Wargaming Esoterica

After Action Reports & Reviews of Simulation War Games ほぼ引退したウォーゲーマーの日記

SPI「NATO Division Commander」

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引き続き買い直しシリーズ。ちょうど40年前、自分が中学1年生の時に買ったSPI「NATO Division Commander」(1979年発売)を再購入した。こちらもやはり、1980年代の東西ヨーロッパ境界線における第三次世界大戦を想定したゲームだが、BGG(Board Game Geek)の紹介文を引用すると「師団/旅団規模での作戦実施における、軍大学レベルの教育ゲーム」「第三次世界大戦の地上作戦シミュレーションとしては、唯一にして真のごった煮(smorgasbord)」とある。何やら異様に難解そうなゲームだが、実際、このレベルの地上戦要素を全部詰め込んだ上に、実験的なゲーム要素も盛り込んだため、プレイに至るまでのハードルは非常に高くなっている。

なぜそんな難解なゲームを中学1年生だった自分が、しかもまだウォーゲームに入門して半年しか経っておらず、最初に買った「Panzer Leader」に続く2個目のゲームとして購入したかと言えば、単純に『難しいウォーゲームの方が良いゲームなんじゃないか』という誤解のような正解のような期待があったから。いや、正直言うと、結構今でもそう思っているフシはある。しかし当時は、まだタクテクス誌も創刊される前で、情報と言えばホビージャパンのSPIカタログしか無く、本作の「難易度9」「戦術級での戦闘をシミュレートしたビッグゲーム」「ルールが緻密」というアオリ文句に心惹かれたのだろう。実際、入手してみると当然、中1の初心者ウォーゲーマーが太刀打ちできる作品ではなかったし、最初はルールを間違えまくっていたけれど、せめて一太刀という感じで、ソロプレイしていた記憶はある。今から振り返ると、人生2個目のウォーゲームとして本作を選んだ自分のセンスを褒めてやりたい気もする。

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さてゲーム紹介。フルマップの地図盤には、東西ドイツ国境・フルダ峡谷に近い一帯が描かれている。1ヘクス=1マイル(約1.6km)なので、さほど広い範囲ではない。見ての通り、地図盤は5ヘクス×5ヘクスのセクターと呼ばれる区域に分けられており、まったく同じ地図盤が2枚収録されている。

この2枚の地図盤は、選択ルールながらも「NATO Division Commander」の大きな個性のひとつである「コントローラー・ゲーム」用に用意されている。その選択ルールを用いた場合、コントローラー(=ゲームマスター)と、実戦プレイヤーが、それぞれ同じ地図盤を持った上で、コントローラーの地図盤には米ソ両軍の戦闘ユニットが配置され、コントローラーが(NPCやモンスターを扱うように)ソ連軍を動かす。一方、実戦プレイヤーは(自分のキャラクターを扱うように)アメリカ軍を指揮し、その地図盤には、発見されたソ連軍ユニットだけが姿を現していく……というもの。そう、本作がロール・プレイング・ゲーム的と評される理由のひとつがここにある。しかし自分が本作を買った1981年当時、まだRPGも知らなかったため、この選択ルールを読んで『なんだこれ凄い……』と呻くしかなかった。

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そのコントローラー・ゲームに用いるため、米ソ両軍の戦闘ユニットはすべて二組ずつ用意されている。そう、以前も書いたが、タイトルには「NATO」とあるのに、登場するユニットは米ソ軍しかない。最初に買った当時、そのことに非常に落胆したのも良く覚えている。いや実際、この地域には西ドイツ軍も配置されているはずだから、収録しても良かったようにも思うが、カウンター数に制限でもあったんだろうか。アメリカ軍師団と西ドイツ師団の違いも見てみたかった気がする。

ちなみにこちらがアメリカ軍ユニットで、1ユニットは基本的に大隊規模。機甲騎兵大隊の分割用として中隊ユニットも用意されている。登場するのは、当時この地域に配備されていたアメリカ第3機甲師団、第8、第4機械化歩兵師団、第11機甲騎兵連隊。実質的に戦闘ユニットは50個ほどしかなく、カウンター総数1200個に比べると非常に割合が少ない(つまりマーカー類が圧倒的に多い)。戦闘ユニットにはシンプルに「攻撃力・防御力」が記されているが、戦闘態勢によってその数値は上下する。

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こちらがソ連軍ユニット。もちろんこちらも二組用意され、やはり戦闘ユニットは60個ほどしかない。登場部隊は、ソ連第7、第11親衛戦車師団、第27親衛自動車化狙撃兵師団、第109空挺師団。こちらも1ユニットは大隊規模だが、偵察大隊の分割中隊用ユニットもある。

また「Division Commander」という名前だけあって、指揮関係も詳細であり、アメリカ軍師団には、師団総司令部(DIVMAIN)、師団戦闘司令所(DIVTAC)、師団砲撃指揮所(DIVATY)、師団補給指令所(DISCOM)があり、ソ連軍師団には師団総司令部(DIVMAIN)と師団戦闘司令所(DIVALT)しかない。さらに各旅団・連隊司令部もありという凝った作りになっている。

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カウンターの大半を占めるのは、マーカー類である。戦闘ユニットの態勢は、定点防御、臨戦防御、緊急防御、待機、拡大守備、広域守備、総力攻撃、緊急攻撃、救援/突撃、索敵機動、快速機動とあり、それぞれ攻撃力と防御力の修整値、情報防御値、移動力が異なっている。また拡大守備、広域守備態勢となると、本隊ユニットから散開ユニットを周囲のヘクスに派遣して、より広い地域に展開することも可能になっている。また各司令部ユニットは、行軍、設営態勢がある。態勢を変更するには、各司令部の現有スタッフ値と、所用スタッフ値から数値を求め、ダイスを振って態勢変更に成功したかどうかを判定する。そう、態勢を変更できるかどうかは、師団や旅団参謀等、人的指揮要素に左右されるわけだ。

また砲兵、工兵、通信、航空といった支援兵科は、戦闘支援ポイント(CSP)として表される。砲爆撃にしても、戦闘ユニットへの連携射撃や、敵の突撃に対する防御砲爆撃はもちろん、対砲兵射撃、掘抉(敵の進撃路を事前に穴だらけにして前進を阻害する)等もある。

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各戦闘ユニットは、TO/E(編制定員)値、いわゆるステップ数を持ち、最大6から、戦闘で損耗する毎にその数値が減っていく。また選択ルールとして弾薬管理ルールもあり、マーカーも用意されている。

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また、敵ユニットにどれだけ情報が知られてしまったか(つまり砲爆撃を受けやすいかどうか)を表す情報精度マーカーや、各戦闘ユニットの指揮値マーカー(優秀な大隊長もいれば、そうでない大隊長もいる)もあり……とまあ、カウンター総数1200個のうち、2/3以上はマーカー類であり、非常に少数の戦闘ユニットを、非常に多くのマーカーで管理していくゲームになっている。

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当然のように、判定チャートも非常に多く、フルマップサイズのチャート表も付いている。ただしこれも、コントローラー・ゲーム用に、2分割できるようになっている。戦闘結果表や天候表はもちろん、本作のもうひとつの大きな個性である、師団司令官ルールに関する表も非常に多い。

これも本作のRPG的な部分だが(そして選択ルールではない)、各師団司令官には、認識力(各セクターの監視能力)、運営力(スタッフ値の増強)、統帥力(戦闘指揮)が設定されている。そして毎ターン与えられた行動ポイント10点の範囲で、それぞれの能力値を使用し、高い精度の情報を得たり、指揮組織を円滑に運営したり、戦闘を鼓舞していく。しかし師団司令官個人の疲労が蓄積すると、そのようなボーナスは得にくくなり、いったん休めば回復するが、その間は師団司令官のボーナスは得られない。また、師団司令官が直接戦闘に巻き込まれて死傷する場合もあり、その場合は下位指揮官が師団指揮を引き継ぐことになる。ある意味、前線指揮という、不眠不休のブラック労働が課される立場をシミュレートしつつ、ロール・プレイングもするという、まさに「Division Commander」個人を表したシステムになっている。

さらに戦術核兵器、電子戦、化学兵器ソ連軍のドクトリン(行軍手順が決められている)もあり、このレベルの戦闘で想定される要素は全部詰め込まれているんじゃないかと思える濃密な内容になっている。

シナリオは、簡易ルールを用いた入門用シナリオが1本、本格シナリオが11本収録されているので、一応いろいろな戦闘状況が試せるかと思う。

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タクテクス誌14号(1984年3-4月号)には、本作の背景知識である「現代戦における指揮・統制システム」の翻訳記事が載っているので、ルールの根拠を理解する手助けになる。

またタクテクス誌9号(1983年5-6月号)には、本作のソロプレイ・ルール記事があり、本作について『作戦級ゲームの頂点を極めたゲーム』『本当ならすべてのゲーマーに持っていただきたい』とまで書いてあるが、まあ、好きな人は好きだろうし、『プレイできるかこんなもん』と感じる方も多いだろう。

ちなみにBGGで、本作に対して10点満点中、最低の1点をつけている唯一の人物が、誰あろう、後にVictory Gamesで「Ambush !」や「The Civil War」「Across Five Aprils」「Panzer Commnad」等をデザインしたEric Lee Smith氏で、彼によると『このゲームが出版されていた時、私はSPIで働いていたが、本作が失敗作であることは誰もが知っていた』『私の意見では、これはJim Dunniganの最悪のゲームである』だそうで、思わず笑ってしまった。

まあ、「凄いゲーム」が「良いゲーム」とは限らないけれど、自分個人としては、本作は、今までに出版されてきた地上戦、現代戦シミュレーションの「極北」だと思っている。良いとか悪いとかいうレベルを超越して、行き着くところまで行ってしまった作品だなと。だからまた手元に欲しくなったし、どこかでもう一度触れてみようと思う。