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After Action Reports & Reviews of Simulation War Games ほぼ引退した蔵書系ウォーゲーマーの日記

【The Second World War】TSWW:21世紀のアドバンスド・エウロパ・シリーズ

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ここ一ヶ月半、Blogを書いていなかったが、ウォーゲームに触れていなかったわけではない。むしろここ一ヶ月半、延々と、あるウォーゲームのルール和訳に没頭していたのだ。それが、今回ご紹介するDiffraction Entertainment社のTSWW(The Second World War)シリーズである。

このTSWWシリーズは、簡単に言うと「21世紀のエウロパ・シリーズ」である。かつてGDW社から発売されていた、第二次欧州大戦の作戦級エウロパ・シリーズは、1990年代にGRD社に引き継がれ、さらに太平洋戦線も扱うグローリー・シリーズ、第一次大戦版のグレート・ウォー・シリーズも出版されたが、GRDも今では活動を停止し、エウロパ・シリーズも完結していない(海外サイトの書き込みを見ると、権利を乗っ取られたようにも読める)。そのGRDの終焉と入れ替わるようにして、2010年から発売されたのが、DE社のTSWWシリーズである。

自分も学生時代、ホビージャパン社からライセンス生産されたエウロパ・シリーズをひととおり買ったものの、ユニットの多さや、スタック計算の面倒くささ(何割が自動車化されているか)や、航空ユニットと艦船ユニットにシルエットが無い(数字のみで雰囲気が出ない)、小規模シナリオが無いという理由から挫折し、すでに全作処分してしまっている。たしか1日がかりで「フランス崩壊」の地上ユニットを並べたものの、この後、航空ユニットも並べるのかと思った瞬間、心が折れた記憶が……

そんな自分がなぜか、この2月にふとこのTSWWシリーズが欲しくなり、30年ぶりに再挑戦してみることになった。せっかくコレクションも断捨離したのに、ここでまたシリーズを増やすのかと思ったが、欲しくなってしまったんだから、仕方ない。まあ、OCS(Operation Combat Series)では扱いきれない、より大きな戦役をプレイするには良いかな……とも思ったが、実際にルールを読んでみると、むしろOCSより細かい部分が多く、これはむしろ「21世紀のアドバンスド・エウロパ・シリーズ」じゃないかと驚いた。

とりあえず1ヶ月半かけて、ようやくルール(英文130ページ以上)を訳し終わったので、紹介記事を書ける段階と相成った。なにしろネット上には、日本語で読めるTSWWの詳しい紹介記事が無く、そもそもどういう作品が出ているのか、GDWのエウロパ・シリーズとどう違うのかも、良く分からない状況なので、この記事が参考になれば幸いかと。

ちなみに日本語ルールの公開については、販売元に相談中であり、デザイナーのJohn Bannerman氏からも『TSWWを紹介してくれるなら、これを使ってもいいよ』と快く、沢山の画像を送っていただいた。今回の記事に使用している画像のいくつかも、Bannerman氏からのご提供のモノである。

※2020年7月21日 TSWW公式フォーラムにて日本語ルール公開。


ではまず、現在までに発売されているTSWW作品と、将来発売予定のラインアップについて…… 

 

TSWWシリーズタイトル一覧

・欧州戦線(年代順)

・「La Guerra」(プレオーダー中) 正確にはTSWWシリーズではなく、BTW(Between The War)シリーズ。スペイン市民戦争を扱う。 

・「Hakkaa Paalle」(2016年発売) フィンランドでの冬戦争と、ドイツ軍による仮想スウェーデン侵攻戦 (1941年、42年、43年想定)を扱う。

・「Blitzkrieg」(2010年発売、現在、改訂版がプレオーダー中) 記念すべきTSWWシリーズ第一作。現在ではメーカー品切れだが、改訂版となる「Blitzkrieg II」がプレオーダー中。1939年~1943年の初期電撃戦……ドイツ軍によるポーランド侵攻、フランス侵攻、ノルウェー侵攻、バトル・オブ・ブリテンとあしか作戦(イギリス本土上陸)、戦艦ビスマルク追撃戦、ディエップ強襲、仮想・連合軍フランス侵攻スレッジハンマー作戦、ラウンドアップ作戦も扱う。GDWのエウロパ・シリーズで言えば「ポーランド電撃戦」と「フランス降伏」と「ナルビク強襲」と「英国本土決戦」がワンボックスに詰め込まれているようなもので、「Blitzkrieg II」では、カウンターシート24枚=カウンター総数6720個が予定されている。

・「Balkan Fury」(2011年発売) バルカン半島での戦闘……イタリア軍アルバニア侵攻、ドイツ軍のギリシャ、ユーゴ侵攻、クレタ島侵攻、イギリス軍のタラント港空襲、マタパン岬沖海戦を扱う。

・「Mare Nostrum」(2013年発売) 地中海・北アフリカ・中東での戦闘をすべて包括し、マップ33枚で西はスペイン・ポルトガル、東はイラン・イラク、南はケニアウガンダまで、カウンターシートは18枚=カウンター総数5040個という超大作。あいにくメーカーにはQM版(データ版)しか在庫が無いが、まだショップ在庫も見かけるし、いずれ「Blitzkrieg」同様「II」が制作されるかもしれない。

・「Madacascar」(2013年発売 ミニモジュール) 1942年、ヴィシー・フランス領マダガスカル島への連合軍の侵攻、アイアンクラッド作戦を扱う。

・「Barbarossa」(恐らくもうすぐ、2019年発売予定) 21世紀版「Fire in the East」。1941年~1943年の東部戦線……バルバロッサ作戦、青作戦、火星・天王星土星作戦、マンシュタインの反撃、セバストポリ攻略、ムルマンスク船団護衛を扱う。予告ではマップ20枚、カウンターシート24枚=カウンター総数6720個、両軍の戦闘序列は合計350ページ以上という、ウォーゲーム史上最大級のモンスターゲームになる予定。ちなみにボックスアートは、2種類から選べる。

・「Operation Merkur」(2014年発売 ミニモジュール) 1941年のドイツ軍によるクレタ島侵攻作戦を扱う。1ターン=半月ではなく、1ターン=5日スケール。

・「Operation Battleaxe」(2016年発売 ミニモジュール) バトルアクス作戦と、仮想ドイツ軍によるトルコ侵攻、ソ連軍によるイラン侵攻も含む。 

・「Liberation」(プレオーダー中) 1943年以降の西部戦線……シチリア島、イタリア上陸とゴシックラインでの戦闘、オーバーロード作戦、マーケットガーデン作戦、バルジ戦、戦略航空戦争を扱う。

・「Vengeance」(プレオーダー中) 1943年以降の東部戦線……クルスク戦レニングラード解囲、ドイツ中央軍集団の崩壊、バグラチオン作戦、ハンガリー戦、ベルリン戦を扱う。 

・太平洋戦線(年代順)

・「The China Incident」(企画中) 1937年~1945年の日中戦争ノモンハン事件を含む国境紛争、さらには1949年まで延長して共産党軍による中国支配を扱う。

・「Day of Infamy」(2017年発売) 1941年~1943年の北部太平洋での戦闘……真珠湾ウェーク島、ドゥーリトル隊の東京空襲、アッツ島キスカ島、ミッドウェー島を扱う。

・「Singapore !」(2015年発売) 1941年~1945年までの東南アジアでの戦闘……日本軍によるマレー、ビルマスマトラ、ジャワ侵攻、セイロン空襲、インパール作戦を扱う。

・「I Shall Return」(プレオーダー中) 1941年~1945年までのフィリピン戦……日本軍の侵攻、捷号作戦、仮想対日戦プラン・オレンジを扱う。

・「Operation Watchtower」(プレオーダー中) 1941年~1943年の南部太平洋での戦闘……珊瑚海海戦、ガダルカナル島ラバウル航空戦、南太平洋海戦を扱う。

・「Kamikaze」(企画中) 1943年以降の中部太平洋の戦い……タラワ、マリアナ諸島硫黄島、沖縄での戦闘に加え、日本本土侵攻ダウンフォール作戦を扱う。 

GDWやGRDでのエウロパ・シリーズの頓挫を見ると、ついつい『全部出せるのか?』と思ってしまうが、この9年間でかなりの作品がリリースされているし、これだけでも十分遊べると思う。恐らく近いうちに「Barbarossa」が発売されるし、いったん品切れた「Blitzkrieg」も再版するようなので、シリーズの整備は頑張っているようだ。

TSWWシリーズ最大の問題は、その価格である。正直、かなり高い。ただしルールやシナリオだけデータ化したLieutenant版や、地図盤やカウンターシートまでデータ化したQuartermaster版は、より安価になっているので、そちらを利用する手はある。メーカーではVASSALモジュールも用意しているので、データのみのQM版だけ買って、プレイはVASSALで……ということも可能だ。自分は、ルール和訳のためにデータ化されたルールブックが必要だったので、Lieutenant版を購入している。

エウロパ・シリーズとの違い:基本部分】

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ゲームスケールは、エウロパ・シリーズと同じく、1ヘクス=15マイル、1ターン=半月(5日バリアントもあり)である。1地上ユニットの規模(軍団~師団~旅団~連隊~大隊)も同じだが、艦船ユニットは、駆逐艦まで1ユニット1艦となり、航空ユニットは表面がウイング(40機)、裏面がスコードロン(20機)になっている。1艦1ユニット方式は、艦船ファンとしては嬉しいものの、プレイは面倒になるという、痛し痒しな部分もあるが、艦船はシルエット、航空機はカラーイラストになっているのが嬉しい。

ゲームの進行は、エウロパ・シリーズとあまり変わらず、移動・戦闘・反応移動・突破移動である。またゲーム判定に使うダイスは、6面体ではなく、すべて10面体となっている。

 エウロパ・シリーズとの違い:陸戦】

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まず大きな違いとして、戦闘効率補正(CEV:Combat Efficiency Valiable)という概念が導入されている。 CEVは、各国の時期別の士気や練度を表し、戦闘力を増加・減少させる係数になっている。たとえば上の画像(冬戦争)では、ソ連軍歩兵師団(茶)は戦闘力11と10、フィンランド軍歩兵師団(白)は戦闘力5になっている。額面戦闘力だけ見れば、21:5=戦闘比4対1になるだろう。

しかし1939年のフィンランド軍のCEVは1.4、ソ連軍のCEVは1.0なので、その数値を掛けると、フィンランド軍師団は5✕1.4=7、ソ連軍はそのまま10と11となる。さらに指揮官マンネルハイム(Mannerheim)と連絡線がつながっていれば、その防御指揮能力=CEV+0.5が得られるので、フィンランド軍師団の戦闘力は、5✕1.9=9.5戦力となる。

また補給ルールも、細かくなっている。補給線が通じている地上ユニットは、一般補給下にあると見なされ、防御時にはその額面戦闘力で防御できる。しかし一般補給下で攻撃する場合には、戦闘効率補正✕0.75となってしまう。上の図で言えば、もしソ連軍の2個師団が、どちらも一般補給下で攻撃するなら、10✕1.0✕0.75=7.5戦力と、11✕1.0✕0.75=8.25戦力となり、2個師団足しても15.75となる(端数は残す)。戦闘比を出す場合は、15.75÷9.5=1.66対1となり、d100を振って、小数点数値の66以上が出たら1対1となり、66未満なら2対1となる。いずれにしろ額面4対1だったのが、2対1か1対1になるし、最終戦闘比は d100を振るまで分からないわけだ。

攻撃時に100%戦闘効率補正を発揮したい場合は、攻勢補給という補給ポイントを上乗せして追加消費する必要がある。攻勢補給を消費すれば、額面通りの21戦力対9.5戦力で、21÷9.5=2.21となり、d100を振って21未満なら3対1になる。つまりOCS同様、補給の無い所では攻勢が成り立たないのだ。

また旧来のエウロパ・シリーズでは、スタック内の戦車・対戦車RE(連隊相当)の割合を計算するのが面倒だったが、TSWWでは、割合ではなく、スタック内にどれだけの戦車・対戦車スタックポイント(連隊相当)があるかだけ算出し、その数によってダイス修整を導き出すので、そこは簡単になっている。

とは言え、このように、ひとつの地上戦闘を解決するのに、非常に多くの手間がかかるのは事実。もちろんメイアタックなので、攻撃したいところや、攻勢補給を消費したところだけ処理すれば良いし、こういった計算を楽しめる人向きのゲームなのだろう。

さらにエウロパ・シリーズとの違いとして、オーバーランが戦闘比10対1のみではなく、戦闘比7対1から可能(その代わり損耗も大きい)にもなっている。

 エウロパ・シリーズとの違い:空戦】

 エウロパ・シリーズとの違い:海戦】

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海空戦については、ソロプレイした時に詳しく触れるが、ひととおりルールを読んだ感じでは「陸戦ゲームのオマケ」ではなく、それぞれのシナリオが、作戦級の航空戦・海戦ゲームとしても成立しそうに思える。特に海戦は、1艦1ユニットになったものの、あくまで1ターン=半月というおおざっぱなスケールなので、どこまで面白く、納得できる形で表現されているか、興味津々だ。

また空戦や海戦でも、CEV(戦闘効率補正)がダイス修整として影響を及ぼしている。太平洋戦線で言うなら、1941年は日本軍の方がCEVが高く、1942年では日米互角、1943年以降からアメリカ軍のCEVが勝り、日本軍はどんどんCEVが落ちていく。

このCEVをはじめ、各ゲームで史実的根拠に満ちたルールが多々あり、恐らく旧来のエウロパ・シリーズよりも史実に沿った展開になると思われる。自分は、それでも大丈夫なウォーゲーマーなのだが、夢想的な展開が欲しい人には厳しく感じるかもしれない。なるようにしかならないじゃないかと。

また時間も手間もかかるため、例会などでプレイするには限界があるが、ソロプレイ環境が整っている自分なら、楽しめそうだなと思っている。すでに2作、入手してあるので、この日記に続いて購入記録を書いたら、連休中にはソロプレイする予定。昭和時代に挫折したエウロパ・シリーズに、平成の最後・令和の最初に取り組むというのも、自分の中では、なかなか面白いなあと思っている。