名高いソコトラ島も入っているが、そこを奪い合うことはまず無いかと。カウンター総数も1000個以上と、ちょっとしたプチ・ビッグゲームになっている。1ヘクス=100km。1ターン=10日。外交・生産ルールは無いので、戦略級ゲームと言うほどでもなく、単なる作戦級と言うには規模がデカいので、その中間の、戦略作戦級ゲームとか、戦域級ゲームというくくりが正しいのだろう。

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1ユニットは、1個師団。単純に「戦闘力-移動力」が記されている。各師団は、表面が4ステップ状態、裏面が3ステップ状態、さらに損耗すると、マーカーを置いて2ステップ、1ステップ状態を表すという、あまり見ないスタイル。

で、最初に買った1985年当時『えっ?』と思ったのが、基本的に、移動した機械化、空挺、4ステップの非機械化ユニットは、移動しただけで1ステップ損耗するというルール。当時、高校生だった自分も『動いただけで戦力が落ちるの?』と驚いたが、軍隊とは移動しただけで損耗するものである、というデザイン・ポリシーも、本作の大きな特徴である。と言うか、本作発売から30年以上経ったが、そこまでやらせるウォーゲームというのも、あまり例を見ないと思う。

また各軍ごとに、総合補給拠点(ASH)、中継補給拠点(CSH)、前線補給拠点(FSH)というカウンターが用意され、それをつなげて、各師団を補給下に置くことが求められる。このルールも、買った当時は『めんどくせーなー』と思ったが、なかなかあの1980年代、そこまでやらせるゲームも珍しく、そこにもう一度触れたくて、買い戻したとも言える。今では、OCS(Opeartional Combat Series)や、TSWW(The Second Worls war)シリーズなど、補給面に厳しいゲームも多々あるが、ある意味、先駆的なデザイン哲学だったと思う。それが面白いとか、マトモに機能するかはまた別の話として。 

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こちらが航空ユニット。1ユニット=30機。カウンター右下が航続距離、なのは良いとして、左上から、対地攻撃力、対艦攻撃力、空戦力という並びはいかがなものか。自分の感覚だと、空戦力は上(空)に、対地攻撃力は下(地面)に、だと思うのだが、このセンスだけは、いまだに解せない。 

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艦船ユニットは、軽巡以上は1ユニット=1隻。小説版「RSBC」でも、インド洋で、ドイツの戦艦「フリードリヒ」と、日本の戦艦「尾張」「紀伊」が撃ち合うくだりがあったが、ウォーゲーム版では、さらにそれを超える「デア・フリートランデル(44cm連装砲✕4)」「播磨(56cm連装砲✕3)」も登場する。まあ、どちらも仮想史実では、第三次世界大戦には間に合わなかったのだけれど。また空母も、日本軍には「飛翔」級、ドイツ軍には「ヘルマン・ゲーリング」が登場。 

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海軍にも、海軍補給線カウンターが用意されており、簡便な形でそれが表現されているが、拡張キットの「海上護衛戦」を導入すると、わざわざ日本軍が輸送船団を編成し、それをドイツ軍のUボートが襲うという、小説版「RSBC・死戦の太平洋」的な場面が再現できるかもしれない。なにしろこちらは、2009年に初めて買った時も、まったくプレイせずに処分してしまったので、今回はいずれプレイしたい。 

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この「RSBC」のリプレイは、当時「タクテクス」誌にも掲載され、自分もそれを読んで、本作を買った覚えがある。執筆者は、もちろん佐藤大輔氏。後に、彼のウォーゲーム記事をまとめた「主砲射撃準備よし!」にも再録されているので、ご興味のある方は、中古で買ってみては……と思ったが、Amazonを見たら、今、高いのね! 申し訳ないけど、自分が持っているのは、どこかのBOOKOFFで200円で買ったモノ。いや、1990年代なんて、この手の本は、そこらの古本屋さんで手軽に買えたもので。ちなみにこの本には、同じくアドテクノスの「ニイタカヤマノボレ」「ドイツ装甲師団長」「自衛隊3部作」 シミュレイター「北海道侵攻」に関する記事も載っている。

余談ながら、佐藤大輔氏は、自分が作家仕事をしていた時期に、富士見書房の新年/忘年会で何度かお見かけしたが、一度もお声をかけることは無かった。なぜなら、こんなことを言うのもなんだが、見た目からして、心身とも不健康そうな人だと思ったから。いつも不機嫌そうで、パーティー開始の挨拶でも「出版と表現の自由」に関する檄文みたいなのを延々と読み上げ、腹を空かせた売れない作家の自分としては『早く終わらねえかなー、料理が冷めちまうなー』と感じたのを、今でも覚えている。その後、ほどなくして亡くなられたと聞いて、ああ、やっぱりあの時の不健康な印象は正しかったんだなと思い、特に驚きはしなかった。まあ、それは、目に見えない世界のお話しということで……