Wargaming Esoterica

After Action Reports & Reviews of Simulation War Games ほぼ引退した蔵書系ウォーゲーマーの日記

【参考文献】Bair Irincheev「War of the White Death」

War of the White Death: Finland Against the Soviet Union 1939-40 (The Stackpole Military History Series)

War of the White Death: Finland Against the Soviet Union 1939-40 (The Stackpole Military History Series)

 

半年以上前に、Amazonにて1939-40年の冬戦争(ソ・フィン戦争)を扱った「War of the White Death」(Stackpole Military History Series)を購入。もちろん 「TSWW : Hakkaa Päälle」の参考書にと思い、ちまちま読み進めてきた。原書は、2011年発行と比較的新しい。

本書の特徴は、1991年のソ連崩壊後に世に出てきた資料を基に、冬戦争を分析している点。1941年以降の独ソ戦史も、ソ連側の新資料を加味して書き換えられつつあるが、日本で出版されている冬戦争の本も「冬戦争の戦車戦」以外は、ほとんどがフィンランド側視点中心なので、非常に興味深く読んだ。内容は、基本的に陸戦中心で、戦闘描写も結構細かい。そういう意味では、作戦レベルのTSWWよりも、戦術レベルの冬戦争ウォーゲーム「Red Winter」「TCS:A Frozen Hell」あたりの参考書になりそうだ。

本書でまず興味深かったのは、冬戦争に従軍したソ連軍兵士たちが、故郷に送った手紙を検閲した記録。ソ連側は、その手紙の内容がポジティヴかネガティヴかまで記録しているが、序盤の苦戦にも関わらず、肯定的な内容が多い。しかしそれは、そもそも検閲があると知って否定的な内容を書かなかったのか、それとも故郷の家族や恋人を心配させまいとして肯定的な手紙を書いたのか、想像するのも面白い。

また、スオムッサルミの戦闘で大敗を喫した、ソ連第9軍の前線指揮官や政治将校たちは数多く処刑されているが、肝心の第9軍司令官チュイコフは、責任を問われていない。しかしチュイコフは、冬戦争後、中華民国に軍事顧問として派遣されているが、これは一種の懲罰的左遷だったのだろうか。そういや「独ソ開戦の真実」には、対フィンランド戦争戦訓検討会議で、スターリンに詰問されるチュイコフの発言が載っていたなあ。

チュイコフが、1941年6月にドイツ軍がソ連に攻め込んで来ても、ずっと呼び戻されなかったのは、ソ連の中央指導部から捨て忘れられていたからだろうか。そう考えると、1942年9月に、チュイコフがスターリングラードを守る第62軍司令官に抜擢された際、フルシチョフ政治委員から『貴官の任務をどう見るかね?』と問われ『スターリングラードを守り抜くか、それで死ぬかでしょうね』と答えたのも、自分は一度スオムッサルミで失敗していて、それでも処刑されなかったのだから、スターリングラードでその責任を取る、という意味だったのだろうか。本書ではチュイコフが、自伝の中で一言もスオムッサルミの戦いに言及していないことも挙げているが、そう考えると、スターリングラード着任時のセリフも印象が変わってくるなあと。

まあ、そういった細かい兵士・指揮官の心理含めて、冬戦争のソ連軍を学ぶには良い一冊かと。