- 作者: David M. Glantz,Jonathan M. House
- 出版社/メーカー: Univ Pr of Kansas
- 発売日: 2009/05/21
- メディア: ハードカバー
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「詳解・独ソ戦全史」の著者D.M.GlantzとJ.M.Houseの新刊、スターリングラード3部作・第1巻「To the Gates of Stalingrad」を購入した。ハードカバー版、678ページ、厚さ5センチを超える大著。カンサス大学出版のModern War Studiesの一冊……という事は「詳解・独ソ戦全史=When Titans Clashed」と同シリーズである。しかし結局このシリーズ、3巻では収まりきらなかったというオチが……
サブタイトルは「Soviet-German Combat Operations, April-August 1942」。とりあえず各章の見出しだけ訳してみると……
第1章「国防軍」当時の戦略状況、青作戦計画、部隊配置、指揮官など。
第2章「赤軍」同じく戦略状況、ハリコフ計画、部隊配置、指揮官など。
第3章「準備段階」野雁狩り作戦、第二次ハリコフ戦、セバストポリ戦など。
第4章「青作戦第1段階」ドイツ軍のボロネジ進撃、第5戦車軍の反撃など。
第5章「青作戦第2段階」ミレロヴォ包囲、ロストフ戦、総統訓令第45号など。
第6章「ドン川湾曲部への前進」第6軍のドン川進撃、一歩も退くな!など。
第7章「ドン川湾曲部の終末」第4装甲軍のアブガネロヴォへの進撃など。
第8章「ヴォルガ川への進撃」B軍集団の攻勢計画、ヴォルガ回廊戦など。
第9章「側面での戦闘」エーデルワイス作戦、A軍集団のコーカサス進撃など。
第10章「ドイツ軍の戦略的誤認」
本文に続いて注釈約90ページ、索引約50ページ付き。非常に分厚い本だが、地図87枚、表23枚も挿入されてるし、まあまあ読みやすい方かと思う。
前文によると、これまでに出版されたチュイコフ、ゲルリッツ、カレル等の著作は、個人の回想に頼っているためかミスも多く、そのため本書では、近年明らかにされた両軍の戦闘記録を照合し、スターリングラード戦史の完璧な決定版を目指したとのこと。他の戦史書では省略されがちな部分も詳解されているが、むしろ戦況の背後にあった両軍の心理、決断が興味深い。
たとえばこれまでの一般的な青作戦のイメージでは、ドイツ軍が進撃を始めると、すぐにソ連軍も撤退を始めた印象だったが、実際のスターリンは、戦役初期において積極的な反撃を命令しており、第5戦車軍の敗北によって方針を転換し、後退戦略に切り替えたと。この反撃失敗だけでなく、それに先立つ第二次ハリコフ戦、クリミア失陥と、ソ連軍は失態を重ね、自分たちの稚拙さを思い知る一方、生き残った指揮官たちは、敗北から多くを学んで成長していく。
逆にドイツ軍は、輝かしい戦術的勝利を重ねるも、そもそも青作戦自体、目標が遠すぎ、敵が多すぎ、補給が少なすぎるという、前年のバルバロッサ作戦と同じ轍を踏んでいたのが実態だそうで、モスクワでの敗退から何も学んでいないのでは?と思える。得てして勝者より敗者の方が多くを学べると言うが、青作戦こそ、ドイツ軍が学ばず、ソ連軍が学んだ戦いだったかも。
もしこの実相をウォーゲームに反映させるなら、ソ連軍ユニットはただ単に除去→復活を繰り返すだけでなく、よりドラスティックに、強力なユニットに置き代わって再登場するのだろうか。しかし「負けると強くなる」ってルールだと自殺攻撃プレイが横行するだろうし、「一定の時期が過ぎると強くなる」ってのも少し違うか。難しいなー。