Wargaming Esoterica

After Action Reports & Reviews of Simulation War Games ほぼ引退した蔵書系ウォーゲーマーの日記

【Grand Tactical Series】「The Greatest Day: Sword, Juno, and Gold Beaches」(Battle for Normandy vol.1)

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昨年発売されたGTS(Grand Tactical Series)第4作にして、ノルマンディ上陸作戦三部作の第一弾「The Greatest Day:Sword, Juno, and Gold Beaches」を入手した。前々から欲しかったが予算が無かったため、そのうち買えればいいやと思っていたところ、なんと先に購入していたkotatu氏から代金後払いで譲っていただいたのだ。長年ウォーゲームを趣味にする間に、いろいろな方からご厚意を頂戴してきたが、今回も破格の恩恵に甘えてしまった。年末年始に本作をプレイさせていただいた後、現物が手元に来たというのも、ウォーゲームの神様からの「このゲームを翻訳してプレイしなさい」とのご神託かいや違うか。とにもかくにもkotatuさん、どうもありがとうございます。

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さて本作は、WWIIノルマンディ上陸作戦においてイギリス軍が上陸した3海岸、ソード、ジュノー、ゴールド海岸を含む地域を大型マップ4枚+ミニマップ8枚に収めている。キャンペーンゲームの期間は、イギリス第6空挺師団による6月5日の夜間降下に始まり、6月6日D-Dayの上陸から6月13日のヴィレル・ボカージュ戦までを扱っている。ゲームスケールは通常のGTSスケール、1ヘクス=500m、1ユニット=中隊、1ターン=2時間(夜間以外)。

さすがにマップすべてを使ったキャンペーンは敷居が高いが、そこはGTS。本作もマップ1枚以下で遊べるシナリオが多数用意されており、裏面にはシナリオ専用マップも印刷されている。これはGTS第1作「The Devil's Cauldron」と同じ仕様だが、第2作「Where Eagles Dare」で見送られ、GTSファンから「価格は上がってもいいからシナリオ専用マップを付けてくれ!」との要望が叶った形である。

先日プレイしたヴィレル・ボカージュ戦シナリオ「The Black Baron」「Day of the Tiger」も面白かったが、他にもイギリス第6空挺師団の戦闘を切り取った「Saga of the 6th Airborne」、D-Day夕刻のオッペルン・フォン・ブロニコウスキー少佐(指揮官カウンターあり)による第21装甲師団の反撃シナリオ「To the Sea」、「TCS:Canadian Crucible」でも描かれたカナダ第3歩兵師団と第12SS装甲師団の死闘を模した「O Canada」「Nemesis」シナリオ等、興味深い状況設定が詰まっている。

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本作で新たに登場した海軍と上陸ルールは、かなりボリュームがある。なにしろ海軍は戦艦・巡洋艦は艦名入りユニットで、駆逐艦、ロケット発射船、上陸用舟艇までユニット化されている。その上陸用舟艇に陸上ユニットを乗せ、海岸砲台や陣地と射撃し合いながら突破口を開く……のだと思う。なにしろ上陸ルールの分量が多すぎてまだ読めていないが、 第1ターン(つまり上陸時)だけのキャンペーンシナリオがある、というだけでも、かなりの大事になりそうだ。

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1ヘクス=500mのGTS規格で表現すると、カーン市街もこの通り。パンツァー・マイヤーことクルト・マイヤー(当時)SS中佐が観測に用いた修道院の教会も描き込まれているし、マイヤーSS中佐自身も第12SS装甲師団の指揮官としてカウンター化されている。

他にも、イギリス空挺師団の目的地ペガサスブリッジやメルヴィル砲台、ソード海岸に面した街ウィストレアムのカジノ等、戦史でお目にかかった地名をGTSスケールで探して眺めるだけでもかなり楽しい。

擲弾兵―パンツァーマイヤー戦記 (学研M文庫)

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カウンターシートは16枚にも及び、カウンター総数は2800個を越える。

GTS基本ルールがver2.0に更新されたことに伴い、ユニットの能力値にも変化が見られる。たとえば新たな火力タイプとして登場した「軽迫撃砲」(ユニット左上の紫ボックスの数値)は、迫撃砲と言いつつ射程1で弾幕も発生させない。その代わり基本ルールで禁じられている「師団活性化チットでの第1アクションでも射撃可」という便利能力を付されている。この「軽迫撃砲」は連合軍歩兵のみに見られ、ドイツ軍には皆無であり、戦術ドクトリンの差も表現しているようだ。

ちなみに連合軍として登場するのは、イギリス第3・第50・第51歩兵師団、カナダ第3歩兵師団、イギリス第6空挺師団、イギリス第7機甲師団、もろもろのイギリス機甲旅団、海兵コマンド部隊といったところか。また各歩兵師団には、イギリス第79機甲師団・通称ファニーズの変わり種工兵戦車(地雷除去用戦車シャーマン・クラブ、290mm迫撃砲装備チャーチルAVRE)も配属されている。

イギリス第50歩兵師団には、連合軍唯一の実名英雄、スタンリー・ホリス曹長(たった一人でトーチカを占領。コーネリアス・ライアン「史上最大の作戦」にも記述あり)もカウンター化されている。このあたりの戦史ネタを拾うのもGTSの楽しみのひとつだ。

一方、ドイツ軍ユニット。灰色ユニットが装甲教導師団……なのは分かるが、黒ユニットはSS師団ではなく、国防軍の第21装甲師団である。そして青ユニットが第12SS装甲師団。これ、色の配置、逆にできなかったか。昨今、SSユニットを黒くしない=ナチスをカッコ良く表現しない、という縛りがあるのかもしれないが……

ドイツ軍は、上記の3個装甲師団に加えて、第346、第352、第711、第716擲弾兵師団が登場。まあその辺りの3ケタ守備師団はともかく、第21、第12SS、装甲教導師団の指揮能力は恐ろしいほど高く設定され、数値を見ただけでも連合軍の苦戦は必至に思えた。

両軍の部隊編成に関しても、かなり時間をとって調査したらしく、ルールブックの随所にリサーチャーのコメントが多々挿入されている。他にもデザイナーやプレイテスター自身が「なぜこのルールはver2.0でこう変更されたのか?」「このルールは何を意味しているのか?」という疑問にあらかじめ答えており、読んでみるとルール設計の背後にある思想や史実が理解できて、すこぶる面白い。なぜイギリス軍海岸なのに1個だけアメリカ第987野戦砲兵大隊(M12キングコング155ミリ自走砲装備)がいるのか?なぜドイツ軍88ミリ砲なのに間接砲撃能力が与えられているユニットがあるのか?等々、制作陣の楽しいイイワケも満載だ。

とりあえずこれ一作で、優に一年以上は遊べる内容なので、しばらくはいろいろなシナリオを試してみたい。ノルマンディ三部作のオマハ海岸編、ユタ海岸編が出版されるのは、まだまだ数年後だろうし……

※ちなみにGTS第5作は現在プレオーダー中の「Operation Mercury(クレタ島降下作戦)」になるはず。