Wargaming Esoterica

After Action Reports & Reviews of Simulation War Games ほぼ引退した蔵書系ウォーゲーマーの日記

【参考文献】Nicholas Palmer「The Best of Board Wargaming」

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ピーター・P・パーラによるウォーゲーム評論書「無血戦争」の中で「ボード・ウォーゲーミング包括ガイド(Comprehensive Guide to Board War Gaming)」なる本が紹介されていたので、Amazonで検索したところ、同著者の「The Best of Board Wargaming」という書籍の方が面白そうだったので、イギリスの古書店から購入してみた。約3500円。 

Comprehensive Guide to Board War Gaming

Comprehensive Guide to Board War Gaming

  • 作者:Palmer, Nicholas
  • 発売日: 1977/08/18
  • メディア: ハードカバー
 
Best of Board War Gaming

Best of Board War Gaming

  • 作者:Palmer, Nicholas
  • 発売日: 1980/10/23
  • メディア: ハードカバー
 

本書の発行は1980年。当時発売されていたウォーゲーム約100タイトルについて、興奮度、ルールの明確さ、複雑度、現実性、ソロプレイに適しているかについて、さまざまなウォーゲーム識者が100点満点で採点し、短いレビューを添えて、紹介している。当然、採り上げられているのは古いゲームタイトルばかりだが、それはそれで、オールドスクール・ウォーゲーマーは楽しめるかもしれない。こういった評価は、映画評論やレコード評論と一緒で、客観的なものより、主観的な評価が面白いと思う。そんな本書の評価をいくつか見てみると……

「SPI Air War」興奮度40、明確さ75、複雑度100、現実性90、ソロ85。

「SPI Campaign for North Africa」興奮度15(ゲーム展開が遅すぎる)、明確さ90、複雑度100、現実性100(であって欲しい)、ソロ10(可能だけれど、現実的には無理)。

「AH Diplomacy」興奮度90、明確さ90、複雑度20、現実性0、ソロ0。

「GDW Drang Nach Osten」興奮度80、明確さ20、複雑度85、現実性75、ソロ90。

Flat Top」(この当時はAvaronhillではなくBattleline製品) 興奮度75、明確さ75、複雑度80、現実性90、ソロ20。ちなみにレビューを書いているのは「Iron Bottom Sounds」でもお馴染みのJack Greene氏。『十分にプレイテストはされているが、問題は、ルールが細かいことと、時間を食うこと』。

「GDW Imperium」興奮度40、明確さ100、複雑度35、現実性75、ソロ90。えっ「Imperium」興奮しない? SFゲームなのに現実性が高いという評価も良く分からない。でも評者の『深刻なウォーゲームをしたくないプレイヤーにとっては良い選択』ってのは分かる。

「SPI Invasion America」興奮度35、明確さ85、複雑度30、現実性5、ソロ90。

「SPI Next War」興奮度85、明確さ70、複雑度50~100(シナリオによる)、現実性85、ソロ40。

「AH Panzer Blitz」興奮度90、明確さ70、複雑度50、現実性35、ソロ90。

「AH Panzer Leader」興奮度80、明確さ75、複雑度60、現実性50、ソロ85。

「AH Arab-Isareli Wars」興奮度65、明確さ75、複雑度75、現実性70、ソロ80。

「PB」は、東部戦線を忠実にシミュレーションしたものではなく、戦車指揮官の夢を再現したゲームという意味で現実性が低いと。しかし「AIW」では、さまざまなルールを付け足して現実性は高まったものの、プレイそのものの興奮度は低くなるという……

「SPI Panzer Gruppe Guderian」興奮度80、明確さ100、複雑度30、現実性60、ソロ100……いや待て、なぜ未確認ユニットを使うPGGがソロ度100(最適)なんだ?と思ったけど、ドイツ軍プレイヤーとして、ソ連軍ユニットの内容は見ずに裏向きに配置すれば、たしかにソロプレイ向きと言えるのか。評者も、むしろソ連軍プレイヤーが意図的に強力なスタックと、脆弱なスタックを作れる方が問題としている。

「AH Squad Leader」興奮度100、明確さ99、複雑度80、現実性75、ソロ90。

「AH + Cross of Iron」興奮度95、明確さ99、複雑度90、現実性80、ソロ80。

「AH + Crescendo of Doom興奮度90、明確さ99、複雑度95、現実性85、ソロ80。 

ちなみに本書では、わざわざ一章を設けて「Squad Leader」シリーズをお題に、ウォーゲームの現実性について論じている。要するに『ルールを細かくしたからといって、現実性が高まるのか?』『正確さと現実性は同じなのか?』という問題。「Squad Leader」は、そのあたりの抽象化が上手く、第二次大戦の歩兵戦闘のシミュレーションを目指さず、デザイナーであるJohn Hillが解釈した第二次大戦の歩兵戦闘のシミュレーションになっていると。しかしイギリス人である筆者にとって、アメリカ人のJohn Hillが描いた「Squad Leader」の市街地図はヨーロッパらしくない(実際のヨーロッパ市街はもっと狭い)という意見も述べられていて、そういった英米(欧米)の違いも面白い。

「SPI Terrible Swift Sword」興奮度65、明確さ90、複雑度75、現実性75、ソロ80。 

「AH Third Reich」興奮度90、明確さ10、複雑度90、現実性50、ソロ75。

「AH War at Sea」興奮度70、明確さ95、複雑度10、現実性5、ソロ85。

「AH Victory in the Pacific」興奮度80、明確さ95、複雑度20、現実性20、ソロ85。

「SPI War in Europe」興奮度65、明確さ50、複雑度80、現実性60、ソロ60。

「SPI War in the East」興奮度55、明確さ65、複雑度65、現実性70、ソロ60。

「SPI War in the West」興奮度70、明確さ40、複雑度90、現実性50、ソロ60。

「SPI War in the Pacific」興奮度75、明確さ90、複雑度100、現実性70、ソロ0。

「GDW White Death」興奮度75、明確さ85、複雑度65、現実性75、ソロ90。

「AH Wooden Ships and Iron men」興奮度60、明確さ95、複雑度30、現実性50、ソロ5。

「SPI World War I」興奮度65、明確さ70、複雑度25、現実性40、ソロ95。

……という感じ。中には、自分が触れていないゲームも多々あるが、こういったゲーム評論を読むのは大好物。今現在、Board Game Geekでも、10点満点でゲーム評価ができるが、あれは評価軸が単一の総合評価であり、本来はこういった複数評価軸で論じた方が、そのゲームの内容がよく分かるかと思う。もちろん興奮度なんて、個人の意見以外のなにものでも無いけどさ。

また本書では他にも、作戦級ゲーム、SFゲーム、大型のモンスターゲーム、手軽に遊べる(ビア&プレッツェル)ゲームについての記事もあり。評価自体は古いものだけれど、ウォーゲーム・レビュアーとしての姿勢は、目を通しておきたい内容になっている。