Wargaming Esoterica

After Action Reports & Reviews of Simulation War Games ほぼ引退した蔵書系ウォーゲーマーの日記

Avalon Hill 「ナポレオンの黄昏 The Struggle of Nations」

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昨日は「アジアン・フリート」を古書店サイトで購入したと書いたが、実はその古書店、昨年SPI/HJ「第二次欧州大戦」を購入したお店だった。そのお店に昨年初めて行った際、店頭にアバロンヒルの「ナポレオンの黄昏 The Struggle of Nations」(日本語訳付き・未切り離し)もあって、ああ、昔持ってたけど処分しちゃったんだよなあ、またちょっと触れてみたいけど、今さらなあ……などと思いつつその時はスルーしてしまった。しかし今回「アジアン・フリート」を注文するついでに在庫をチェックしてみたら、まだ売れ残っていたので、だったら……とばかりに注文してしまった。ナポレオン戦争モノは、戦術級のバタイユ・シリーズだけにしておけばいいものを、これでまた戦役級、作戦級シリーズも揃えたくなってしまったじゃないか(自業自得)

実はこの「ナポレオンの黄昏」、高校生の頃、自分が初めて購入したナポレオン戦争のウォーゲームだった。いや正確には、これより前にタクテクス誌の付録としてSPI「Napoleon at Waterloo」にも触れてはいたけれど、自覚的に初めて買ったゲームという意味。当時はもちろん第二次大戦や、1980年代の現代戦ゲームに夢中で、ナポレオン戦争ゲームは大人向けのマニアックなモノ、という雰囲気を感じていた。それでもウォーゲーム経験も4~5年経て、ナマイキな高校生になっていたので『俺もそろそろナポレオンだな(ニヤリ)』とばかりに買ってみたものの、あまりの難解さと、プレイのしにくさ(後述)に呆然とした思い出がある。結局、ほとんどプレイしないまま処分してしまったが、いまだに惹かれるものがあったので、また手を出してみたと。

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本作は、OSG社からいまだにナポレオン戦争ゲームを出版し続けている、Kevin Zucker氏による戦役級作品。そのテーマは、1813年4月~6月(春季戦役)、8月~10月(秋季戦役)にわたって現在のドイツ東部で展開された、いわゆる解放戦争。前年、ロシアで敗退したフランス軍を、春季戦役でロシア=プロイセン連合軍が追撃するも、リュッツェン、バウツェン会戦でフランス軍を打ち破れず、いったん休戦している間に反仏連合軍にオーストリアスウェーデンも加わり、秋季戦役ではドレスデン会戦を経て、最終決戦ライプツィヒ会戦で、遂にフランス軍が敗走するという流れ。

その戦場全体が、ハードボード製の地図盤1.5枚に収められているが、まずこの地図盤が本作最大のクセモノにして難点。

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とにかくヘクス径が小さい! 同梱されたダイスと見比べてみるとこんな感じ。もちろん広大な1813年戦役全体をカバーしようと思ったら、通常サイズのヘクス地図盤だと、フルマップ3枚以上にはなってしまうので、苦肉の策なのだろうが、それにしたってヒドいじゃないか。いや拡大さえすれば、特に嫌みの無いシンプルな地図盤なんだけど。

ちなみに自分は高校生の時、初めてこれを買った日に地図盤を取り出し、広げようと思ったら、こんな折り方の地図盤は初めてだったため、バリッ!とつなぎ目を破ってしまった。買ったその日にパーツをぶっ壊すなんて、後にも先にもその一回だけ。その衝撃も、本作から遠ざかった一因だったように思う……

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本作は「Napoleon at bay」等の、いわゆるCampaign of Napoleonシリーズに連なる作品なので、戦闘部隊ユニットは管理トラック上に置かれ、それを率いる指揮官ユニットだけが地図盤上を動き回るシステムになっている。で、こちらがその指揮官ユニットなのだが、ヘクス径が小さい以上、当然こちらのユニットも小さくなっている。高校生当時の自分から見ても指揮官名が判別しづらく、もはや老眼も入ってきた50代には厳しすぎる。一応、本作の指揮官ユニットは、表面が横隊(戦闘隊形)、裏面が縦隊(移動隊形)になっていて、それはそれで機能的なのだが、もっと大きいユニットでやってほしかったし、2ヘクスにまたがるユニットになっているため、その分、移動・戦闘ルールもややこしくなっている。

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こちらは戦闘ユニット。ごく普通サイズなのがありがたい。

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と、ここまで散々文句をつけてきたが、指揮官たちの肖像画が描かれた編成表は、雰囲気たっぷり。特に、暗い背景に溶け込んでいるナポレオンI世の姿は、いかにもロシアから敗走し、まさにその黄昏期を迎えているかに見えた。

ちなみに能力値的には、いまだにナポレオン(4★104)は衰えていないが、ネイ(363)もミュラ(463)も戦闘ボーナス無いのね。総合的に頼りになりそうなのは、マクドナルド(4★63)、レイニエ(4★62)、モルティエとベルトラン(3★62)あたりか。

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こちらは反仏連合軍の編成表。ブリュッヒャーは春季戦役では(4★83)だが、秋季戦役では(4★104)とナポレオンと互角。ウィトゲンシュタイン(253)は頼りなく、やはり秋季戦役からの、シュワルツェンベルグ(2★64)、バルクライ・ド・トーリー(3★62)の登場を待ちたい。

f:id:crystal0207:20220423160733j:imageルール的には、Campaign of Napoleonの流れをくむため、補給源から策源へ、さらに戦闘部隊へという連絡線=伝令線を維持しつつ、軍管理ポイントによって各指揮官に命令を下して移動させ、移動距離によって戦力が損耗していくというシステム。まあ、たしかにナポレオン戦争を忠実にシミュレートはしているが、2020年代の今では、もっとスマートな形で、そういった現象を再現できるシステムはあるかなと。

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移動距離によって損耗率が変わるため、どこからどこまで移動するかは重要なのだが、あいにく地図盤が小さいため、その距離を数えるのも面倒ではある。一応、シナリオ・フォルダーの巻末には、主要な都市・街の間の距離が算出されている。まあ、このあたりももっと簡便に表現できるのだろうが、あえて図上演習的に、ちまちまと計算して、ああでもない、こうでもないと頭をヒネるのが楽しい人もいるはず。

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シナリオは、春季戦役シナリオ、ドレスデン会戦シナリオ(8月開始)、ライプツィヒ会戦シナリオ(9月末開始)の3本があり、春季から始めるキャンペーン、8月から始めるキャンペーンもあり。一応、入門用として春季シナリオが推薦されているが、自分も高校生の時、挑戦しようとして挫折してしまった。1980年代当時のタクテクス誌やシミュレイター誌を見ても、本作のリプレイは見当たらなかったので、やはり実プレイのハードルが高すぎるゲームだったのだろう。作品としては不成功だったのだろうが、とは言え、システムとグラフィックが妙に魅力的なので、やはり手元に置いておくかと。

一応、最近OSGからも「The Campaign of Napoleon 5x」として、スケールを変えた形で、より規模のデカいロシア戦役を模した「Highway to the Kremlin」の第2版が発売されたし、「Napoleon at Bay」のアップデート・キットも発売されているし、一応このシリーズもまだ継続して発表していくようだ。だったら本作も「3x」とか「2x」的にスケールを変えてリメイクしてほしいのだが、さて……