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After Action Reports & Reviews of Simulation War Games ほぼ引退した蔵書系ウォーゲーマーの日記

【The Second World War】「TSWW : Day of Infamy」Climb Mt.Niitaka Solo-Play AAR Part.1

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「TSWW:Day of Infamy」の導入シナリオA「Climb Mt.Niitaka(ニイタカヤマノボレ)」をVASSALにてソロプレイ開始。タイトル通り、日本軍機動部隊による、真珠湾への奇襲攻撃を扱うシナリオである。プレイ自体は、日本軍による空襲から始まるが、シナリオの説明には『日本軍機動部隊が、どのようにしてハワイ近海まで到達したか』も書かれていたので、そのあたりから(ルール確認の意味も含めて)見ていこう。

まずTSWWシステムは、1ターン内に両軍4回ずつ海上移動セグメントがある。先攻ターンの移動フェイズ、先攻ターンの突破フェイズ、後攻ターンの移動フェイズ、後攻ターンの突破フェイズで4回移動する機会があるということ。1ターン=半月なので、1海上移動セグメント=3.8日だそうな。

そのため日本の機動部隊は、史実通り、1941年11月後半ターンの第4(最終)海上移動セグメントに単冠湾を出航し、続く12月前半ターンの第1・第2海上移動セグメントを費やして、真珠湾を攻撃距離に収める位置まで移動してきたことになる。史実でも、日本軍機動部隊は、攻撃地点まで11日間かけて到達しているので、3.8日✕3=11.4日というのは、妥当なスケールだなと。

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ここで日本軍機動部隊を見てみると、空母6隻を含むうえ、すべて戦術速度7(カウンター右下の数値)以上の主力艦・大型艦船・駆逐艦のみで構成されているため、海上任務グループの種別としては「高速空母戦闘グループ」となり、各海上移動セグメント毎に21海上移動ポイントが得られる。簡単に言うと、最初の画像にあった戦略地図上で21ヘクス=21海上ゾーン進めるということ。

しかし各艦船には、個別に戦略移動力(SMA、カウンターには表記されていない)という能力値がある。この戦略移動力は、各艦船が1海上移動セグメントでどれだけ海上ゾーンを移動できるかを表し、その4倍まで移動したら、その艦船の燃料が枯渇する。つまり事実上、艦船は、無補給の場合、まるまる1ターン分しか洋上にいられないということだ。しかもこの戦略移動力は、戦闘・索敵・洋上補給を行った場合に追加消費されるので、そのような行動を行えば、洋上に滞在できる時間も短くなっていく。ある意味、戦略移動力は、各艦船の行動限界を示す数値でもあるわけだ。

そして今回の場合、単冠湾からハワイ近海までの往路は59海上ゾーン(シナリオには57海上ゾーンと書いてあるが)なので、単純計算すれば、機動部隊の全艦船は、往復118海上ゾーンを移動するだけの戦略移動力が必要となる。しかし空母「赤城」でも、戦略移動力は30✕4=120しかなく、これはハワイまで行って帰って来れるぎりぎりであり、戦闘行動を行うだけの余裕はほとんど無い。また軽巡阿武隈」とすべての駆逐艦の戦略移動力は21に満たないため、部隊に随伴はできるが、他の艦船より燃料消費が速くなるという現象が発生してしまう。

この燃料問題を解消するため、日本軍機動部隊は、1941年12月前半ターン第1海上セグメントを終わった時点で(つまり2回目の海上移動を終えた段階で)、油槽船団(AO)から洋上補給を受け、再び燃料を満タンにして、さらに海上移動セグメント4回分の行動力=戦略移動力を再獲得したことになっている。ちなみにこの時点では、大半の艦船の残燃料は50%だが、先に述べた軽巡阿武隈」と駆逐艦たちは、残燃料40%ほどになっているはず……

……という計算を、本来はプレイヤー自身が計画しなければならないのだ。実際この作戦計画プロセスを確認しながら『俺は黒島亀人先任参謀か!』と言いたくなったが、このような渡洋侵攻作戦を計画するには、やはり綿密な計画が必要だし、海軍とて補給に縛られるのは当たり前。まあ、恐らく地中海や北海などの、航路が短い海軍作戦であれば、ここまで大変な思いはしなくても済むはず。 

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さて補給面で黒島参謀の気分を味わったあとは、母艦航空戦力を確認して、淵田美津雄攻撃総隊長の気分を味わってみよう。機動部隊に参加している航空母艦は6隻。各艦の航空機搭載能力は、カウンター下段中央に記してある。「赤城」「加賀」「蒼龍」「飛龍」は3スコードロン、「瑞鶴」「翔鶴」は4スコードロンを搭載可能。合計20スコードロン。TSWWでは、1スコードロン=約20機だが、史実で日本軍機動部隊が有していた航空機が約360機だったので、ここでは1スコードロン=約18機と数えるべきか。

しかしシナリオを読むと、日本軍は母艦搭載能力を超越して、全26スコードロンを有している。構成は、零戦二一型(A6M2)✕9、九七式艦攻(B5N2)✕9、九九式艦爆(D3A1)✕8。全360機とすれば、1スコードロン=13.8機。各空母あたり1スコードロンずつ多いことになる。どうやらTSWWからしても、史実での真珠湾奇襲はゲームシステム上、「規格外の戦果」だったようで、本来の20スコードロンでは、史実に近い戦果が出ないのかもしれない。何はともあれ、この26スコードロンで、ハワイ攻撃を検討してみよう。 

真珠湾攻撃総隊長の回想 淵田美津雄自叙伝 (講談社文庫)

真珠湾攻撃総隊長の回想 淵田美津雄自叙伝 (講談社文庫)

 

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先に示した戦略地図を拡大すると、日本軍機動部隊は、真珠湾の北方3ヘクス=3海上ゾーンに位置している。最も航続距離の短い九九式艦爆(航続距離15)に合わせると、ここまでハワイに近づかないと攻撃できないためである。また、洋上補給を終えた日本軍の油槽船団は、北方に避退しつつある(油槽船団は、高速空母戦闘グループより足が遅いため、先に日本に向かっている)。

一方、ハワイ諸島近海には、アメリカ海軍の空母「エンタープライズ」を含むTF8が展開し、ハワイとミッドウェー島の中間には、空母「レキシントン」を擁するTF12が展開している。またこのミッドウェー島には、日本軍機動部隊の避退を援護するため、駆逐艦「漣」「潮」から成る囮部隊も接近し、潜水艦戦隊(SSF)も展開している。

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さらにハワイ近海を拡大し、通常の地図盤スケールに入ろう。ハワイ沖では、TF8の他にも、砲撃訓練中の重巡ミネアポリス」や、警戒中の駆逐艦なども海上にある。また真珠湾に隣接するヘクスには、日本軍の特殊潜航艇も待機している。 

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TSWWのゲームスケールは、1ヘクス=15マイル(24km)なので、真珠湾ヘクス(PHC3915)には、アメリカ陸軍のヒッカム飛行場や、海兵隊のエワ飛行場まで含まれる。このすべてが、真珠湾ヘクスにスタックしているわけだ。物理的にはとても無理! やはりVASSALのようなツールがないと管理できんわ……

この「ニイタカヤマノボレ」シナリオでは、お互いに艦船・航空機・海軍基地・空軍基地に与えた損害を比較して決定する。最も得点が高いのは「空母の撃沈:10VP」であり、次点が「戦艦の撃沈:5VP」「海軍基地への1ヒット:5VP」なので、日本軍が狙うのも、そのあたりか。しかし、いくら26スコードロンもあっても、8隻もの戦艦と、真珠湾という海軍基地にすべてダメージを与えるのは厳しいだろう。また真珠湾ヘクスに隣接する、アメリカ陸軍のホイーラー飛行場(P40B✕3スコードロン、P40C✕1スコードロン等)も、奇襲後のことも考えると早期に潰しておきたい。

そう、シナリオの説明でも『南雲提督は、ハワイの海軍基地を徹底的に破壊もせず、アメリカの空母を撃沈しようともせず、さっさと避退した』『そのような提督の無益な決断や、さらなる日本軍の攻撃を検証するために、このシナリオはデザインされている』とあるので、1941年12月前半ターンいっぱいは……つまり第3・第4海上移動セグメントまでは、プレイすべきなのだろう。

アメリカ軍側としても、たとえ奇襲で戦艦なり真珠湾にダメージを被っても、日本軍の空母1隻を撃沈して、勝利得点差を詰めたいところだが、ハワイ駐留のアメリカ軍航空機には、対艦能力がほとんど無く、空母「エンタープライズ」「レキシントン」による索敵や攻撃もかなり厳しそうに思える……というあたりで、ソロプレイ開始。

ちなみにこれ、あくまで導入シナリオである!(Blogじゃなくて論文を書いている気分)