Wargaming Esoterica

After Action Reports & Reviews of Simulation War Games ほぼ引退した蔵書系ウォーゲーマーの日記

【Advanced Squad Leader】「A Bridge Too Far」

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1999年にMMPから発売されたASL(Advanced Squad Leader)のヒストリカル・モジュール「A Bridge Too Far」(絶版)をネットオークションにて購入。2年前から、ちまちまとヒストリカル物を買い集めてきたが、恐らくこれが値上がり度でいうと最難関。今までも出品があるたびに入札はしたものの、腰が引けて撤退してきたし、今回も3万円台で買えればなあと思いつつ、やはりそんな甘い値段にはならず、結局4万円台後半で落札した。それでも、海外オークションだと送料込み7~8万円は普通にするので、まだ安く買えた方。だったら当時、定価で買っておけよとも思うが、買い逃したモノに限って値上がりするのが世の常である。なぜそんなに高額になっているかは、これからご紹介。 

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本作のお題は「遠すぎた橋」という映画そのまんまのタイトルを見ても分かるように、1944年9月、マーケットガーデン作戦の最終目的地としてアルンヘム市を占拠したイギリス第1空挺師団フロスト大隊と、それを奪回せんとするドイツ軍SS部隊との市街戦である。マップは1枚。写真右下の見切れている部分がアルンヘム道路橋。シナリオは9本、キャンペーンゲームは3本という構成である。

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カウンターは、1/2サイズが1040個(シート4枚)、5/8サイズが528個(シート3.5枚)。イギリス軍は、6-4-8空挺分隊などが追加され、フロスト中佐(10-2)、マケイ大尉(10-2)等、実在の指揮官カウンターも入っている。対するドイツ軍も、6-5-8SS(武装親衛隊)分隊等が追加されている。まあ、そこまではいい。 

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問題はこれ。本作が中古市場で高騰している原因。黒地に白抜きのSS(武装親衛隊)カウンター。これが1/2カウンターシート2枚、5/8カウンターシートほぼ3枚分入っている。ぶっちゃけ、この「A Bridge Too Far」は、その実、黒いSSカウンターセットでもあるのだ。

そもそも元をたどれば「Squad Leader」の続編「Cross of Iron」でSS部隊カウンターが登場した時も、このような黒地に白ユニットだった。しかし同じくアバロンヒルのカードゲーム「Up Front」のボックスに、デカデカとSS兵の顔が描かれた際、『SSをカッコ良く描くのはケシカらん』という声があったらしく、ASLに移行した時、SSも国防軍と同様に、水色のカウンターに変更されてしまった。まあ、政治的正しさ(ポリティカル・コレクトネス)から言えばそれが正しい措置なのだろうし、今でも、あえてSS部隊を黒くしていないウォーゲームは多々ある。

ところが1999年、この「A Bridge Too Far」が発売される前に、サード・パーティのHeat of Battleが『やっぱりSSは黒じゃないと雰囲気でねーよな』とばかりに、自前で黒いSSカウンターセットを発売。自分も当時これを買ったが、たしかにカウンターの出来も良かったし、今でもこの黒SSカウンターを使っている。しかし商売的にも社会正義的にもアウトだったため、今ではカウンター無しで、シナリオカードだけとして販売されている。

そして本家MMPも怒ったのか『だったら、うちからも黒いSSカウンター出してやるよ』とばかりに、なぜかこの「A Bridge Too Far」に黒いSSカウンターを満載して発売したという流れ。この時期は、Critical HitもいったんASLから撤退して「Advanced Tobruk」に乗り替えるなど、MMPとサード・パーティがバチバチに火花を散らしていた時期であり、その最大の副産物が「A Bridge Too Far」とも言える。そして黒いSSカウンターが入っているからなのか、本家MMPでも発売後20年経っても再版はされていないし、再版されるとしても、また黒いSSカウンターが再録されるとは限らない。もちろん独立したSSセットの企画も無い。そういったさまざまな意味で、値上がりしているのが本作なのだ。

まあ、自分の場合、先にHeat of Battleのカウンターを入手・使用しているので、わざわざ本作のカウンターは切り離さないと思う。ある意味もったいないし、いつかこの状態のまま、誰かに譲るのだろう。またHoB版の指揮官カウンターには名前が入っているが、 本作のSS指揮官には名前が入っていないという淋しさもある。

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ちなみにこの1999年には、Critical Hitからもアルンヘム戦を扱った「Arnhem:The Third Bridge」が発売されている。そう、当時、Heat of BattleからSS黒カウンターセットを買い、Critical Hitのアルンヘムを買ったので、本家「A Bridge Too Far」は買わなくていいやという判断をしたのだが、今から思うと、いやそこは本家なんだから買っておけよと。実はこの「Arnhem:The Third Bridge」も、本来は1990年代半ばにアバロンヒルに持ち込まれたものの、当時アバロンヒルの経営が傾いていたので、発売のOKが出なかったという曰く付きの企画なのだ。

そしてこの「Arnhem:The Third Bridge」の地図盤を見ると、「A Bridge Too Far」よりも道路橋とライン河が大きく描かれており、通りにも名前が記され、ビスケット工場やら税務署やらの建物名まで書き込んであるので「A Bridge Too Far」の(通り名も建物名も書いていない)地図盤より、眺めて楽しいのは事実。ただ、海外ASLサイトの評を見ると、建物の描き方が甘く、LOS判定がしにくいんだとか。また現在Critical Hitから、改訂第6版まで出ているそうで、恐らくこれから先も再版が続くのだろうが、それを追いかける気力は無い…… 

とにかくこの「A Bridge Too Far」は、ASLというウォーゲームの、政治的な呪いと、ビジネス的な呪いが魔合体して生まれたような作品でもあり、今後はこのような作品が出ないことを祈るのみ。とりあえず自分としても、アルンヘム戦のヒストリカル・シナリオさえ遊べればそれでOKと。