Wargaming Esoterica

After Action Reports & Reviews of Simulation War Games ほぼ引退した蔵書系ウォーゲーマーの日記

【参考文献】クリストファー・R・ブラウニング「増補版 普通の人びと:ホロコーストと第101警察予備大隊」

昨年、文庫化された「普通の人びと:ホロコーストと第101警察予備大隊」を購入。原著初版は1992年だが、1997年に他の研究書との論争の経緯が追加されており、今回の文庫版はその増補版。昨年、発売された際にも話題になり、すぐ重版がかかっていたが、自分は手を出していなかった。

と言うのも、これはごく個人的な感受性の問題なのだが、自分の場合、ホロコーストはもちろん、虐殺や強姦といった題材に向き合うと、その被害者や被害者遺族などに感情移入してしまい、心がしんどくなるので、ノンフィクションだろうとフィクションだろうと、書物だろうと映画だろうとテレビドラマだろうと、なるべくそれらを避けるようにしている。正直、殺人事件を扱うサスペンスドラマ等も見ない。なので先日購入した「イワンの戦争」にも、ソ連兵による強姦などの記述があったので、そこはちらっと目に入れただけで飛ばしている。そして本書も、きっと読んだら辛くなるんだろうなあと思って、手を出さなかったのだ。もちろんホロコーストという事実については、人類として学ぶべきだが、こちらにも個人の事情があるし、こういったメンタルは鍛えればどうにかなるものでもないので、とりあえず知っているというレベルで勘弁してくれと。ウォーゲームの資料としても、予備警察大隊が出てきたり、ましてその行動がシミュレートされているゲームなんてまず無かったし。

しかし「TSWW:Barbarossa」では、枢軸軍警察部隊による対パルチザン戦も再現されており、さすがに本書で扱う第101警察予備大隊ユニットまでは無かったが、それが所属していたルブリン管区の警察部隊ユニットがあったので、ああ、これはちょっと目を通しておいた方がいいかなと。 

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実際「TSWW:Barbarossa」での警察部隊は、ウォーゲームのユニットとしては非常に頼りなく描かれている。戦闘効率補正(CEV)は一般部隊ユニットより低く、戦線後方に敵が突破してきた等の緊急事態でない限り、一般部隊ユニットには隣接できないし、隣接しても戦闘ダイスには不利な修整がつく。つまり戦闘部隊としては、完全に足手まとい。また、一般的に言うZOCも無いが、対パルチザン専用のZOCだけ持ち、強い敵には弱く、弱い敵には強いという描かれ方だ。またSS警察部隊のほとんどが、カッコ付きの戦闘力……つまり攻撃はできず、防御しかできないため、ただ単に守備位置に配置され、施設を襲撃に来たパルチザンに対して不利なダイス修整を与える、という受け身の任務しかできない。そういう意味では、単なるお留守番部隊としてしか表現されていないし、ゲーム上、残虐行為を働くわけでもない。

とは言え、その警察部隊が史実上、お留守番中に何もしていなかったワケではなく、そこが本書で克明に分析されている。「TSWW:Barbarossa」の戦闘序列でも、この手の警察部隊については、しつこいほどに『この部隊は最終解決に関与し……』と注釈が入っているし、単なるネタユニットとしてではなく、かなり教育的に扱っていると思う。

なにしろ「TSWW:Barbarossa」のようなビッグゲームになると、保安部隊専従プレイヤーを割り当ててプレイすることも可能だが、もしその任務を割り当てられたら『くそっ、パルチザンの奴ら、面倒だな。早く増援でカミンスキー部隊(周囲2ヘクスの対パルチザンゾーンを持つ)来ないかな』と思うかもしれない。また逆に、前線で装甲部隊を扱うプレイヤーからすれば『後方の面倒な汚れ仕事は、保安部隊に任せておけ。俺たちには関係無いし、何があったかは知らない』と思うかもしれない。そういった職務的心情を、ウォーゲーム・プレイヤーとして担当することで垣間見ることも、教育的ではないだろうか。