Wargaming Esoterica

After Action Reports & Reviews of Simulation War Games ほぼ引退した蔵書系ウォーゲーマーの日記

【参考文献】イアン・トール「太平洋の試練 真珠湾からミッドウェイまで(上下)」

太平洋の試練 真珠湾からミッドウェイまで 上

太平洋の試練 真珠湾からミッドウェイまで 上

 
太平洋の試練 真珠湾からミッドウェイまで 下 (文春文庫)

太平洋の試練 真珠湾からミッドウェイまで 下 (文春文庫)

 

「太平洋の試練 真珠湾からミッドウェイまで(上下)」が文庫化されたので購入。一応、全3作(6冊)のうちの最初の1作(2冊)。アメリカ側によって書かれた太平洋戦争の通史と言えば、ジョン・トーランドの「大日本帝国の興亡」があるが、あれもだいぶ古くなっているし、こちらはやや海軍寄りでもあるし、戦闘経緯もより詳細なので、WWII海戦ウォーゲーマーが、太平洋戦争全般を見渡すには良さそうだ。個人的には、日本側が太平洋戦争を書く場合にすっ飛ばしがちなウェーク島攻略戦(最初は日本軍が攻略に失敗)にもかなりのページを割いているのがありがたい。だいたい負けた側は、その戦いのことをあまり詳しく書かないものだから……

【Grand Tactical Series】「The Greatest Day: Sword, Juno, and Gold Beaches」Storming Gold Solo-Play AAR Part.2

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さてゴールド海岸上陸シナリオ「Storming Gold」6月6日0700ターン、最初の海上チットが終わったところから。ドイツ軍は、続く第716歩兵師団チット、直接指揮チットで反撃開始。しかしWn33aが地雷原処理中のイギリス軍工兵を射撃し1ステップロスさせた程度で、さほどのことはなく。

対する連合軍も旅団フォーメーションチットが連続したが、すでに指揮ポイントが尽きており、第2アクションまでやる余裕無し。とりあえず海岸ヘクスでの渋滞を避けるため、前進のみで終わっていく。ようやくイギリス第50歩兵師団チットが来たが、Wn33攻略に呼び寄せた戦闘爆撃機4個は3回外れ、1損耗打撃というていたらく(シナリオ中に使える戦闘爆撃機4個をすべて使い切った)。それでもターンの最後に再び海上チットが引かれ、支援用舟艇の射撃でどうにかWn33を吹き飛ばした。上陸第二波が海岸に着き、第三波が上陸波ボックスに入った時点が上写真。

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ターン変わって0900。今度はイギリス第50歩兵師団チットから始まり、ケンタウロスMk.IV自走砲中隊の砲撃によりWn33aがあっけなく除去(0ステップユニットなので損耗打撃をくらっただけで死ぬ)。東ヨークシャー大隊もWn34を潰し、一気に開けた東側から、戦車隊が自軍弾幕ヘクスを突っ切ってドイツ軍側面へと躍り出た。

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一方西側でも、ハンプシャー大隊がWn36へ強襲をかけこれを撃破。こちらの開口部からも戦車隊が飛び出し、強力なシャーマン・ファイアフライ中隊が要衝Le HamelのWn37へ隣接した。このWn37を突破すれば、勝利条件のひとつ、83.007が見えてくる(シナリオ終了時までに83.007から最低4ステップの第47海兵コマンドを突破させる、というのが第二勝利条件)のだが、ドイツ軍もヘクス81.006に集結するLa Hamel攻略スタックめがけて増援の砲兵部隊が砲撃開始。Wn37自体、防御修整-3と本シナリオに登場するWnユニット中で最も固く、連合軍はボトルネックになったヘクス81.006から先へ進めなくなってしまった。

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1100ターンは、海上チットからスタート。ここでの艦砲射撃により、連合軍の行く手を阻むWn37、Wn38がようやく消し飛んだ。これにより83.007への道筋は空いたものの、その道路上には連合軍自らの重弾幕マーカーが並んでしまい(入退出に部隊練度チェックが必要)、おいそれとは通れない。

さらにドイツ軍は、ボトルネックの81.006に積み上がった連合軍スタックを執拗に撃ちまくり(6ステップ積まれていたため混雑修整+3)、コマンド部隊をひとつ除去して気勢を上げた。

結局、連合軍の第一勝利条件である「1100ターン終了時までに海岸オーバーレイを掃討する=抵抗拠点・海岸障害物・突破口レベルを0にし、増援ヘクスから3ヘクス内にドイツ軍ユニットがおらず、もはや海岸ヘクスに連合軍ユニットがいない状況」が達成できず、ここでソロプレイを終えた。

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1100ターン終了時の西側。弾幕マーカーが外れると盤端までの道が開けて見えるが、街の中にはまだドイツ軍部隊もおり、そう簡単には抜けそうもない。

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一方の東側。散々砲撃をくらった2つの海岸砲台は最後まで生き残り、ドイツ第352歩兵師団に属するウクライナ人中隊もステップロスしつつ戦線を支えている。

また連合軍の第三勝利条件は「シナリオ終了時にイギリス第50歩兵師団が指揮ポイントを最低10残していること」だが、これもなかなか厳しそうだ。実際1100ターン終了時には、1ポイント余ったのみである。ただGTSver2.0から新しく導入された軽迫撃砲火力(紫)の歩兵部隊(他では禁じられている師団チットの第1アクションでも射撃可能)は、指揮ポイントを浪費せず攻撃ができる。今回は前線に出すタイミングを間違えたが、紫火力の部隊はどんどん接敵させて、無料の射撃チャンスを増やした方が良い。

一応、上陸自体は軽微な損害で済んだが、これもダイス次第でどうなるやら。DD戦車を撃ってくる海面状況レベルは減らしようがないため(海の荒れようなど人間の力ではどうにもならないのだ)、史実のオマハ海岸のように、DD戦車大隊全滅も十分ありえる設定だ。DD戦車が海岸に着かなければ抵抗拠点レベルも減らせず、続く工兵隊にも損害が出れば海岸障害物の撤去も遅れ、上陸する歩兵部隊の損害も増す、という負のスパイラルが容易に想像できた。

シナリオブックには本シナリオのプレイ時間を「1.5時間」と書いてあるが、最初はそんな時間では終わりそうもない。上陸の手順自体は一度プレイすれば飲み込めるだろうが、判定も多いため、それなりに時間がかかるだろう。

またGTSver2.0から独立部隊ユニットは、活性化した指揮官の指揮範囲にあれば1ターンに何度でも活性化できるというルールに変更された。実際このシナリオでも、イギリス軍側に3人の旅団長がおり、それらが活性化するたびにケンタウロス自走砲迫撃砲中隊が射撃できたのは便利だった。独立ユニットは直接指揮チットでは活性化しないというデメリットもあるが、うまいこと複数の指揮範囲に引っかかるよう配置するのが得策かと。

シナリオ勝利条件は厳しいものの、上陸部分だけでも面白く、いずれジュノー海岸、ソード海岸シナリオもプレイして、それぞれの状況を比較してみたい。

※枢軸軍リサーチャーVincent Lefavraisが「The Greatest Day」制作のため、ドイツ軍戦闘序列の基礎とした書籍がこちら⇩

Normandy 1944: German Military Organization, Combat Power and Organizational Effectiveness

Normandy 1944: German Military Organization, Combat Power and Organizational Effectiveness

 

【Grand Tactical Series】「The Greatest Day: Sword, Juno, and Gold Beaches」Storming Gold Solo-Play AAR Part.1

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いよいよ「GTS:The Greatest Day」の上陸シナリオに挑戦。ルールブックによると、ジュノー海岸はドイツ軍の防備が固く、狭いソード海岸は渋滞地獄だそうで、まずは上陸するのが一番簡単なゴールド海岸シナリオ「Storming Gold」からソロプレイしてみた。

使用するのは、上陸時のみ地図盤にかぶせる海岸オーバーレイと呼ばれるA4サイズのミニマップ。もっともこの他に上陸部隊の管理ディスプレイや、登場するイギリス第50歩兵師団、ドイツ第352・第716歩兵師団ディスプレイも置くため、それなりにスペースは要る。

守るドイツ軍は、Wn(防御陣地)ユニット、海岸砲台(Coastral Battery)ユニットが主体。自由配置できる地雷カウンターはすべて海岸からの突破口(Gap)の出口に配置した。目に見えるユニットの他にも、様々な防御レベルが設定されている。

 ・海岸障害物 Beach Obstacles=レベルに等しい複合火力(白)で上陸用舟艇を攻撃。

 ・抵抗拠点 Resistance Nests=レベルに等しい小火器火力(赤)で上陸部隊を攻撃。

 ・海面状況 Sea State=レベルに等しい対戦車火力(青)でDD戦車を攻撃。

 ・突破口 Gap=このレベルを0に下げないと海岸から出られない。

旧来のゲームであれば、それぞれの影響を判定するチャートを用意するだろうが、そこはGTS。すべての判定を戦闘結果表にやらせるという割り切り方が面白い。「波が対戦車火力7でDD戦車を撃ってくる」などと聞けば、お前はいったい何を言っているのだと思われそうだが、すでに馴染みの戦闘結果表なので、それがいったいどれくらい危険なのか、ぱっと分かるところが良い。

対する連合軍は、その海岸障害物、抵抗拠点レベルを攻撃して減らしつつ、突破口を開いて海岸から出る、というのが第一目標となる。もちろん艦砲射撃あり、航空支援あり。DD戦車はそのまま泳がせるか、上陸用舟艇に積んでいくか、という選択も可能。史実では荒れた海面を危惧して上陸用舟艇で下ろしたそうで、実際このゲームでも上陸用舟艇に積んだ方が安全である。ただしDD戦車状態で海岸に泳ぎ着けば、その後、第2アクションも可能なのが悩ましい(舟艇で行くと第1アクションは消費したものとみなされ、第2アクションは行えない)。

上陸部隊に対するドイツ軍臨機射撃のタイミングも、上陸用舟艇に乗っている時に撃つか(固い装甲目標扱いだが当たれば複数の乗船部隊すべてにダメージが入る)、それとも海岸に下船した瞬間を狙うか(当たりやすい非装甲目標扱い、射撃ゾーン間移動の修整も得られるが、複数ユニットが下船してきても1ユニットしか撃てない)という選択肢もある。

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そんなゴールド海岸上陸シナリオ、6月6日0700ターン最初にプレイされるのは海上チット(Naval Chit)。まずは連合軍の艦砲射撃から。沖合にいる巡洋艦7、駆逐戦隊3、ロケット舟艇(LCR)2、支援用舟艇(LCS)2が海岸に向けて砲撃をたたき込んだ。 まあほとんどが間接砲撃扱いなので、あまりヒットは得られなかったが、海岸沿いのWnユニット、海岸砲台ユニットにはすべて弾幕マーカーが置かれた。弾幕マーカーが置かれている間は射程が1になるため、上陸したばかりの部隊が狙い撃たれる可能性も減り、これでも十分な効果である。

さて、いよいよ第一波の上陸だが、どのユニットから動かすべきか。

ルールブックではテストプレイヤー2人が口を揃えて「とにかく海岸障害物レベルを3以下にしろ」と言っている。つまり海岸障害物レベル4=複合火力4で上陸用舟艇(装甲目標、防御修整は適用しない)が撃たれると、1ステップロスする可能性があり、元々1ステップしかないコマンド部隊が乗っていた場合、一発で全滅する危険があるのだ。

海岸障害物レベルを減らすには、工兵か工兵戦車(第79機甲師団)を第1アクションで海岸に下ろし、第2アクションで海岸を攻撃させるしかない。しかしいずれも独立部隊扱いであり、第2アクションを行うには指揮官の指揮範囲にいる必要がある。つまり先に誰か指揮官を海岸に行かせるしかないのだ。

しかしいまだ抵抗拠点レベルが高い=高い小火器火力で臨機射撃される状態で、歩兵旅団指揮官を送り込むのは気がひける。というわけで最初の上陸部隊は第50歩兵師団に配属(Attachment)された第8機甲旅団Cracroft旅団長となった。Cracroft旅団長が海岸に到達すれば、半径10ヘクス以内が指揮範囲になるし、6個までの独立ユニットも指揮下における。たとえ一緒に行くDD戦車が波に撃たれて全滅しても指揮官は死なず、また次のDD戦車に乗っていけばいいので、危険だけれどDD状態で海岸へGO!

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結果、第8機甲旅団のDD戦車4個中隊は、1ステップロス、3損耗打撃(Cohesion Hit)という損害を喰らいつつもCracroft旅団長ともどもゴールド海岸にたどり着いた。それぞれ海面状況レベル8=対戦車火力8で撃たれたため(しかも防御修整は適用されない)、30%で全滅、20%でステップロスする可能性があったので、だいぶ運が良かった。抵抗拠点5レベルにも撃たれたが、そちらはノーダメージ。DD戦車たちは上陸後、いずれも射撃を行い、5レベルあった抵抗拠点を0レベルまで低下させた。これで後から上陸してくる歩兵たちが助かるだろう。

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次に上陸したのは、第79機甲師団の工兵戦車4個である。こちらは上陸用舟艇に乗り、海岸障害物レベル5=複合火力5で撃たれ、2損耗打撃。抵抗拠点0レベルにも撃たれたが(そう0レベルでも撃てる、当たる)、やはり今回もノーダメージ。[※訂正:撃たれるのは0より大きい場合だった] Cracroft旅団長の指揮下にあるため、上陸後の第2アクションで海岸を攻撃し、海岸障害物レベルを3低下させた。さらにこの後、徒歩の工兵部隊が上陸し(これもCracroft旅団長の指揮下として)やはり第2アクションで海岸障害物レベルを0に下げ、ようやくひと安心。

しかしここでCracroft旅団長の配属値(Attachment Rating)ぎりぎりまで独立ユニットを使い切ったため、第231歩兵旅団のStanier旅団長、第69歩兵旅団のKnox旅団長も海岸に行かせ、あらたな独立ユニット指揮権を確立。続く工兵部隊は、これら歩兵旅団長の指揮下で第2アクションを行い、突破口レベルを下げていった。

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結果、第一波が上陸を完了した様子がこちら。すでにいくつかの突破口ヘクスには啓開(Open)マーカーが置かれている。先ほどまで第一波がいた上陸波ボックス(Landing Wave)には、すでに第二波が待機。ここまで進めて海上チットは終了だが、本シナリオではもう一度、海上チットをカップに入れ、この0700ターン中にもう一回、これと同じプロセスをやることになっている……という説明までがPart.1。続きはまた明日…… ※デザイナーAdam Starkweatherの推薦図書はこちら⇩

Gold Beach  Jig: Jig Sector and West June 1944 (Battleground Europe. Normandy)

Gold Beach Jig: Jig Sector and West June 1944 (Battleground Europe. Normandy)

 
Normandy: Gold Beach; Inland from King (Battleground Europe)

Normandy: Gold Beach; Inland from King (Battleground Europe)

 

【Grand Tactical Series】「The Greatest Day: Sword, Juno, and Gold Beaches」Day of the Tiger AAR

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入手以来1ヶ月がかりでようやく「The Greatest Day(以下TGD)」のルールを翻訳完了。これにてルール全体が見通せたので、今日はKarter氏をお招きし、おなじみ「Day of the Tiger」シナリオを対戦した。

初戦は初「TGD」のKarter氏がドイツ軍を担当。忽然と現れたティーガー1.5個中隊は、ゲーム終了までにイギリス軍のシャーマン・ファイアフライ3個中隊、M3スチュアート1個中隊、歩兵1個中隊を除去し、213高地を確保した。イギリス軍は高地奪取どころかティーガーIに1ヒットも与えられず敗退……。

Karter氏本人は出目がイマイチと感じていたようだが、いやいや、今までのプレイの中では一番マトモなヴィットマンだった気がする。きれいにイギリス戦車大隊1個全滅させたし。

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2戦目は陣営を入れ替え、自分がドイツ軍を担当。しかしミハエル・ヴィットマン中尉効果=連続4アクションによる4回射撃が3回外れ、与えたのは1ヒットのみ。逆にイギリス軍は、ティーガーIにこつこつとヒットを与え、第101SS重戦車大隊第2中隊をあと1ヒットくらえば全滅というところまで追い詰めていく。イギリス軍はさらに十字砲火を浴びせたが、第2中隊はなんとか最後の1ヒットを回避し続けた。

そして最終ターン。初手の4連続アクションが外れまくったおかげで、ここまでドイツ軍は勝利条件の213高地に入れてすらいない状況に。しかし満身創痍のティーガー第2中隊は、第1アクションの射撃で213高地に残るクロムウェル戦車を吹き飛ばすと、第2アクションで213高地へ突入。この際、イギリス軍歩兵とシャーマン・ファイアフライ戦車の射撃ゾーン内で縦隊になって臨機射撃をくらい、213高地に入るタイミングでも臨機射撃をくらったが、いずれでもダメージを受けず高地を占領。対するイギリス軍が最後に引いたのは直接指揮チットだが、残る指揮ポイントは1のみ。これを213高地に隣接するファイアフライ戦車に用い、ティーガー第2中隊のいる213高地へ強襲をかけよう……かと思ったようだが、突入成功か否かを決める武勇チェック(Bravery Check)にしくじりジ・エンド。最終局面ぎりぎりでドイツ軍勝利となった。

今回もそれぞれ2時間弱で終わったし、派手な戦車戦でもあるので、GTS入門者には良いシナリオかと。ヴィットマン初手の4連続アクションに成功しても失敗しても、それぞれ楽しめると思う。さて次はいよいよ上陸シナリオだ……

鋼鉄の死神

鋼鉄の死神

 

【参考文献】マルク・フェロー「戦争を指導した七人の男たち」

戦争を指導した七人の男たち: 並行する歴史

戦争を指導した七人の男たち: 並行する歴史

 

フランスの歴史家マルク・フェローの「戦争を指導した七人の男たち」を購入。第二次世界大戦の主要国元首……ヒトラームッソリーニチャーチルスターリンルーズヴェルト、ドゴール、昭和天皇という七人を軸に、第一次世界大戦終結後の戦間期から、その政治思想や、戦略・外交方針を概説した1冊。良くも悪くも人間味あふれる切り口で、参戦各国の動勢を、指導者個人に擬人化しているようにも読めるが、この側面から第二次大戦を読み解くというのも面白いなと。

政戦略級のウォーゲームになると、各プレイヤーはまさにこの国家元首の立場で戦争指導を行うが、各国元首の意思・意図を知ったうえで、ロールプレイング的に、そのキャラクター像に沿って政戦略を遂行するプレイも面白そうだ。とりあえずGMT「Gathering Storm」の参考書にはもってこい。

【Grand Tactical Series】「The Greatest Day: Sword, Juno, and Gold Beaches」(Battle for Normandy vol.1)

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昨年発売されたGTS(Grand Tactical Series)第4作にして、ノルマンディ上陸作戦三部作の第一弾「The Greatest Day:Sword, Juno, and Gold Beaches」を入手した。前々から欲しかったが予算が無かったため、そのうち買えればいいやと思っていたところ、なんと先に購入していたkotatu氏から代金後払いで譲っていただいたのだ。長年ウォーゲームを趣味にする間に、いろいろな方からご厚意を頂戴してきたが、今回も破格の恩恵に甘えてしまった。年末年始に本作をプレイさせていただいた後、現物が手元に来たというのも、ウォーゲームの神様からの「このゲームを翻訳してプレイしなさい」とのご神託かいや違うか。とにもかくにもkotatuさん、どうもありがとうございます。

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さて本作は、WWIIノルマンディ上陸作戦においてイギリス軍が上陸した3海岸、ソード、ジュノー、ゴールド海岸を含む地域を大型マップ4枚+ミニマップ8枚に収めている。キャンペーンゲームの期間は、イギリス第6空挺師団による6月5日の夜間降下に始まり、6月6日D-Dayの上陸から6月13日のヴィレル・ボカージュ戦までを扱っている。ゲームスケールは通常のGTSスケール、1ヘクス=500m、1ユニット=中隊、1ターン=2時間(夜間以外)。

さすがにマップすべてを使ったキャンペーンは敷居が高いが、そこはGTS。本作もマップ1枚以下で遊べるシナリオが多数用意されており、裏面にはシナリオ専用マップも印刷されている。これはGTS第1作「The Devil's Cauldron」と同じ仕様だが、第2作「Where Eagles Dare」で見送られ、GTSファンから「価格は上がってもいいからシナリオ専用マップを付けてくれ!」との要望が叶った形である。

先日プレイしたヴィレル・ボカージュ戦シナリオ「The Black Baron」「Day of the Tiger」も面白かったが、他にもイギリス第6空挺師団の戦闘を切り取った「Saga of the 6th Airborne」、D-Day夕刻のオッペルン・フォン・ブロニコウスキー少佐(指揮官カウンターあり)による第21装甲師団の反撃シナリオ「To the Sea」、「TCS:Canadian Crucible」でも描かれたカナダ第3歩兵師団と第12SS装甲師団の死闘を模した「O Canada」「Nemesis」シナリオ等、興味深い状況設定が詰まっている。

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本作で新たに登場した海軍と上陸ルールは、かなりボリュームがある。なにしろ海軍は戦艦・巡洋艦は艦名入りユニットで、駆逐艦、ロケット発射船、上陸用舟艇までユニット化されている。その上陸用舟艇に陸上ユニットを乗せ、海岸砲台や陣地と射撃し合いながら突破口を開く……のだと思う。なにしろ上陸ルールの分量が多すぎてまだ読めていないが、 第1ターン(つまり上陸時)だけのキャンペーンシナリオがある、というだけでも、かなりの大事になりそうだ。

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1ヘクス=500mのGTS規格で表現すると、カーン市街もこの通り。パンツァー・マイヤーことクルト・マイヤー(当時)SS中佐が観測に用いた修道院の教会も描き込まれているし、マイヤーSS中佐自身も第12SS装甲師団の指揮官としてカウンター化されている。

他にも、イギリス空挺師団の目的地ペガサスブリッジやメルヴィル砲台、ソード海岸に面した街ウィストレアムのカジノ等、戦史でお目にかかった地名をGTSスケールで探して眺めるだけでもかなり楽しい。

擲弾兵―パンツァーマイヤー戦記 (学研M文庫)

擲弾兵―パンツァーマイヤー戦記 (学研M文庫)

 

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カウンターシートは16枚にも及び、カウンター総数は2800個を越える。

GTS基本ルールがver2.0に更新されたことに伴い、ユニットの能力値にも変化が見られる。たとえば新たな火力タイプとして登場した「軽迫撃砲」(ユニット左上の紫ボックスの数値)は、迫撃砲と言いつつ射程1で弾幕も発生させない。その代わり基本ルールで禁じられている「師団活性化チットでの第1アクションでも射撃可」という便利能力を付されている。この「軽迫撃砲」は連合軍歩兵のみに見られ、ドイツ軍には皆無であり、戦術ドクトリンの差も表現しているようだ。

ちなみに連合軍として登場するのは、イギリス第3・第50・第51歩兵師団、カナダ第3歩兵師団、イギリス第6空挺師団、イギリス第7機甲師団、もろもろのイギリス機甲旅団、海兵コマンド部隊といったところか。また各歩兵師団には、イギリス第79機甲師団・通称ファニーズの変わり種工兵戦車(地雷除去用戦車シャーマン・クラブ、290mm迫撃砲装備チャーチルAVRE)も配属されている。

イギリス第50歩兵師団には、連合軍唯一の実名英雄、スタンリー・ホリス曹長(たった一人でトーチカを占領。コーネリアス・ライアン「史上最大の作戦」にも記述あり)もカウンター化されている。このあたりの戦史ネタを拾うのもGTSの楽しみのひとつだ。

一方、ドイツ軍ユニット。灰色ユニットが装甲教導師団……なのは分かるが、黒ユニットはSS師団ではなく、国防軍の第21装甲師団である。そして青ユニットが第12SS装甲師団。これ、色の配置、逆にできなかったか。昨今、SSユニットを黒くしない=ナチスをカッコ良く表現しない、という縛りがあるのかもしれないが……

ドイツ軍は、上記の3個装甲師団に加えて、第346、第352、第711、第716擲弾兵師団が登場。まあその辺りの3ケタ守備師団はともかく、第21、第12SS、装甲教導師団の指揮能力は恐ろしいほど高く設定され、数値を見ただけでも連合軍の苦戦は必至に思えた。

両軍の部隊編成に関しても、かなり時間をとって調査したらしく、ルールブックの随所にリサーチャーのコメントが多々挿入されている。他にもデザイナーやプレイテスター自身が「なぜこのルールはver2.0でこう変更されたのか?」「このルールは何を意味しているのか?」という疑問にあらかじめ答えており、読んでみるとルール設計の背後にある思想や史実が理解できて、すこぶる面白い。なぜイギリス軍海岸なのに1個だけアメリカ第987野戦砲兵大隊(M12キングコング155ミリ自走砲装備)がいるのか?なぜドイツ軍88ミリ砲なのに間接砲撃能力が与えられているユニットがあるのか?等々、制作陣の楽しいイイワケも満載だ。

とりあえずこれ一作で、優に一年以上は遊べる内容なので、しばらくはいろいろなシナリオを試してみたい。ノルマンディ三部作のオマハ海岸編、ユタ海岸編が出版されるのは、まだまだ数年後だろうし……

※ちなみにGTS第5作は現在プレオーダー中の「Operation Mercury(クレタ島降下作戦)」になるはず。

【Grand Tactical Series】「The Greatest Day: Sword, Juno, and Gold Beaches」Day of the Tiger AAR

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昨日は、2016年初のウォーゲーム会。昨年末に続き、FORGER氏と「The Greatest Day: Sword, Juno, and Gold Beaches」のヴィレル・ボカージュ戦シナリオ「Day of the Tiger」を対戦させていただいた。

今回はまず自分がドイツ軍を担当。前回同様、第1ターンは連合軍直接命令チットから始まった。イギリス第7機甲師団第22機甲旅団は、あらかじめ下車して213高地からヴィレル・ボカージュ近辺に展開。

対してミハエル・ヴィットマン中尉率いるティーガーI半個中隊は、そのど真ん中に降臨。最初の4アクションによる4回射撃でファイアフライ中隊をずたぼろにしてやろうと思ったが、意外に射撃が当たらず、3個ファイアフライ中隊にCohesionヒットを与えた程度であった。この後、ティーガーI半個中隊は、返す刀でファイアフライ中隊から撃ちまくられ、あえなく除去。

しかし増援で駆けつけた装甲教導師団のIV号戦車中隊が、ファイアフライ戦車中隊1、クロムウェル戦車半個中隊、イギリス歩兵中隊1をそれぞれ一撃で除去し、むしろこちらに乗っているのがヴィットマンなのでは?と言うほど活躍した。

もうひとつのティーガーI中隊も、M3スチュアート2個中隊を吹き飛ばし、213高地に陣取るイギリス歩兵中隊も蹂躙してこれを奪取。さらに高地に隣接するファイアフライ中隊を射撃で制圧したうえ、高地から飛び出して強襲戦闘を挑み、これをも除去した。

しかし調子に乗ったIV号戦車中隊は、不用意にファイアフライ中隊の射撃ゾーン内を移動したため機会射撃をくらってステップロスし、後に除去。これによってがら空きになった213高地にイギリス軍ユニットが飛び込めば勝利……だったが、あいにくそれを成し得る部隊が無く、ドイツ軍勝利となった。

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2時間ほどでプレイを終えたので、続けて陣営を入れ替え2戦目を対戦した。今回もまた連合軍直接命令チットで始まったため、イギリス軍には下車して態勢を整える余裕が与えられたわけだ。とりあえず自分はイギリス軍戦車を少し散らばせてみた。213高地周辺に集めておくと、第1ターンのヴィットマン中尉に全部撃たれてしまうかもしれない……と思ったもので。

しかしやってみるとこの策は失敗。たしかに戦車中隊は生き残ったが、GTSは適正な射撃位置に着くのにも苦労させられるシステムであり、わずか4ターンのシナリオでその時間を取られるのはムダだった。集めれば撃たれる、散らばれば撃てない、という何とも厳しい状況設定ではある。まあ元々ヴィットマン中尉が派手に勝利したシナリオなのだから、それを覆すのも難しいということか。

また今回はイギリス軍セクストン自走砲中隊による間接砲撃によって、ティーガー部隊に弾幕を放ち、目つぶし(弾幕マーカーが乗せられたユニットは射程が1ヘクスに限定される)をしてみたが、たいした効果は得られなかった。連合軍チットが先に回ってきてターン序盤に撃てればいいが、無理して指揮ポイントを使って弾幕を置くぐらいなら、普通にファイアフライ中隊にティーガーIを撃たせた方が良いような。

一応、213高地の北側からRidgeヘクスサイドを介さずに射撃すると、縦隊のティーガーIにもかなりの確率でダメージを与えられることは分かった。戦闘モードの戦車でも進入でき、なおかつ防御効果のあるヘッジロウヘクスから撃つのが最良かと思う。

ただし増援のIV号戦車が背後から来てしまうので、そちらをカバーする部隊も必要になる。今回はM10駆逐戦車を配したが、IV号戦車が射程内を接近しているのにもかかわらず、臨機射撃トリガーに4回失敗して一発も撃てないまま、隣接ヘクスまで迫られるというていたらくであった。

という感じで2戦目もドイツ軍が勝利したものの「Day of the Tiger」シナリオもだいぶわかってきた。イギリス軍が勝つのは難しいが、それでもかなり面白い。

※ゲームを提供してくださったFORGERさん、ありがとうございましたm(_ _)m

鋼鉄の死神

鋼鉄の死神