Wargaming Esoterica

After Action Reports & Reviews of Simulation War Games ほぼ引退した蔵書系ウォーゲーマーの日記

【Battalion Combat Series】「Last Blitzkrieg」Tip of the Spear AAR

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今日はKarter氏と、平成最後のウォーゲーム対戦。本当はCMJ146「官渡戦役」をやるはずが、Karter氏が調達できず、急遽「BCS:Last Blitzkrieg」の対戦と相成った。プレオーダーしているBCS第3弾「Brazen Chariots」も、そろそろ発送されるようなので、それに向けての復習会ということで。今回選んだのは、1月にソロプレイした「Tip of the Spear」シナリオ。バルジの戦いの切っ先としてCellsまで進出したドイツ第2装甲師団に対し、アメリカ第2(重)機甲師団が反撃に出るというお題である。今回は、自分がドイツ軍を、Karter氏が連合軍を担当した。

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第1(12月24日)ターン。快晴により連合軍の航空支援ポイントが9到着。先手・連合軍は、早速アメリカ第2機甲師団を活性化させ、ドイツ第2装甲師団先鋒部隊にありったけの砲撃と空爆をぶち込み、これをほぼ壊滅させた。ドイツ軍としては、救援部隊として教導装甲師団を送りたかったが、活性化に失敗して動けず、先鋒部隊を見殺しにしてしまった……

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一方、東では、増援のドイツ第2SS装甲師団の歩兵部隊が盤内に入り、アメリカ第3機甲師団と戦闘に入るも、支援のV号ヤークトパンターを2ステップとも失い、装甲師団と言いつつ、戦車の無い丸裸の歩兵師団になってしまった。

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第2(12月25日)ターン。先手・ドイツ軍は、ようやく装甲教導師団、第2装甲師団本隊を活性化させ、アメリカ軍前線を後退させるも、アメリカ第2機甲師団が怒濤の反撃を見せ、教導装甲師団本部まで突進してきた。また増援のドイツ第9装甲師団は、二度の活性化でMarcheを攻めたが、アメリカ軍の打たれ強さ(ステップ数)と弾幕に押しとどめられている。

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そのアメリカ軍弾幕によって、ドイツ第560国民擲弾兵師団の戦線はズタボロに。東では、さらにドイツ第2SS装甲師団アメリカ第3機甲師団を後退させているが、その背後には休養中のアメリカ第7機甲師団が控えており、この快進撃もいつまで続くやらという感じである。

と、2ターンを終えたあたりで、今回の復習会は終了。今日は終始、アメリカ軍の航空支援と砲爆撃が炸裂したが、次にプレイするであろう北アフリカ(Brazen Chariots)では、こんなに贅沢な戦争は出来ないよねえという話にも。

そしてこれにて、平成のウォーゲーム対戦も終了。まあ令和になっても、引き続き「ほぼ引退」状態で、プレイ回数も少ないとは思いますが、引き続き宜しくお願いいたします……

【参考文献】Eloise Engle & Lauri Paananen「The Winter War」

The Winter War: The Soviet Attack on Finland, 1939-1940 (Stackpole Military History)

The Winter War: The Soviet Attack on Finland, 1939-1940 (Stackpole Military History)

 

TSWWの冬戦争セット「Hakkaa Päälle」を入手したので、なにか参考資料が欲しいと思い、とりあえずStackpole Military History Seriesから「The Winter War」を購入。一応、冬戦争全体の通史になっている。ただし初版1973年と、ちと古いので、これとは別に、近年の通史も手に入れたいところ。1冊だけには頼らない主義なので……

【The Second World War】「TSWW : Hakkaa Päälle」

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「Day of Infamy」と一緒に、1939年の冬戦争を扱う「Hakkaa Päälle」を取り寄せた。こちらも地図盤とカウンターシートは印刷されているが、ルールやシナリオはPDFという、Lieutenant版(107.5ポンド、125円換算で13440円)。エウロパ・シリーズの冬戦争と言えば、GRD時代に「A Winter War」というタイトルが発売されていたが、あいにくそちらは所持していない。 

冬戦争 (Historia Talvisota)

冬戦争 (Historia Talvisota)

 

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地図盤は3枚。大作揃いのTSWWシリーズの中では、小振りなセット。実は本作は、1939年の冬戦争セットであると同時に、北岬沖海戦(イギリス戦艦デューク・オブ・ヨークvsドイツ巡洋戦艦シャルンホルスト)、ドイツ軍の仮想スウェーデン侵攻を扱うセットでもある。 

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カウンターシートは6枚、カウンター総数1680個。

冬戦争の主役フィンランド軍は、史実では、ソ連軍による盗聴を警戒し、部隊名を頻繁に変えていたというが、実際このゲームの戦闘序列を見ても、ある時期になったら別の師団名カウンターに変更する場合が多々見られる。 

フィンランド軍は、地上ユニットの額面戦闘力は低いが、冬戦争時のCEV(戦闘効率補正)が1.4なので、戦闘力✕1.4として計算する。さらにマンネルハイム元帥は、麾下の部隊のCEVを+1.0上げる能力があり、スオムッサルミの戦闘でソ連軍を包囲殲滅したシーラスヴォ司令官は、CEV+2.0となっている。つまりシーラスヴォと連絡線がつながっている地上ユニットは、本来のCEV+1.4に加えてCEV+2.0=額面戦闘力✕3.4となるワケだ。また「北欧空戦史」でもその活躍が記されているD21戦闘機も額面空戦力は低いが、フィンランド空軍はACEV(航空戦闘効率補正)も高く、見た目よりずっと強力な軍隊となっている。 

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対するソ連軍は、額面戦闘力こそ高いものの、CEVは✕1.0……つまり額面そのままで、伸びしろは無い。またソ連空軍に至っては、練度が低いため、不利なダイス修整を被る。いかにも質VS量の戦い。

収録シナリオは、陸戦・空戦・海戦の練習シナリオの他「スオムッサルミの戦い」「ラーッテ林道の戦い」「ティモシェンコの1940年攻勢」「ソ連軍によるHango港奇襲」「北岬沖海戦」「ドイツ軍による仮想スウェーデン侵攻(1941年、42年、43年想定)」と、小振りで遊びやすいものが多い。

ちなみにこの地域での、継続戦争に関しては恐らく「Barbarossa」で、ラップランド戦争に関しては恐らく「Vengeance」で扱うのだろう。

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ドイツ軍には、戦艦ティルピッツもあり、これがスウェーデン侵攻船団の護送をするという設定もあり。対するスウェーデン海軍には、沿岸戦艦もあるが、さすがにティルピッツの相手は荷が重い……

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そのスウェーデン軍は史実で、各国に戦闘機の売却を打診したという設定が活かされ、仮想シナリオではさまざまな国の戦闘機が選べるようになっている。まあアメリカ製のP38JやP51D、イギリス製のスピットファイアIXは分かるとして、中には日本の零戦二二型もあり、さながら第二次世界大戦エリア88のような状態に……

ということで、地味ながらも遊びやすい規模のシナリオが揃っているので、TSWW入門編として、自分もまずは本作収録の練習シナリオからプレイしようと思っている。太平洋で空母戦に挑戦する前に、まずは北岬沖で水上砲戦から慣れるのも良さそうだ。 

【The Second World War】「TSWW : Day of Infamy」

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と言うワケで、2月に初めてのTSWWシリーズ「Day of Infamy(屈辱の日)」(2017年発売)を購入した。ボックスアートの『ギョク山を登る』という謎ワードが怪しい雰囲気を醸し出しているが、これは台湾の最高峰・玉山(ぎょくざん)を、日本統治時代は新高山(にいたかやま)と呼び、そこから生まれた真珠湾攻撃命令を意味する暗号文『ニイタカヤマノボレ』=『ギョク山を登る』ということなのだろう。ちなみに「Day of Infamy」は、真珠湾攻撃を受けた翌日、アメリカのルーズベルト大統領が議会の演説で用いた『昨日は、合衆国にとって屈辱の日であった』から来ている。

本作は、1941年~1943年の北部太平洋……真珠湾奇襲、ウェーク島、ドゥーリトル隊の東京空襲、アッツ島キスカ島、ミッドウェー島での戦闘などを扱っている。陸上の作戦級がメインだったエウロパシリーズが、どのように日米の空母戦を表現しているか、興味津々である。

今回購入したのは、地図、カウンターシート、チャートは印刷されているが、ルールブック、シナリオ、戦闘序列はPDFデータ化されているLieutenant版(215ポンド、125円換算で26900円)である。ルール等も印刷されたColonel版で245ポンド(約30630円)、すべてがデータ化されたQuatermaster版では55ポンド(約6900円)である。自分の場合、ルール等を翻訳したいので、データ版の方がありがたい。

※2019年5月10日:日本語ルールをYahoo! TSWWグループにて公開。

https://groups.yahoo.com/neo/groups/etsww/info

https://groups.yahoo.com/neo/groups/etsww/files/DayofInfamy/

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地図盤は全11枚だが、その大きさはまったく異なっている。まずDOISZという4枚の大型戦略地図があり、その中の、ハワイ・ミッドウェー方面の拡大地図(というかエウロパ=TSWWの通常スケール)が3枚、アッツ・キスカ方面が3枚、ウェーク島が1枚入っているという構成だ。 

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こちらが4枚の戦略地図盤をつなげた図。西は日本列島、東はハワイ諸島、北はアリューシャン列島、南はマーシャル、ギルバート諸島まで含まれている。海上部隊、航空部隊は、この戦略地図盤と通常の地図盤を行き来しつつ、任務を行う。 

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こちらがハワイ~ミッドウェー方面の通常地図盤。1ヘクス=24kmという、エウロパ=TSWWスケールでハワイ諸島を描くとこうなるわけだ。

収録シナリオは「真珠湾奇襲」「第一次ウェーク島攻略」「もしもウェーク島アメリカ軍の救援部隊が到着していたら」「第二次ウェーク島攻略」「アメリカ軍空母によるウェーク、マーカス、ギルバート諸島への空襲」「ドゥーリトル隊の東京空襲」「AL(アリューシャン)作戦」「MI(ミッドウェー)作戦」「戦前の日本海軍が想定した対米戦艦決戦」「もし日米が、空母ではなく戦艦を量産して1943年に決戦していたら」「日本軍による仮想ハワイ上陸作戦」「マーカス、ギルバート諸島での戦闘」「珊瑚海海戦(プレイにはSingapole !他が必要)」「アッツ島奪回作戦」「キスカ島奪回作戦」「もし日本海軍が主力機動部隊をアリューシャン方面に投入していたら」「日本軍がハワイを占領した後の、アメリ海兵隊による逆上陸作戦」「アッツ島沖(コマンドルスキー諸島)海戦」と、かなり盛りだくさんになっている。

このシナリオを見ても分かるように、仮想設定も豊富で『お前はどこのアドテクノスか!』と言いたくなるほど。史実のミッドウェー海戦シナリオにしても、さまざまなオプション(損傷していた空母瑞鶴の投入、アリューシャン作戦を中止して空母隼鷹、龍驤を投入する、空母サラトガ、ワスプの投入など)があり、ゲームシステム全体としては史実的なディティールを取り入れつつ、多様な可能性を追求できるゲームにもなっている。 

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カウンターシートは8枚、カウンター総数は2240個。その大半が艦船と航空機である。

さて太平洋の空母戦ゲームでは、日米戦闘機の評価に関する話題がよく見られる。本作に収録されている機体を簡単に挙げると、日本軍では九六式艦戦(A5M4)が空戦攻撃力5・空戦防御力4、零戦二一型(A6M2)が攻撃7・防御5、零戦二二型(A6M3-22)が攻撃8・防御6、一式戦・隼I型b(Ki-43Ib)が攻撃6・防御6、隼II型bが攻撃7・防御6、二式戦・鍾馗II型(Ki-44-II)が攻撃8・防御6と、たしかに全体的に、攻撃偏重・防御軽視になっている。

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対するアメリカ軍は、F4F-3初期型ワイルドキャットが攻撃6・防御6、F6F-3/-4ヘルキャットが攻撃9・防御7、F4U1初期型コルセアが攻撃10・防御8、P39Dエアラコブラが攻撃7・防御5、P40Kウォーホークが攻撃7・防御6、P38Gライトニングが攻撃6・防御7となっている。

空戦の解決は、お互いの攻撃力と防御力を差し引くため、零戦二一型(7-5)とF4F-3(6-6)が戦えば、お互い「+1」という互角の解決欄でダイスを振ることになる。ただしCEV(戦闘効率補正)という練度・戦術面での差異がダイス修整に入り、1941年では日本軍が優位に、1942年からは互角に、1943年以降はアメリカ軍優位になる。つまり零戦とF4F-3は、ハードウェア的には互角で、戦術や技量というソフト面で差がつく形になっている。

とは言え、航空機マニアからすれば『ハードウェア面だけにしても、この額面戦闘力は納得いかん!』という声もあるかもしれないが、あいにく自分はあんまり航空機に思い入れは無いので『へー、そういう評価なんだ』で終わっている。あしからず。

ちなみにアメリカ海軍は、1943年3月から「管制迎撃システムの導入により、レーダー装備の空母上空でCAP(戦闘空中哨戒)にあたっている戦闘機は、攻撃力2倍」という、マリアナ七面鳥撃ち的なルールが適用されるため、そうなるともはや機体の優越などどうでも良くなるような……(^_^;)

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艦船も、さすが駆逐艦まで1隻1ユニットとなったため、両軍とも膨大な量の艦船が収録されている。中には、大和型戦艦4番艦「遠江(Totomi)」5番艦「摂津(Settsu)」なる仮想艦もあるが、ここで艦船マニアの皆さんは『いや大和型4番艦に予定されていた名前は、紀伊だろう』と言われるかもしれない。ところが本作には、ワシントン軍縮条約前に建造が予定されていた戦艦と巡洋戦艦、いわゆる八八艦隊の艦艇も収録されており、紀伊の名前はそちらに使われているので、重複を避けるため、別の名前を付けたらしい。いやしかし『うーん、紀伊という名前は使えないから、同じ日本の旧国名から、遠江と摂津にしよう』と決めたデザインチームのセンスよ……(^_^)

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こちらがその八八艦隊。戦艦加賀、土佐、紀伊尾張あたりは、実際にその名前が予定されていたはず。ますます強まるアドテクノス臭……

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対するアメリカ軍にも、建造が中止された戦艦サウスダコタインディアナ、モンタナ等が登場し、仮想戦艦決戦シナリオで日本軍の八八艦隊と相まみえるはず。とは言っても、戦艦同士の砲撃戦というのも、ただ殴り合うだけで、あまり面白くないかも。

ちなみに旧エウロパシリーズでの水上砲戦は、遠距離・中距離・近距離・雷撃距離の4つで行われたが、TSWWでは、遠距離・近距離・雷撃距離の3つになっている。このあたり、旧エウロパのルールで砲戦なんぞやったことが無いので何とも言えないが、何らかの改良が加えられた結果なのかもしれない。

そして海戦、空母戦と言えば、索敵ルールも気になるところだが、TSWWでは、盤上に艦隊マーカーを置いて動かし……なので、相手プレイヤーからどこに艦隊がいるかは分かってしまうのだが、これは国家諜報活動によって、ある程度、敵の動きはつかめているという想定であり、実際に攻撃する際には、索敵によって正確な位置を発見する必要がある。つまりVGフリートシリーズと同様のシステムになっている。

また1ターン=半月というスケールで、両軍どれだけ動けるかだが、各ターン、自分のプレイヤーターンの移動フェイズと突破フェイズ、相手方プレイヤーターンの移動フェイズと突破フェイズでそれぞれ移動でき、その移動途中で戦闘が行えるため、1ターン中にお互い4回ずつ移動・戦闘が行えるような感じか。このあたりは、実際にプレイしてみないと、それで納得できるのかどうか、面白いのかどうか分からないが…… 

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とにかく艦船にしろ航空機にしろ、状況設定にしろ、自分ごときの浅学な人間には拾いきれないほどの小ネタが満載なので、マニアの方は是非、中身を確かめていただきたい。

一応、ルールは訳したので、近いうちに小規模シナリオから試してみようと思う。TSWWが、作戦級の海戦・航空戦ゲームとして成立しているかどうか、確かめたいところだ。

【The Second World War】TSWW:21世紀のアドバンスド・エウロパ・シリーズ

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ここ一ヶ月半、Blogを書いていなかったが、ウォーゲームに触れていなかったわけではない。むしろここ一ヶ月半、延々と、あるウォーゲームのルール和訳に没頭していたのだ。それが、今回ご紹介するDiffraction Entertainment社のTSWW(The Second World War)シリーズである。

このTSWWシリーズは、簡単に言うと「21世紀のエウロパ・シリーズ」である。かつてGDW社から発売されていた、第二次欧州大戦の作戦級エウロパ・シリーズは、1990年代にGRD社に引き継がれ、さらに太平洋戦線も扱うグローリー・シリーズ、第一次大戦版のグレート・ウォー・シリーズも出版されたが、GRDも今では活動を停止し、エウロパ・シリーズも完結していない(海外サイトの書き込みを見ると、権利を乗っ取られたようにも読める)。そのGRDの終焉と入れ替わるようにして、2010年から発売されたのが、DE社のTSWWシリーズである。

自分も学生時代、ホビージャパン社からライセンス生産されたエウロパ・シリーズをひととおり買ったものの、ユニットの多さや、スタック計算の面倒くささ(何割が自動車化されているか)や、航空ユニットと艦船ユニットにシルエットが無い(数字のみで雰囲気が出ない)、小規模シナリオが無いという理由から挫折し、すでに全作処分してしまっている。たしか1日がかりで「フランス崩壊」の地上ユニットを並べたものの、この後、航空ユニットも並べるのかと思った瞬間、心が折れた記憶が……

そんな自分がなぜか、この2月にふとこのTSWWシリーズが欲しくなり、30年ぶりに再挑戦してみることになった。せっかくコレクションも断捨離したのに、ここでまたシリーズを増やすのかと思ったが、欲しくなってしまったんだから、仕方ない。まあ、OCS(Operation Combat Series)では扱いきれない、より大きな戦役をプレイするには良いかな……とも思ったが、実際にルールを読んでみると、むしろOCSより細かい部分が多く、これはむしろ「21世紀のアドバンスド・エウロパ・シリーズ」じゃないかと驚いた。

とりあえず1ヶ月半かけて、ようやくルール(英文130ページ以上)を訳し終わったので、紹介記事を書ける段階と相成った。なにしろネット上には、日本語で読めるTSWWの詳しい紹介記事が無く、そもそもどういう作品が出ているのか、GDWのエウロパ・シリーズとどう違うのかも、良く分からない状況なので、この記事が参考になれば幸いかと。

ちなみに日本語ルールの公開については、販売元に相談中であり、デザイナーのJohn Bannerman氏からも『TSWWを紹介してくれるなら、これを使ってもいいよ』と快く、沢山の画像を送っていただいた。今回の記事に使用している画像のいくつかも、Bannerman氏からのご提供のモノである。

※2020年7月21日 TSWW公式フォーラムにて日本語ルール公開。


ではまず、現在までに発売されているTSWW作品と、将来発売予定のラインアップについて…… 

 

TSWWシリーズタイトル一覧

・欧州戦線(年代順)

・「La Guerra」(プレオーダー中) 正確にはTSWWシリーズではなく、BTW(Between The War)シリーズ。スペイン市民戦争を扱う。 

・「Hakkaa Paalle」(2016年発売) フィンランドでの冬戦争と、ドイツ軍による仮想スウェーデン侵攻戦 (1941年、42年、43年想定)を扱う。

・「Blitzkrieg」(2010年発売、現在、改訂版がプレオーダー中) 記念すべきTSWWシリーズ第一作。現在ではメーカー品切れだが、改訂版となる「Blitzkrieg II」がプレオーダー中。1939年~1943年の初期電撃戦……ドイツ軍によるポーランド侵攻、フランス侵攻、ノルウェー侵攻、バトル・オブ・ブリテンとあしか作戦(イギリス本土上陸)、戦艦ビスマルク追撃戦、ディエップ強襲、仮想・連合軍フランス侵攻スレッジハンマー作戦、ラウンドアップ作戦も扱う。GDWのエウロパ・シリーズで言えば「ポーランド電撃戦」と「フランス降伏」と「ナルビク強襲」と「英国本土決戦」がワンボックスに詰め込まれているようなもので、「Blitzkrieg II」では、カウンターシート24枚=カウンター総数6720個が予定されている。

・「Balkan Fury」(2011年発売) バルカン半島での戦闘……イタリア軍アルバニア侵攻、ドイツ軍のギリシャ、ユーゴ侵攻、クレタ島侵攻、イギリス軍のタラント港空襲、マタパン岬沖海戦を扱う。

・「Mare Nostrum」(2013年発売) 地中海・北アフリカ・中東での戦闘をすべて包括し、マップ33枚で西はスペイン・ポルトガル、東はイラン・イラク、南はケニアウガンダまで、カウンターシートは18枚=カウンター総数5040個という超大作。あいにくメーカーにはQM版(データ版)しか在庫が無いが、まだショップ在庫も見かけるし、いずれ「Blitzkrieg」同様「II」が制作されるかもしれない。

・「Madacascar」(2013年発売 ミニモジュール) 1942年、ヴィシー・フランス領マダガスカル島への連合軍の侵攻、アイアンクラッド作戦を扱う。

・「Barbarossa」(恐らくもうすぐ、2019年発売予定) 21世紀版「Fire in the East」。1941年~1943年の東部戦線……バルバロッサ作戦、青作戦、火星・天王星土星作戦、マンシュタインの反撃、セバストポリ攻略、ムルマンスク船団護衛を扱う。予告ではマップ20枚、カウンターシート24枚=カウンター総数6720個、両軍の戦闘序列は合計350ページ以上という、ウォーゲーム史上最大級のモンスターゲームになる予定。ちなみにボックスアートは、2種類から選べる。

・「Operation Merkur」(2014年発売 ミニモジュール) 1941年のドイツ軍によるクレタ島侵攻作戦を扱う。1ターン=半月ではなく、1ターン=5日スケール。

・「Operation Battleaxe」(2016年発売 ミニモジュール) バトルアクス作戦と、仮想ドイツ軍によるトルコ侵攻、ソ連軍によるイラン侵攻も含む。 

・「Liberation」(プレオーダー中) 1943年以降の西部戦線……シチリア島、イタリア上陸とゴシックラインでの戦闘、オーバーロード作戦、マーケットガーデン作戦、バルジ戦、戦略航空戦争を扱う。

・「Vengeance」(プレオーダー中) 1943年以降の東部戦線……クルスク戦レニングラード解囲、ドイツ中央軍集団の崩壊、バグラチオン作戦、ハンガリー戦、ベルリン戦を扱う。 

・太平洋戦線(年代順)

・「The China Incident」(企画中) 1937年~1945年の日中戦争ノモンハン事件を含む国境紛争、さらには1949年まで延長して共産党軍による中国支配を扱う。

・「Day of Infamy」(2017年発売) 1941年~1943年の北部太平洋での戦闘……真珠湾ウェーク島、ドゥーリトル隊の東京空襲、アッツ島キスカ島、ミッドウェー島を扱う。

・「Singapore !」(2015年発売) 1941年~1945年までの東南アジアでの戦闘……日本軍によるマレー、ビルマスマトラ、ジャワ侵攻、セイロン空襲、インパール作戦を扱う。

・「I Shall Return」(プレオーダー中) 1941年~1945年までのフィリピン戦……日本軍の侵攻、捷号作戦、仮想対日戦プラン・オレンジを扱う。

・「Operation Watchtower」(プレオーダー中) 1941年~1943年の南部太平洋での戦闘……珊瑚海海戦、ガダルカナル島ラバウル航空戦、南太平洋海戦を扱う。

・「Kamikaze」(企画中) 1943年以降の中部太平洋の戦い……タラワ、マリアナ諸島硫黄島、沖縄での戦闘に加え、日本本土侵攻ダウンフォール作戦を扱う。 

GDWやGRDでのエウロパ・シリーズの頓挫を見ると、ついつい『全部出せるのか?』と思ってしまうが、この9年間でかなりの作品がリリースされているし、これだけでも十分遊べると思う。恐らく近いうちに「Barbarossa」が発売されるし、いったん品切れた「Blitzkrieg」も再版するようなので、シリーズの整備は頑張っているようだ。

TSWWシリーズ最大の問題は、その価格である。正直、かなり高い。ただしルールやシナリオだけデータ化したLieutenant版や、地図盤やカウンターシートまでデータ化したQuartermaster版は、より安価になっているので、そちらを利用する手はある。メーカーではVASSALモジュールも用意しているので、データのみのQM版だけ買って、プレイはVASSALで……ということも可能だ。自分は、ルール和訳のためにデータ化されたルールブックが必要だったので、Lieutenant版を購入している。

エウロパ・シリーズとの違い:基本部分】

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ゲームスケールは、エウロパ・シリーズと同じく、1ヘクス=15マイル、1ターン=半月(5日バリアントもあり)である。1地上ユニットの規模(軍団~師団~旅団~連隊~大隊)も同じだが、艦船ユニットは、駆逐艦まで1ユニット1艦となり、航空ユニットは表面がウイング(40機)、裏面がスコードロン(20機)になっている。1艦1ユニット方式は、艦船ファンとしては嬉しいものの、プレイは面倒になるという、痛し痒しな部分もあるが、艦船はシルエット、航空機はカラーイラストになっているのが嬉しい。

ゲームの進行は、エウロパ・シリーズとあまり変わらず、移動・戦闘・反応移動・突破移動である。またゲーム判定に使うダイスは、6面体ではなく、すべて10面体となっている。

 エウロパ・シリーズとの違い:陸戦】

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まず大きな違いとして、戦闘効率補正(CEV:Combat Efficiency Valiable)という概念が導入されている。 CEVは、各国の時期別の士気や練度を表し、戦闘力を増加・減少させる係数になっている。たとえば上の画像(冬戦争)では、ソ連軍歩兵師団(茶)は戦闘力11と10、フィンランド軍歩兵師団(白)は戦闘力5になっている。額面戦闘力だけ見れば、21:5=戦闘比4対1になるだろう。

しかし1939年のフィンランド軍のCEVは1.4、ソ連軍のCEVは1.0なので、その数値を掛けると、フィンランド軍師団は5✕1.4=7、ソ連軍はそのまま10と11となる。さらに指揮官マンネルハイム(Mannerheim)と連絡線がつながっていれば、その防御指揮能力=CEV+0.5が得られるので、フィンランド軍師団の戦闘力は、5✕1.9=9.5戦力となる。

また補給ルールも、細かくなっている。補給線が通じている地上ユニットは、一般補給下にあると見なされ、防御時にはその額面戦闘力で防御できる。しかし一般補給下で攻撃する場合には、戦闘効率補正✕0.75となってしまう。上の図で言えば、もしソ連軍の2個師団が、どちらも一般補給下で攻撃するなら、10✕1.0✕0.75=7.5戦力と、11✕1.0✕0.75=8.25戦力となり、2個師団足しても15.75となる(端数は残す)。戦闘比を出す場合は、15.75÷9.5=1.66対1となり、d100を振って、小数点数値の66以上が出たら1対1となり、66未満なら2対1となる。いずれにしろ額面4対1だったのが、2対1か1対1になるし、最終戦闘比は d100を振るまで分からないわけだ。

攻撃時に100%戦闘効率補正を発揮したい場合は、攻勢補給という補給ポイントを上乗せして追加消費する必要がある。攻勢補給を消費すれば、額面通りの21戦力対9.5戦力で、21÷9.5=2.21となり、d100を振って21未満なら3対1になる。つまりOCS同様、補給の無い所では攻勢が成り立たないのだ。

また旧来のエウロパ・シリーズでは、スタック内の戦車・対戦車RE(連隊相当)の割合を計算するのが面倒だったが、TSWWでは、割合ではなく、スタック内にどれだけの戦車・対戦車スタックポイント(連隊相当)があるかだけ算出し、その数によってダイス修整を導き出すので、そこは簡単になっている。

とは言え、このように、ひとつの地上戦闘を解決するのに、非常に多くの手間がかかるのは事実。もちろんメイアタックなので、攻撃したいところや、攻勢補給を消費したところだけ処理すれば良いし、こういった計算を楽しめる人向きのゲームなのだろう。

さらにエウロパ・シリーズとの違いとして、オーバーランが戦闘比10対1のみではなく、戦闘比7対1から可能(その代わり損耗も大きい)にもなっている。

 エウロパ・シリーズとの違い:空戦】

 エウロパ・シリーズとの違い:海戦】

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海空戦については、ソロプレイした時に詳しく触れるが、ひととおりルールを読んだ感じでは「陸戦ゲームのオマケ」ではなく、それぞれのシナリオが、作戦級の航空戦・海戦ゲームとしても成立しそうに思える。特に海戦は、1艦1ユニットになったものの、あくまで1ターン=半月というおおざっぱなスケールなので、どこまで面白く、納得できる形で表現されているか、興味津々だ。

また空戦や海戦でも、CEV(戦闘効率補正)がダイス修整として影響を及ぼしている。太平洋戦線で言うなら、1941年は日本軍の方がCEVが高く、1942年では日米互角、1943年以降からアメリカ軍のCEVが勝り、日本軍はどんどんCEVが落ちていく。

このCEVをはじめ、各ゲームで史実的根拠に満ちたルールが多々あり、恐らく旧来のエウロパ・シリーズよりも史実に沿った展開になると思われる。自分は、それでも大丈夫なウォーゲーマーなのだが、夢想的な展開が欲しい人には厳しく感じるかもしれない。なるようにしかならないじゃないかと。

また時間も手間もかかるため、例会などでプレイするには限界があるが、ソロプレイ環境が整っている自分なら、楽しめそうだなと思っている。すでに2作、入手してあるので、この日記に続いて購入記録を書いたら、連休中にはソロプレイする予定。昭和時代に挫折したエウロパ・シリーズに、平成の最後・令和の最初に取り組むというのも、自分の中では、なかなか面白いなあと思っている。

【参考文献】ピーター・ナヴァロ「米中もし戦わば 戦争の地政学」

アメリカ・トランプ政権の国家通商会議委員長、ピーター・ナヴァロの「米中もし戦わば」が文庫化されたので購入。著者は、ゴリゴリの中国脅威論者だそうだが、アメリカ政権側が今、中国とのどのような危機を想定しているか、という点では、ウォーゲーマー的にも参考になる。近未来の米中戦争をテーマとした、アメリカ発の商業ウォーゲームも、こういった想定がベースになっていると思われるし、現代仮想戦ゲームの背景を知るには良いかなと。まあ、あくまで中国脅威論者というバイアスはあるだろうが、想定そのものは興味深い。

【参考文献】「ラスト・オブ・カンプフグルッペ VII」

ラスト・オブ・カンプフグルッペVII

ラスト・オブ・カンプフグルッペVII

 

最新刊「ラスト・オブ・カンプフグルッペ VII」を購入。ようやく最新巻にリアルタイムで追いついた。今回気になった記事は、まず「第18砲兵師団」。「OCS:Hube's Pocket」でも、この部隊が登場するが、実際プレイした時は、ソ連軍を迎え撃つ予備・阻止砲撃部隊として配置されたが、戦線全体が長大すぎて、そのすべてをカバーしきれなかった。当然、その阻止砲撃の切れ目にソ連軍が攻め込んでくるので、なかなか役割が果たせなかった記憶が……

また第88重戦車猟兵大隊も「OCS:Hube's Pocket」に1ユニットとして登場するが、練度=AR(アクションレーティング)は5と最高なものの、自発的な攻撃はできず、防御のみという、ある意味、正しいキャラクター付けがされていた。

こういった背景記事を読むと、また「OCS:Hube's Pocket」に触れてみたくなるな……