Wargaming Esoterica

After Action Reports & Reviews of Simulation War Games ほぼ引退した蔵書系ウォーゲーマーの日記

【The Second World War】「TSWW:Barbarossa」Part.2 German Units

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21世紀のエウロパ・シリーズこと、TSWWの前期東部戦線セット「Barbarossa」のご紹介・その2。まずは、ドイツ軍ユニットを眺めてみよう。なにしろドイツ陸軍だけでカウンター1680個、海軍280個、空軍700個ぐらいあるので、とても全部は紹介しきれないが、特徴的なところだけ、かいつまんで。

そもそも、なぜそんな沢山のユニットが存在するのかと言えば、まずひとつには、基本的には1ユニット=1個師団なのに、時期によって能力値の異なる師団カウンターが複数用意されているから。能力値は、単純に「攻撃力-移動力」か「攻撃力-防御力-移動力」。兵科アイコン内の数値は、対空力。

たとえば第9装甲師団の場合、1941年6月後半ターンのバルバロッサ作戦開始時は、第1形態とも言うべき「15-14-20」ユニットを使用する。これが1942年5月前半ターンには、第2形態の「22-21-20」ユニットに更新される。たしかに第9装甲師団は、1942年3月~4月に改編され、戦車大隊が3個大隊になり、歩兵連隊にも装甲兵員輸送車が配備されたと「ドイツ装甲部隊全史 I」にある。さらに1942年8月前半ターンには、第3形態の「22-20」ユニットに更新される。この時期の具体的な改編は分からないが、対空力が1上がっているところからすると、対空部隊が増強されたのだろうか。このように微妙な戦力変化も再現しているため、自然とカウンター数も増えたと。

ちなみにドイツ軍ユニット最強額面戦力は、GD(グロスドイッチュラント)師団「31-16」ユニット。しかしこのユニットが登場するのは、1943年5月前半ターン、つまりクルスク戦を前にして改編された時期であり、この「Barbarossa」で扱う、ぎりぎり最後の時期にならないと登場しない。また1943年のドイツ軍の戦闘効率補正(CEV)は✕1.3なので、この31戦力GD師団は、31✕1.3=40.3戦力扱いとなる。

しかし1942年12月後半ターンに登場する、第7装甲師団「30-20」ユニットは、1942年中なら戦闘効率補正✕1.4なので42戦力扱いと、そのターンだけなら、実質的にはGD師団を上回る戦闘効率を発揮し、1943年1月になると、戦力30✕1.3=39戦力に落ちてしまう。史実で言うと、スターリングラードで第6軍が壊滅した後の防御戦に活躍していた時期か。

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細かな独立部隊でも、複数カウンターが用意された部隊もある。たとえば第503重戦車大隊は、1943年1月前半ターンに「4-16」で登場し、1943年2月後半ターンには「6-5-16」となり、1943年4月前半ターンには「7-6-16」に置き換えられる。これ「4-16」ではまだ全大隊が揃っておらず、大隊の装備車輌もティーガーIとIII号戦車の混成であったと。しかし後続の中隊が到着して「6-5-16」になり、さらに大隊が完全に揃ってIII号戦車を省いて「7-6-16」になる、という変化らしい。細かいな! ちなみに「重戦車」は、装甲値、対戦車値、装甲防御値としてはスタック規模✕2と見なすので、重戦車大隊(スタックポイント0.5)は、連隊規模(スタックポイント1)の戦力として計算される。

さらに第100火炎放射戦車(都市や陣地を攻撃する場合にスタック規模✕4とする)大隊、第300遠隔操縦戦車(さすがにこのルールは無かった)大隊、重突撃砲フェルディナント装備の第653、第654重駆逐戦車大隊(装甲防御値は高いけれど、対戦車値は戦車より低い)、IV号ブルムベア突撃砲装備の第216突撃砲大隊など、個性豊かなユニットが揃っている。 

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歩兵部隊も、同一師団で「10-6」「12-6」「15-6」等々の複数カウンターが用意されている他、第250スペイン義勇兵、第369クロアチア義勇兵、第373ワルーン大隊、第1トルクメン兵等、さまざまな国籍・民族部隊が登場する。また特殊部隊ブランデルブルク隊に関しても、「804」ユニットは1年に3回自動的に奇襲に成功するとか、「Bergmann」ユニットは1ゲームに1回ソ連軍が占有するヘクスを奪ってそのヘクスからソ連軍ユニットを追い出す等、個別に特殊能力が与えられている。

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各種砲兵・工兵などの支援部隊も網羅され、特にこの「Barbarossa」から3個砲兵大隊から成る砲兵指揮連隊(Arko)ルールも導入されている。また列車砲は、額面戦力こそ低いものの、都市に対しては戦力3倍、陣地に対しては戦力4倍扱いとなる。まあ、ソ連軍の暴力的な砲兵戦力を見てしまうとね……

また個人的に唸ったのが、港湾工兵部隊。これも各ユニット毎に特殊能力があり、起重機(デリック)を操作できる第313/1、第321港湾工兵は、荷物の積み下ろしコストを1/2に削減し、第60要塞建設大隊を含んでいる第323港湾工兵連隊は、港湾レベルそのものを拡張できるとのこと。

さらに、いったん除去されても無償で再建できる懲罰大隊(兵科マークが手錠……)や、「普通の人びと」でもお馴染み、第101警察予備大隊が所属するルブリン管区のSS警察連隊、特別行動隊(アインザッツグルッペン)、ディルレワインガー隊も登場。戦闘序列を読むと、こういった部隊にはすべて『このユニットは最終解決(ユダヤ人の虐殺)に関わっており……』という注記がされており、歴史的事実を学べるようになっている。このあたりは、いずれまた「普通の人びと」と一緒にご紹介したい。

また「Barbarossa」では、パルチザンとそれを掃討するルールが大きく改訂され、パルチザンのみに影響する対パルチザン影響ゾーン(APZOI)という、専用ZOCみたいなルールが導入されている。それを踏まえたうえで、反共ロシア人のカミンスキー保安部隊は、周囲2ヘクスにまで対パルチザン影響ゾーンを及ぼす特殊ルール付き。こうなってくると、多人数で「Barbarossa」キャンペーンを行う場合、パルチザン専門プレイヤーと、治安部隊専用プレイヤーがいてもいいくらい。しかし特別行動隊などの最終解決に関わった部隊は、パルチザンには強くても、通常戦闘では不利なダイス修整が付く(つまり通常戦闘では使い物にならない)という区別もされており、そういった意味でも、非常に教育的な作りになっている。

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航空ユニットも、さまざまな機体バリエーションが含まれているが、あいにく自分は軍用機マニアではないので、あまり詳しくは語れない。とりあえず戦闘機の中でも、最も空戦力が高いのはFw190A4とA5(空戦力12)。その派生型として対地支援用のFw190A3/U1も入っているが、果たして対地支援に回せるだけの余裕があるのかどうか。スツーカも各種あり、戦車殺しルーデルの名前こそ無いものの、翼下に37mm砲をぶら下げたタンクバスター機Ju87G1も登場。また変わり種としては、ビスケー湾でイギリス軍対潜哨戒機を迎撃していたというJu88C6(重戦闘機扱い)や、その夜戦バージョンもあり。また超大型輸送機Me323D1ギガントと、そのグライダーもあり、東部戦線で空挺(空輸)作戦を行う夢が膨らんだり。

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ドイツ海軍ユニットに関しても、自分は軍艦マニアではないので、語れるほどの知識は無し。たぶん軍艦マニアだったら『この当時の、このフネの対空力はどうのこうの』と語れるんだろうな。もちろん当時の海軍艦艇はひととおり網羅されているはずだし、ドイツ空軍所属の水上機輸送艦(CVS)なども収録されているのは珍しいかも。一応、連合軍のレンドリース輸送船団を襲うことも東部戦線の一部なので、ミニシナリオとしてプレイしたいとは思う。

とまあ、ドイツ軍カウンターの一部を紹介しただけでもこれだけの分量になってしまったので、次のPart.3は、枢軸中小国カウンターについて触れようと思う。

【The Second World War】「TSWW:Barbarossa」Part.1

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21世紀のエウロパ・シリーズこと、TSWW(The Second World War)の新作「Barbarossa」が今年4月に到着。お題はもちろん1941年6月の、枢軸軍によるソ連侵攻・バルバロッサ作戦を含む、東部戦線の諸戦役を1943年6月まで(つまりクルスク戦の手前まで)包括している。言うなれば、TSWW前期東部戦線セットであり、21世紀版「Drang Nach Osten」「Fire in the East」という感じか。

ボックスアートは、ドイツ軍バージョンとソ連軍バージョンがあり、自分はソ連版を選んだ。ドイツ版は、箱にデカデカと鍵十字が描かれているが、それが気に食わなかったわけではなく、単純にデザインとしてこちらが好みだっただけ。

その紹介がなぜ4ヶ月も遅れたかと言えば、到着した際、カウンターシートが1枚欠品していたのだ。実はこのゲーム、カウンターシートが28枚!も入っており、欠品に気づいた時は『まあ、多いから1枚ぐらい間違えるよな』とノンキに構え、メーカー側に連絡を入れたものの、その直後、イギリスが新型コロナウイルスの影響でロックダウンに。本作を販売しているTKC Gamesは個人事業なので、ディレクターからも『うちの年老いた母親に感染させてはいけないから、郵便局に行くのも控えている』と言われては『お、おおぅ、お大事にな』と言うしかなく、その後も、ディレクター本人が熱で寝込んだり(コロナではなかった)して、ようやく7月中旬に欠品シートが到着。しかし他の新作もどっと到着していたので、それをひととおり紹介し終わったところで、ようやくこの超大作について語れることに。いや、長かったね。

今回も、自分が購入したのはLieutenant版……地図盤とカウンターだけが印刷され、ルールブックやチャートはDVD-ROM化されたバージョン。そのおかげでだいぶ安くなったが、すべてを印刷したColonel版だと435ポンド(約6万円)となる。価格的にも、超大作である。 

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では、恐らくウォーゲーム史上最大の独ソ戦ゲームである本作の戦場から。地図盤は、全部で20枚。うち2枚は、海上移動用の戦略地図盤。残る18枚を連結して、西はワルシャワブダペスト、東はウラル山脈、北はバレンツ海、南はイランのテヘランまでと、大半の東部線戦ゲームなら省略するような範囲まで含まれている。果たしてそんなところまで入れる必要があるのかと思うが、一応、工場の疎開ルールもあるので、たとえ戦場にならなくても、後方地域として入れる必要があるのだろう。もちろん、我が家の六畳間で収まるはずもなく、現実的に言えば、地図盤2~4枚のシナリオしか置けないだろう。しかしもっと問題なのは、配置するユニット量である。 

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すでにVASSALの、バルバロッサ作戦シナリオの配置データも受け取っているので、画像として切り出してみよう。まずこちらが、ソ連フィンランド国境付近。まあ、まだかわいいものよ。 

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こちらがドイツ北方軍集団。新宿副都心どころか、ドバイの高層ビル群を彷彿とさせるハイスタックが密集している。これを現実のカウンターとして管理するのは、相当無理がある。 

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もちろん中央軍集団も、ドバイタワー並のハイスタックが屹立している。あのさ、ジェンガじゃないんだから。というわけで、ここはVASSALを頼るしか。 

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こちらは南方軍集団。枢軸側の青地に黄文字のユニットは、ルーマニア軍。ちなみに国籍で言うと、ドイツ軍、ソ連軍はもちろん、フィンランド軍、ルーマニア軍、ブルガリア軍、ハンガリー軍、スロバキア軍や、さらにイギリス海軍アメリカ海軍カウンターもたっぷり入っている。そう、レンドリース物資を運ぶ輸送船団や護衛艦も必要なのだ。

先日、日本語訳が公開されたTSWW1.6ルールブックは、全176ページ。シナリオブック(At the Starts)が126ページ、ドイツ軍の戦闘序列が108ページ、枢軸中小国の戦闘序列が41ページ、ソ連軍の戦闘序列が85ページ、西側連合軍の戦闘序列が50ページと、それ以外のデータもてんこ盛りである。

シナリオは、練習用として「ソ連軍によるベルリン爆撃」「バレンツ海海戦」から始まり、小規模の「クリミア半島戦」シナリオ、中規模の「火星作戦」「天王星作戦」「フィンランド北部」、さらに「バルバロッサ」「青作戦」キャンペーンや、仮想「ロンメル、東部線戦へ」シナリオもあり。まあ、グランドキャンペーンは無理としても、なんとかVASSALプレイには漕ぎ着けたいと思う。 

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カウンターシートは、先にも述べたように全28枚。カウンター総数7840個。これ史上最大のカウンター数じゃないかと思ったが、Decision Games版の「War in the Pacific」が、シート32枚、カウンター約9000というから、上には上がいるものだ(他にもっと多いゲームもあるかも)。

そしてエウロパシリーズの流れを汲んだTSWWも、やたら細かく、部隊や艦船や機種が網羅されているが、それはもう今回だけでは紹介しきれないので「Part.2 枢軸軍カウンター編」「Part.3 ソ連・連合軍カウンター編」として、後ほど触れたいと思う。

しかし、そういったモンスターゲーム的な側面だけでなく、本作ではドイツとソ連、双方が行った戦争の残酷面も、数多く取り入れられているところが興味深い。

たとえばドイツは、本国で人種政策が行われているせいで毎月、人口ポイントが減っていくとか、占領国の人口ポイントを本国に移送して奴隷労働に就かせたり、ソ連軍捕虜を対独協力者(ヒヴィ)として使用するなど、ナチスの人種政策が反映されている。またパルチザンルールも詳細になり、特別行動隊(アインザッツグルッペン)ユニットも含まれている。また作戦面では、ヒトラーの介入があるため、前線部隊が後退する際には、後退許可が出たかどうかを、いちいち判定する仕組み。

対するソ連も、強制労働人口ポイントを建設工兵として使用したり、ドイツ軍がコーカサス地方に侵入すると、スターリンが信頼していないコーカサス地方の人々が強制収容所に送られてしまう。そしてスターリンも作戦に介入してくるため、ドイツ軍と同様に、ソ連軍も後退許可チェックが必要になってくる。またソ連が、穀倉地帯であるウクライナやヴォルガ河西岸を失った場合、飢餓が発生し、食糧が輸入されない限り、人口ポイントが減っていく。そのため枢軸軍としては、ソ連人民を文字通り絶滅させるために、ウクライナやヴォルガ西岸を取りに行く、という作戦も採りうるわけだ。

他にも、無償で補充できる懲罰部隊ユニットも登場するなど、ここまで独ソ戦の暗部を取り入れたウォーゲームも珍しいが、もしかするとそれは、個人事業のTKC Gamesだからできる荒技であって、大手のGMTやMMPでは、ここまで踏み込めないかもしれない。まあ、TSWWには、日本軍の化学兵器や、奴隷労働(泰緬鉄道)ルールもあるので、基本的にそういったシビアな部分にも目をつぶらないスタンスなのだけれど、とにかく、さまざまな意味で恐るべき独ソ戦ウォーゲームが出たのは間違いない。

ちなみに、すでに欠品カウンターが存在することも発見されており、追加カウンターシートも出すんじゃないかと噂されている。おいおい、5万円とか6万円も出して完璧な製品じゃないなんて……と憤慨する方は買わない方がいい。TSWWは、タガの外れたウォーゲームであり、文句があるなら買うな、ついて来たい奴だけついて来いのゲームなんだと思う。そういうゲームがあってもいいじゃないの。

【参考文献】アンガス・コンスタム「北岬沖海戦 一九四三・戦艦シャルンホルスト 最期の出撃」

北岬沖海戦 (一九四三・戦艦シャルンホルスト最期の出撃)

北岬沖海戦 (一九四三・戦艦シャルンホルスト最期の出撃)

 

新刊「北岬沖海戦 一九四三・戦艦シャルンホルスト 最期の出撃」 を購入。著者は、オスプレイの各種シリーズでの著作も多いアンガス・コンスタム。お題は、1943年12月に行われた、欧州戦線最後の戦艦同士の戦いでもある、北岬沖海戦。訳者あとがきにもあったが、たしかにひと昔前(いやふた昔、さん昔、よん昔前か)なら、ハヤカワのノンフィクション文庫から出ていてもおかしくないテーマだなと。

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我が家にあるウォーゲームでは「TSWW : Hakkaa Päälle」に、この北岬沖海戦シナリオが入っている。あくまで海戦に慣れるための練習シナリオなのだが、本書も読んだことだし、ちょっと動かしてみたい気もしている。ちなみに本書の主人公艦であるシャルンホルスト(TSWWでは巡洋戦艦BC扱い)は、イギリス側の戦艦デューク・オブ・ヨークより防御力(カウンター右上の数値)は高くなっており、速度(カウンター右下の数値)も、イギリス軍の軽巡洋艦並になっている。もちろん砲撃力(カウンター左上の数値)は、デューク・オブ・ヨークの方が優っており、実際ゲーム上で会敵したら、シャルンホルストとしては、1ラウンド戦って逃げる感じだろうか。まあ、巡洋戦艦ってそういう立ち位置か。 

【参考文献】Nicholas Palmer「The Best of Board Wargaming」

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ピーター・P・パーラによるウォーゲーム評論書「無血戦争」の中で「ボード・ウォーゲーミング包括ガイド(Comprehensive Guide to Board War Gaming)」なる本が紹介されていたので、Amazonで検索したところ、同著者の「The Best of Board Wargaming」という書籍の方が面白そうだったので、イギリスの古書店から購入してみた。約3500円。 

Comprehensive Guide to Board War Gaming

Comprehensive Guide to Board War Gaming

  • 作者:Palmer, Nicholas
  • 発売日: 1977/08/18
  • メディア: ハードカバー
 
Best of Board War Gaming

Best of Board War Gaming

  • 作者:Palmer, Nicholas
  • 発売日: 1980/10/23
  • メディア: ハードカバー
 

本書の発行は1980年。当時発売されていたウォーゲーム約100タイトルについて、興奮度、ルールの明確さ、複雑度、現実性、ソロプレイに適しているかについて、さまざまなウォーゲーム識者が100点満点で採点し、短いレビューを添えて、紹介している。当然、採り上げられているのは古いゲームタイトルばかりだが、それはそれで、オールドスクール・ウォーゲーマーは楽しめるかもしれない。こういった評価は、映画評論やレコード評論と一緒で、客観的なものより、主観的な評価が面白いと思う。そんな本書の評価をいくつか見てみると……

「SPI Air War」興奮度40、明確さ75、複雑度100、現実性90、ソロ85。

「SPI Campaign for North Africa」興奮度15(ゲーム展開が遅すぎる)、明確さ90、複雑度100、現実性100(であって欲しい)、ソロ10(可能だけれど、現実的には無理)。

「AH Diplomacy」興奮度90、明確さ90、複雑度20、現実性0、ソロ0。

「GDW Drang Nach Osten」興奮度80、明確さ20、複雑度85、現実性75、ソロ90。

Flat Top」(この当時はAvaronhillではなくBattleline製品) 興奮度75、明確さ75、複雑度80、現実性90、ソロ20。ちなみにレビューを書いているのは「Iron Bottom Sounds」でもお馴染みのJack Greene氏。『十分にプレイテストはされているが、問題は、ルールが細かいことと、時間を食うこと』。

「GDW Imperium」興奮度40、明確さ100、複雑度35、現実性75、ソロ90。えっ「Imperium」興奮しない? SFゲームなのに現実性が高いという評価も良く分からない。でも評者の『深刻なウォーゲームをしたくないプレイヤーにとっては良い選択』ってのは分かる。

「SPI Invasion America」興奮度35、明確さ85、複雑度30、現実性5、ソロ90。

「SPI Next War」興奮度85、明確さ70、複雑度50~100(シナリオによる)、現実性85、ソロ40。

「AH Panzer Blitz」興奮度90、明確さ70、複雑度50、現実性35、ソロ90。

「AH Panzer Leader」興奮度80、明確さ75、複雑度60、現実性50、ソロ85。

「AH Arab-Isareli Wars」興奮度65、明確さ75、複雑度75、現実性70、ソロ80。

「PB」は、東部戦線を忠実にシミュレーションしたものではなく、戦車指揮官の夢を再現したゲームという意味で現実性が低いと。しかし「AIW」では、さまざまなルールを付け足して現実性は高まったものの、プレイそのものの興奮度は低くなるという……

「SPI Panzer Gruppe Guderian」興奮度80、明確さ100、複雑度30、現実性60、ソロ100……いや待て、なぜ未確認ユニットを使うPGGがソロ度100(最適)なんだ?と思ったけど、ドイツ軍プレイヤーとして、ソ連軍ユニットの内容は見ずに裏向きに配置すれば、たしかにソロプレイ向きと言えるのか。評者も、むしろソ連軍プレイヤーが意図的に強力なスタックと、脆弱なスタックを作れる方が問題としている。

「AH Squad Leader」興奮度100、明確さ99、複雑度80、現実性75、ソロ90。

「AH + Cross of Iron」興奮度95、明確さ99、複雑度90、現実性80、ソロ80。

「AH + Crescendo of Doom興奮度90、明確さ99、複雑度95、現実性85、ソロ80。 

ちなみに本書では、わざわざ一章を設けて「Squad Leader」シリーズをお題に、ウォーゲームの現実性について論じている。要するに『ルールを細かくしたからといって、現実性が高まるのか?』『正確さと現実性は同じなのか?』という問題。「Squad Leader」は、そのあたりの抽象化が上手く、第二次大戦の歩兵戦闘のシミュレーションを目指さず、デザイナーであるJohn Hillが解釈した第二次大戦の歩兵戦闘のシミュレーションになっていると。しかしイギリス人である筆者にとって、アメリカ人のJohn Hillが描いた「Squad Leader」の市街地図はヨーロッパらしくない(実際のヨーロッパ市街はもっと狭い)という意見も述べられていて、そういった英米(欧米)の違いも面白い。

「SPI Terrible Swift Sword」興奮度65、明確さ90、複雑度75、現実性75、ソロ80。 

「AH Third Reich」興奮度90、明確さ10、複雑度90、現実性50、ソロ75。

「AH War at Sea」興奮度70、明確さ95、複雑度10、現実性5、ソロ85。

「AH Victory in the Pacific」興奮度80、明確さ95、複雑度20、現実性20、ソロ85。

「SPI War in Europe」興奮度65、明確さ50、複雑度80、現実性60、ソロ60。

「SPI War in the East」興奮度55、明確さ65、複雑度65、現実性70、ソロ60。

「SPI War in the West」興奮度70、明確さ40、複雑度90、現実性50、ソロ60。

「SPI War in the Pacific」興奮度75、明確さ90、複雑度100、現実性70、ソロ0。

「GDW White Death」興奮度75、明確さ85、複雑度65、現実性75、ソロ90。

「AH Wooden Ships and Iron men」興奮度60、明確さ95、複雑度30、現実性50、ソロ5。

「SPI World War I」興奮度65、明確さ70、複雑度25、現実性40、ソロ95。

……という感じ。中には、自分が触れていないゲームも多々あるが、こういったゲーム評論を読むのは大好物。今現在、Board Game Geekでも、10点満点でゲーム評価ができるが、あれは評価軸が単一の総合評価であり、本来はこういった複数評価軸で論じた方が、そのゲームの内容がよく分かるかと思う。もちろん興奮度なんて、個人の意見以外のなにものでも無いけどさ。

また本書では他にも、作戦級ゲーム、SFゲーム、大型のモンスターゲーム、手軽に遊べる(ビア&プレッツェル)ゲームについての記事もあり。評価自体は古いものだけれど、ウォーゲーム・レビュアーとしての姿勢は、目を通しておきたい内容になっている。 

【Advanced Squad Leader】「ASL Starter kit Expansion Pack #2」

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クロノノーツゲームさんから、ASL スターターキットシリーズの新・追加キット「Expansion Pack #2」を購入。ちなみに数年前に発売された「Expansion Pack #1」は、買い忘れていて手元に無い。多分、持っているつもりだったんだろうなあ。あと個人的に、本家ASL製品より、スターター製品の方が、所有するモチベーションがちと低い。なので今回も、わざわざプレオーダーはしなかった。まあ、いずれ「#1」も再版するというアナウンスがあったので、その時は買っておくつもり。

ASLスターターシリーズも、昨年発売された「Starter Kit #4」で太平洋戦線に踏み出し、日本軍ユニットが導入されたが、それに続く形の「Expansion #2」では、中国軍やオランダ軍(連合軍中小国)ユニットを導入し、太平洋戦線をより拡充するためのキットとなっている。 

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地図盤は、市街地を描いたKと、平野部を描いたlの2枚。さらに飛行場のオーバーレイ付き。 

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カウンターシートの大半は、中国軍ユニット。本家ASLでは、国民党軍(国府軍)と共産党軍(中共軍)のカウンターが別になっているが、この「#2」に含まれているのは、前者の方。と言ってもルール上、その両者が「中国軍」という呼称でひとくくりにされる場合もある。本家ASL同様、決死隊(Dare Death Squad)なる、自発的に狂暴化できるルールもあり。 

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シナリオは8本。1937年の上海、1941年のフィリピン、1942年のジャワ、ビルマニューギニア、1944年のビルマ等。まあ、ASLもいろいろ買っている割にコレクター化しているし、がっつり本家ルールでヒストリカル戦をやってみたいという夢はあるものの、結局、現実的には軽くスターターシナリオを遊んで満足……というパターンになってしまっている。たしかに、こういった軽めシナリオが沢山あると、とりあえずASLをプレイしたい時には便利なのだが、ついつい、そこで止まってしまうのも考えもの。スターターはスターターとして確保しておきつつ、またそのうち、本家ルールを復習しておかないと……

【参考文献】「Days of Battle : Armored Operations North of the River Danube, Hungary 1944-45」

Days of Battle: Armoured Operations North of the River Danube, Hungary 1944-45

Days of Battle: Armoured Operations North of the River Danube, Hungary 1944-45

 

「OCS:Hungarian Rhapsody」の参考にと思い、ハンガリー軍事史家、Norbert Sza'mve'ber氏(名前が読めん)の著作「Days of Battle : Armored Operations North of the River Danube, Hungary 1944-45(ダニューブ河北部での機甲作戦)」を購入。ハンガリー戦に関する氏の著作は「OCS:HR」の参考文献にも挙げられていたが、まずは一番手頃な値段のモノから取り寄せてみた。

本書で扱う戦闘地域は「OCS:HR」で言うと、地図盤A(西)の北側、ブダペストの北西地域である。本書には、カラーの戦況図も載っているが、詳しすぎて、むしろ「OCS:HR」には載っていない地名ばかり。 地図盤で言うなら、Esztergom(ヘクスA2915)、Komaron(A3009)、Ersekujvar(A2608)あたりで、1944年12月~1945年1月にかけて行われたソ連軍の攻撃と、ドイツ軍の反撃を扱っている。

OCSのスケールで言うと、かなり狭い範囲の戦闘を扱い、両軍の戦闘経緯も、大隊・中隊レベルまで言及されているので、むしろハンガリー戦を扱ったBCS(Battalion Combat Series)の次作「Panzer's Last Stand」の参考になりそうだ。とりあえず、BCSの新作が出るまで寝かせておくか……ちなみに氏の著作は以下に(未発売もあり)。 

Armoured Warfare in the Battle for Budapest: 29 October 1944-1 January 1945

Armoured Warfare in the Battle for Budapest: 29 October 1944-1 January 1945

 
Last Panzer Battles in Hungary: Spring 1945

Last Panzer Battles in Hungary: Spring 1945

 

 

【Operational Combat Series】「Hungarian Rhapsody」

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プレオーダーしていたOCS(Operational Combat Series)第18弾にして、2年ぶりの新作「Hungarian Rhapsody」が到着。本作のお題は、1944年10月から1945年2月までのハンガリー戦である。史実としては、ブダペスト陥落で終わる時期のため、1945年3月から開始されたドイツ軍の「春の目覚め」作戦、それと平行するソ連軍の「ウィーン」攻勢の時期は含まれていない。恐らく「春の目覚め」だけなら、今回の地図盤範囲でも収まるだろうが、ソ連軍の「ウィーン」攻勢まで含めようとすると無理なのだろう。

ちなみにシナリオは、グランドキャンペーン(43ターン)含めて18本。地図盤1枚シナリオが5本、10ターン以下のシナリオも7本と、取っつきやすい構成にはなっている。 

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地図盤は、フルサイズ2枚とブダペスト周辺の拡大地図が1枚。範囲としては、東にルーマニア領、南はユーゴスラビア領、北はドイツとスロバキア領に囲まれた、ハンガリー領土の大半が収められている。中央のハンガリー平野は、機動戦向きに見えて、各所に点在する湿地が邪魔なような気も。 

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ブダペストの市街戦に焦点を当てた作戦級ゲーム「Hungarian Nightmare」は、あいにく手放してしまったが、「ASL:Festung Budapest」は手元にあるので、スケールを変えてプレイできそうだ。

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カウンターシートは全6枚、カウンター総数1680個(うち1/3は、マーカー類)。

こちらはドイツ軍ユニット。中隊ユニットとして分割された第501SS、第503、第509重戦車大隊や、スロヴァキア蜂起に対して臨時編成されたタトラ装甲野戦訓練師団(AR3というドイツ装甲師団とも思えない低練度)、ブダペスト市街戦で全滅したフェルトヘルンハレ(将軍廟)装甲擲弾兵師団など、末期戦らしいユニットであふれている。 

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また、やはりブダペスト市街戦に投入された第8SS騎兵師団フロリアン・ガイアー、第22SS義勇騎兵師団マリア・テレジアも登場。このあたり「カンプフ・オブ・ヴァッフェン」第1巻で読んだ連中である。しかし第3SS装甲師団トーテンコップフ、第5SS装甲師団ヴィーキングの各大隊・連隊ユニットを見ると、一度除去されたら二度と戻ってこれない再建不可マークが付いているので、もう継戦能力がガタ落ちしているのが良く分かる。ちなみに青灰色のハンガリー軍ユニット等もご同様で、いったん崩れたら取り返しがつかないのだろう……

唯一、気を吐いているのがドイツ空軍ユニットで、撃墜王エーリヒ・ハルトマン(空戦力6!)、戦車狩りのハンス・ウルリッヒ・ルーデル(敵の戦闘機が来たら自動的に逃げられるし、敵の対空砲に撃たれても撃墜はされない)が登場。 

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対するソ連軍は、「OCS:Baltic Gap」同様、機甲、対戦車、砲兵ユニットをふんだんに備えたゴージャスな陣容。そもそも補給表を見ても、1944年10月は平均13SP(補給ポイント)が届き、11月は平均13SP(最大19SP)、12月は平均29SP(最大36SP)と、かなり潤沢に戦えそうに見える。しかしソ連軍のルーマニアハンガリーへの進撃は速すぎて、鉄道のゲージ変換作業が追いつかず、ドニエストル河からは、トラックと馬車を使うしかなかったため、その兵站上の制約を表した特別ルールも入っている。

ちなみに枢軸軍の補給量は、10月が平均7SP(最大12SP)、11月~12月が平均8SP(最大13SP)。つまり補給量だけで見ても、ソ連軍は2倍から3倍となっている。 

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しかしNKVDだ、突撃工兵だは良いとして、ソ連軍歩兵師団の練度(アクションレーティング)は総じて低く、頼りになる奴と、頼りにならない奴の高低差が激しすぎる。 

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「Hungarian Rhapsody」自体の特別ルールとしては、ソ連軍の補給制約の他にも、ブダペスト包囲戦を生き抜くための「グヤーシュ(ハンガリー料理)」や、タンクバスター機、スロヴァキアやチェコパルチザン部隊等、小ネタも満載。 

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地形チャートや管理ディスプレイも、今までのOCSに無かった、カラフルで見栄えのするものになっている。本作は、ハンガリー在住のStephane Acquaviva氏の作だが、これが氏の最初のデザイン作品であり、最初のOCS作品でもある。恐らくOCS界隈にも新たな人材が入りつつあり、そういった人たちが、古参者が気にしなかった部分を見直したり、ルールに手を入れたりしているのだろう。ネット上でも、自分でOCS作品をデザインしている人たちが見られるし、また新たなOCS作品が登場するかもしれない。

自分がOCSに触れた20年前は、まだこのシリーズもその真価を正しく評価されておらず、ある意味、不憫なシリーズだった。しかしこの20年、コンスタントにシリーズを継続し、ルールも整備され、真っ当な評価もされ、国内ユーザーも増えてきたようで、良かった良かったと。むしろ自分としては、新たな不憫なシリーズ(TSWWやBCS)に力を入れたいので、OCSも後回しでいいかなと。というわけで、本作に触れるのも先延ばしになるかと思うが、そうこうしているうちに、シリーズの次作「Third Winter」が出てしまいそうなのだが……