Wargaming Esoterica

After Action Reports & Reviews of Simulation War Games ほぼ引退した蔵書系ウォーゲーマーの日記

【参考文献】ジョン・キーガン「ノルマンディ戦の六ヶ国軍:Dデイからパリ解放まで」

1982年に原書が出版された、軍事史家ジョン・キーガンの「ノルマンディ戦の六カ国軍」が邦訳されたので早速購入。サブタイトル通り、1944年6月のノルマンディ上陸作戦から、同年8月のパリ解放までの経緯をまとめた一冊……なんて書くと、コーネリアス・ライアンの「史上最大の作戦」や、アントニー・ビーヴァーの「ノルマンディ上陸作戦1944」と同じような内容に思えるが、これはまたちょっと違う。

まず序盤は、WWII当時イギリスの小学生だったキーガン本人の回想……当時の疎開先の心象風景を微に入り細に入り語った後、そこから第二戦線をいつどこで開くかという連合軍の戦略レベルの葛藤を、マーシャル、アイゼンハワー、ブルックといった人物を軸に述べていく。そしていよいよ本編に入ると、ノルマンディ戦に関わった六カ国軍(イギリス、アメリカ、カナダ、自由フランス、ポーランド、ドイツ)の戦闘経緯になるという、なかなかスロースタートな構成になっている。遅ればせながら先月入手した「戦場の素顔」の訳者あとがきでも、キーガン独特の筆致や、その意図……キーガン自身、戦争に参加したことがないのに、王立士官学校で戦史を教える立場にあるため、当時の兵士たちの戦場心理を探求した……について触れていたが、単なる戦記本として読み始めると、ちょっと面食らうかもしれないが、それはそれで面白い視点だと思う。

ウォーゲーマー的には、第二章以降の各国軍の戦闘記録が興味深く、アメリカ第101空挺師団の各大隊の降下戦闘はもちろん、カナダ第3歩兵師団の上陸戦闘についても、まるまる一章を割いているので「GTS:The Greatest Day」の参考文献にぴったり。

またカーン周辺での、エプソム作戦(6月24日~7月1日)、グッドウッド作戦(7月18日~19日)におけるイギリス軍部隊についても、兵士たちの心理という観点から、スコットランド部隊や、ヨーマンリー(19世紀の義勇農民兵)部隊の伝統や気質も詳しく述べられている。さらにファレーズ包囲網を閉じる際の、ポーランド第2機甲師団の戦闘も紹介されていて、ウォーゲーム的に言うと、詳細な作戦級~戦術作戦級レベルの話が載っているし、他の邦訳書ではあまり見かけない部隊の話も多いので、そのあたりにご興味のある方は是非是非。個人的には「GOSS : Atlantic Wall」に再チャレンジしたくなった(^_^)