Wargaming Esoterica

After Action Reports & Reviews of Simulation War Games ほぼ引退した蔵書系ウォーゲーマーの日記

【参考文献】「幻の東部戦線 第二次大戦後のドイツ再軍備と冷戦」

幻の東部戦線 ([バラエティ])

幻の東部戦線 ([バラエティ])

  • 作者:古峰 文三
  • 発売日: 2020/12/28
  • メディア: 雑誌
 

月刊PANZER誌2017年3月号~2019年7月号に掲載されていたという連載「幻の東部戦線」がまとめてムック化されたので購入。恥ずかしながらPANZER誌は普段、立ち読みもしていないので、そんな連載があったことすら知らなかったが、こうしてまとめて読んでみると、第二次大戦後のヨーロッパでの東西対立が、西ドイツの再軍備を中心に概説されていて、非常に勉強になる。

最近も「SCS:Iron Curtain」という、1950~1980年代を想定した第三次世界大戦ウォーゲームが出版されたが、いまだにこの仮想テーマは(特に冷戦時代を知っている世代にとっては)人気がある。本書ではその背景として、旧ドイツ軍人たちの復権リデルハートの関与や、朝鮮戦争ベトナム戦争中東戦争の戦訓を活かしての東西ドクトリンの変遷などが記されていて興味深い。個人的には、子供の頃に雑誌などで見かけたカノーネ突撃砲が誕生した背景にそんないきさつがあったのかと思ったり。まあ、自分も、この東西冷戦時代に戦車プラモデルからウォーゲーム趣味に入った一人なので、やはりこの時代には特別な思い入れが残っているようだ。 

冷戦 ワールド・ヒストリー(上)

冷戦 ワールド・ヒストリー(上)

 
冷戦 ワールド・ヒストリー(下)

冷戦 ワールド・ヒストリー(下)

 

 

「Stalingrad'42」Operation Uranus Solo-Play AAR

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Merry Christmas! 年末年始のソロプレイ・シリーズとして、次は「TSWW:Barbarossa」の天王星(ウラヌス)作戦シナリオでもと思ったが、よく考えたら、それより前に購入したGMT「Stalingrad'42」の天王星作戦シナリオに触れていなかった。ややこしいTSWWを始める前に、それよりは簡単なシモニッチ御大の「Stalingrad'42」からということで。 

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しかし、さらによく考えると、天王星作戦そのものを切り取った作戦級ゲームやシナリオにも、あまり触れたことがない。自分が所有している「OCS:Enemy at the Gates」「OCS:Case Blue」にも、この1942年末のソ連軍の冬季反攻⇨スターリングラード包囲に至る戦いは含まれているが、なにせOCSのそれは規模がデカ過ぎて、我が家ではプレイ不可。VASSALならプレイ可能だが、まだ未踏峰になっている。 

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シナリオは、まず第1(1942年11月12~19日)ターンのソ連軍フェイズから。この第1ターンに、ソ連軍は戦術移動(2ヘクスまで)と鉄道移動しかできない。今回は、プレイブックに載っていた第1ターンのプレイ例を見つつ、ルールを思い出しながら進めてみた。スターリングラード北西では、早くもソ連第5戦車軍が、脆弱なルーマニア軍戦線を突破し、ドイツ第6軍の背後に進出した。 

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スターリングラード南部でも、ソ連軍は同じくルーマニア軍戦線を食い破り、早くもドイツ第4装甲軍司令部に達している。プレイ例を読むと、この第4装甲軍司令部が枢軸軍反撃の鍵になるそうで、さっさと脱出させた方が良いそうだが、あいにくこの後…… 

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手番代わって、第1ターン裏の枢軸軍。ここでの枢軸軍も、交代ターン(ルール33.2.3)という、限定された移動と戦闘しか行えなくなっている。それでも一応、前線から部隊を後退させ、包囲網から脱するための機動反撃戦力を捻出。このあたり、ちまちまとした戦線整理に追われた。 

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続く第2(1942年11月20~23日)ターン。先手ソ連軍は、ドイツ第6軍、第4装甲軍を一網打尽にしようと、南北から迫った。しかしソ連軍の増援部隊は北から来るばかりで、南方が手薄になっている。北から徐々に南に部隊を押し下げていくイメージがあった方が良いのかもしれない。 

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第2ターン裏の枢軸軍。包囲されてたまるかと、ドイツ軍装甲師団が内側からの突破攻撃に出た。しかし最初から損耗している師団が多く、ソ連軍を後退させるだけで、損失を与えられない。一応、まだかろうじて外部との補給線はつながっている。 

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第3(1942年11月24日~28日)ターン。先手ソ連軍は、北から戦力を押し下げ、脱出しようとしたドイツ第29装甲擲弾兵師団を包囲して除去。そのまま再び包囲網を閉じた。しかし相変わらず、南部の包囲が薄い。この後、枢軸軍ターンとなり、増援のマンシュタイン将軍(断固とした防御と、交戦離脱のダイス振り直し可)と第6装甲師団が登場して解囲作戦が始まるが、今回は味見なのでソロプレイもここまで。12月になれば、イタリア第8軍を狙った小土星作戦も始まるが、そちらも割愛。

とりあえず枢軸軍としては、ルーマニア軍戦線が呆気なくやられてしまうので、がっぷり四つに組んだ戦線から、どうやって機動戦力を引き抜くかが大事かなあと。ソ連軍からすれば、北を主攻、南を助攻とし、徐々に戦力を南にシフトしていくことを念頭に置いた方が良いかも……という感触。でも小土星作戦も始まったら、また戦略配分も変わってくるのだろう。まあ、この程度の練習ソロプレイでも、軽く一度触れておくと、本番の対戦にも役立つので。ただ、青作戦シナリオとどっちをプレイしたいかと言われると、個人的には、豪快な機動戦の青作戦かなと。いやでも小土星作戦まで含めてやるなら、こちらの方が面白いのかな。そのあたりはいずれまた……

【The Second World War】「TSWW:Day of Infamy」Operation MI Solo-Play AAR Part.2

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では、TSWWミッドウェー作戦シナリオ、ソロプレイ開始。

1942年6月前半ターン、先手は日本軍。まず移動フェイズ=第1海上移動セグメント。空母4隻を擁する第1機動部隊は、アメリカ軍空母を撃滅すべく、ミッドウェー島を素通りし、米空母部隊がいると思われる海域へ進出した。日本軍はこの移動中に、筑摩・利根から零式水偵を発艦させ、まずTF16(空母エンタープライズとホーネット)に対して索敵を行った。やはり空母2隻を擁するTF16は危険だし、先制攻撃をかけて潰してしまった方が後々の作戦がやりやすい。しかしこの索敵が失敗。1海上移動セグメント中には、1目標に対して1回しか索敵が行えないので、これにてTF16への先制攻撃の夢は潰えた。ならばと第1機動部隊はさらに北上し、TF17(空母ヨークタウン)にも索敵を行い、こちらは発見に成功した。

ここまでで、第1機動部隊は16海上ゾーンを移動し、戦略移動力を16消費している。さらに2回の索敵を行ったため+2消費、攻撃隊を発艦させるためさらに+1消費、合計19戦略移動力を消費した。

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第1機動部隊の艦載機は、CAPと水偵を残して全機、TF17=空母ヨークタウン隊に向けて発艦。索敵チェックに続いて、敵艦隊発見チェックにも成功した(失敗すると、索敵に成功していても、敵艦隊を見つけられず帰投しなければならない)。

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日本軍攻撃隊は、まず空母を潰すべく、空母ヨークタウンに99艦爆✕2、97艦攻✕2、重巡アストリアとポートランドにそれぞれ99艦爆✕1、97艦攻✕1を割り当てた。米軍CAPのF4F-4戦闘機は、空母ヨークタウンを狙う艦攻隊を攻撃し、これを1個撃墜。しかしこのCAPは、護衛の零戦3個から攻撃を食らって、こちらも撃墜。さらに艦隊の対空射撃(総対空力13)が行われたが、空母ヨークタウンに迫る艦爆隊を1個帰還させただけで、ステップロスは与えられなかった。帰還した艦爆隊にしても、爆撃力の75%は投下している。

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99艦爆は、作戦爆撃力2だが、急降下爆撃機(タイプD)による作戦爆撃任務は爆撃力+50%となるため、作戦爆撃力3として攻撃する。97艦攻も、コードCV(艦載機・魚雷装備)のため魚雷力3を持つ。つまり、それぞれ3回ずつ命中判定を行う。結果、空母ヨークタウンには、99艦爆隊が3ヒットを与え、97艦攻隊が2ヒットを与えた。空母ヨークタウンの防御力は6なので、ヒットポイントは4。許容量を上回るダメージを受け、ヨークタウン沈没。史実での空母ヨークタウンは、ミッドウェー戦の最後に撃沈されたが、ここでは最初に喪失されることとなった。しかし重巡アストリアへの攻撃は、6回ともすべて失敗。これはダイス目がヒドかった。重巡ポートランドへも、艦爆隊が1ヒットを与えたのみ。ポートランドの防御力は5なので、ヒットポイントは3。耐久力1/3を失って中破、というところだろうか。

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手番代わって、第1海上移動セグメントのアメリカ軍の移動。空母ヨークタウンを失ったTF17は、損傷した重巡ポートランドをハワイ方面に避退させ、それ以外はTF16に合流。アメリカ軍は、艦艇の対空力を合算できるので(日本軍はできない)、防空能力を高めて日本軍の航空攻撃を迎え撃つ準備と。ミッドウェー島からはPBY5カタリナ飛行艇0.5ユニット✕3が海上偵察任務に発進したが、これがすべて日本軍第1機動部隊の索敵に失敗。さらにTF16自らも、日本軍の索敵に向かったが、これにも失敗。仕方なくTF16は、ミッドウェー島方面に移動した。次の第2海上移動セグメントでは、また日本軍が先手となって攻めてくるため、ミッドウェー島の航空戦力と、周辺海域で哨戒中の潜水艦戦隊も活用しやすい位置に移った形だ。逆に日本軍からすれば、この位置のTF16に攻撃を仕掛けるのは危険と……

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続いて第2海上移動セグメント。先手日本軍は、第1機動部隊をミッドウェー島に接近させ、TF16の索敵を試みたが失敗。そのまま島周辺にいると、島の航空戦力にも攻撃されてしまうので、いったん北方へと避退した。

代わって第2海上移動セグメントのアメリカ軍。ようやくミッドウェー島のPBY5が、日本軍第1機動部隊を発見。TF16もその海域に接近し、攻撃隊を発艦させたところ、敵艦隊発見チェックにも成功。いよいよアメリカ軍攻撃隊が、日本軍空母に襲いかかった。

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アメリカ軍は、まず耐久力の低い空母蒼龍・飛龍を潰そうと、TBD、SBDを0.5ユニットずつ割り当て、空母赤城・加賀にはSBDのみを割り当てた。これに対して、CAPに就いていた零戦0.5✕2ユニットが迎撃し、飛龍に向かっていたTBD隊を撃墜。しかしそのCAP隊も、護衛に就いていたF4F-4✕3との空戦で2個とも撃墜された。第1機動部隊は対空火力でも応戦したが、日本軍の場合、輪形陣などを取れ入れていないため、艦隊の全艦船の対空力を合算するのではなく、主力艦1+巡洋艦1+駆逐艦1の対空力だけを用いる。そのため4(空母加賀)+2(利根)+1(野分)=6対空力のみ。これはまったくアメリカ軍側に被害を与えられず、そのまま攻撃と相成った。

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攻撃の結果、空母赤城に3ヒット(防御力7=ヒットポイント5なので中破)、空母加賀に4ヒット(同じくヒットポイント5なので大破)、空母蒼龍は3ヒット(防御力5はヒットポイント3)なので撃沈、空母飛龍は2ヒット(同じくヒットポイント3なので大破)となった。赤城と加賀には、クリティカルヒット(判定時に10面体ダイスを振って10が出る)も出たため、攻撃隊の規模に反して甚大な損害を被ってしまった。また空母は、1ヒットを被るたびに、艦載機1スコードロン(0.5ユニット)を失う判定を行うが、これによってその艦載航空隊がほぼ全滅してしまった。

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さらにミッドウェー島から、アメリ海兵隊のSBD-2、SBD-4、アメリカ空軍のB17Eが追い打ちをかけるように攻撃。SBDは、その通常航続距離外にあったので、延長距離飛行を行い、爆撃力は半減している。しかしこのSBD隊が、弱った空母赤城と加賀にトドメを刺し、これを撃沈。B17Eの攻撃は失敗したため、空母飛龍だけが、ぎりぎり首の皮一枚残して生き残った。

史実ならこの後、猛将山口多聞指揮の下、空母飛龍が一矢報いる攻撃を行うのだが、あいにく飛龍にも艦載機が残っていない。ここで「たとえシナリオでもキャンペーンゲームのようにプレイすべし」という格言に従うなら、日本軍としては速やかに撤収し、せめて空母飛龍だけでも修理して再起を期す……という感じだろうか。 

というワケで、適当にソロプレイした割には、かなり史実に近い結果(日本側空母3喪失、アメリカ側空母1喪失)になったと思う。タラレバ的に振り返るなら、第1海上移動セグメントで、日本軍がTF16への索敵・先制攻撃に成功していれば、その後の展開もまったく違っていたと思う。ただ、TSWWでは、日本軍の艦隊防空能力が低く設定されているので、キャンペーンゲーム等をやっていれば、いずれどこかで空母隊を喪失するような攻撃を喰らうのだろう。TSWWでは、目標以外の艦艇が被害を引き受けることはできないし、狙われた艦だけが攻撃を被るため、当然のように空母が狙われ、いずれやられると。それはもう身もフタもない展開なのだが、航空攻撃とか潜水艦攻撃ってそういうものよね?

【The Second World War】「TSWW:Day of Infamy」Operation MI Solo-Play AAR Part.1

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ようやく年内の仕事も終わったので、年末年始のソロプレイ期間に突入。この時期に、やっつけておきたいタイトルやシナリオをいくつか遊んでおこうと。

というワケで最初に選んだのは「TSWW:Day of Infamy」のミッドウェー作戦シナリオ「Operation MI」。今年は、ミッドウェー戦を扱った映画も上映されたので(未見なので評価は知らん)、それに合わせて今年夏頃にプレイしたかったのだが、結局この年末までズレこんでしまった。まあ、昨年末も「TSWW:Day of Infamy」のウェーク島シナリオをソロっていたので、1年に1本ずつシナリオを消化していくというのも良いかもしれない。

シナリオ自体は、もちろんミッドウェー島に対する日本軍の攻略作戦がテーマなのだが、勝利ポイントは、撃沈した艦船によってのみ獲得できる。つまり史実の日本軍が感じた『島の攻略と、敵艦隊の撃滅、どちらを優先するか』で悩む必要はない。敵艦隊の撃滅を優先すればいいのだ。まあ、このシナリオもあくまで空母戦の練習用シナリオなので、それで良いのだろう。

日本軍としては、まず1942年6月前半ターンの第1海上移動セグメントに、空母4隻を擁する第1機動部隊が地図盤北端から進入し、ターン最後の第4海上移動セグメントまで第1機動部隊が洋上にあるなら(無事なら)、戦艦大和を中心とする主力部隊や上陸部隊を乗せた攻略部隊が登場する。なので、1942年6月前半ターンの、日米双方、4回ずつの海上移動セグメントでどこまで戦えるかを競うシナリオだと思う。 

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なので日本軍としては、第1機動部隊がどこまで戦えるかにかかっているし、その戦いぶりによっては、主力部隊・攻略部隊の出番が無く、シナリオ終了となるだろう。その陣容は史実通り、空母4隻、戦艦2隻、航空(水上機)巡洋艦2隻、軽巡1隻、駆逐艦11隻となっている。駆逐艦・秋雲は、油槽船の護衛に就き、機動部隊からは離れている。
航空戦力は、航空巡洋艦・筑摩と利根を合わせて零式水偵0.5ステップを有し、さらに4隻の空母それぞれに零戦0.5ステップ、97艦攻0.5ステップ、99艦爆0.5ステップとなっているが、ミッドウェー島を占領した後、島に揚陸するはずだった予備の零戦0.5ステップもあり、これも通常通り、作戦が行える。ただしこの5個目の零戦を使うには、4隻の空母すべてが生存していることが条件であり、どれか1隻でも空母が沈んだら、5個目の零戦は失われてしまう。

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対するアメリカ軍は、空母エンタープライズとホーネットを擁するTF16と、空母ヨークタウンを擁するTF17に分かれている。こちらのTF16でも、予備のF4F4戦闘機が0.5ステップあり、やはり2隻の空母どちらかが沈んだら使用不可となる。

他にもアメリカ軍側には、ミッドウェー島の航空戦力や潜水艦隊があり、シナリオ配置にはハワイ方面の戦力も含まれているが、まあ、割愛していいかなと。

ちなみにこの「Operation MI」には、日米双方に仮想オプション設定が用意されている。たとえば「空母ワスプの投入」「空母瑞鶴の投入」「AL(アリューシャン)作戦のキャンセルによる戦力の転用」は、まあ理解できるが、中には「ミッドウェー島ではなくハワイ諸島への上陸」という仮想設定もある。とりあえず今回はオプション無しの、素のシナリオを試してみようと思う。ではソロプレイ開始……

【ご寄贈先、募集中】RAND Corporation「Hedgemony」

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※War-Gamers Advent Calendar 2020 参加企画

アメリカのシンクタンクランド研究所が始めて一般販売したゲーム「Hedgemony」を注文してみた。本体280ドル+送料30ドルとなかなかのお値段。タイトルは「Hegemony(覇権)」と「Hedge(損失防止)」をかけたもので、販売元も『これはウォーゲームではない、戦略ゲームだ』と言っているが、21世紀の安全保障や戦争を扱ったゲームなので、広義の意味ではウォーゲームなのだろう。ちなみにランド研究所については、文春文庫から出ている「ランド 世界を支配した研究所」で簡単にその歴史と内情が読めるが、あいにく品切れ。しかしピーター・パーラの「無血戦争」でも触れられているように、ランド研究所では1950年代からヘクスと戦闘解決表を用いて戦争シミュレーションを行っており、そういう意味でも、ウォーゲームとのつながりは長いと言える。

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まず65ページのルールブック、20ページのプレイヤーズガイド、15ページの用語と略語リストが付いているが、これがサイズ的に箱に入らない。どうやらランド研究所も、一般ボードゲーム製作のノウハウは持っていないようだ(^_^;) 

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さてこの「Hedgemony」、一般販売ゲームとは言うものの、基本的にはアメリカの国防のプロフェッショナル(国防総省の官僚、軍人、戦略アナリスト)向けの教育ツールである。このゲームの中心となるのは、アメリカ担当……正確にはアメリカ国防総省(DoD:Department of Defense)担当プレイヤーたち(3人程度)であり、その同盟としてNATO/EUプレイヤーが必要となり、これが青(Blue)チームと呼ばれる。

それに対する赤(Red)チームは、ロシア(RU)、中国(PRC)、北朝鮮(DPRK)、イラン(Iran)プレイヤーから構成される。つまりすべて核兵器を所有している諸国。国際的な安全保障ゲーム上では、核兵器を持っていなければ、味方としても頼りにならないし、敵としても脅威に思われないという現実がここにある。

さらにゲームマスター兼ルールアドバイザーとなるファシリテイターたち(5人)による白(White Cell)チームも必要であり、ゲーム管理のためにノートPCとプロジェクター・スクリーンが要る。そのため、人数を集めるだけでも大変だし、各プレイヤーに安全保障的な教養が求められるという意味でも、各員がゲームルールを理解しておくという意味でも、かなりハードルが高いゲームになっている。

さらに言うと、このゲームは、アメリカ国防総省プレイヤーたちが主役となり、NATO/EUはその相棒として、赤チームはその仇役として国際的緊張のやり取りをすることになる。そのため、一般的なボードゲームのように各国が独立した立場で勝利点数を競い合うのとも違うし、どちらかと言えばロールプレイングゲーム的に、各国がその立場と戦略から協力したり干渉しつつ勝利を目指し、アメリカはそれに対してどのように対応すればいいのかを学ぶゲームになっている。そういう意味では、一般的に言うところの「ゲーム」とは呼べないかもしれないし、安全保障の机上演習ツールのようにも思える。

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ハードボード製の地図盤には世界地図が描かれ、アメリカの国防上の区分(Command)でエリア分けされている。また、アメリカ、NATO/EU、ロシア、中国、北朝鮮、イランプレイヤー用に、それぞれ手元を隠す、ついたて式のボードが用意されている。 

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ついたての裏側には、各国の勝利条件、定番シナリオ開始時の資源(Resource)ポイントや軍事力、他プレイヤーの勝利条件等々が書かれている。また各国毎に管理シートが用意され、自国の軍事技術レベル、即応性(Readiness)、C4ISR(指揮・統制・通信・コンピュータ・情報・警戒・偵察)レベル、IAMD(統合的航空ミサイル防衛)レベル、特殊作戦レベル、長距離射程ミサイルレベル等を記録できるようになっている。

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こちらが各国の軍事部隊を表すカウンター。陸軍や海軍といった区別は無く、抽象的な戦力として表されている。各カウンターには、その部隊の規模(Capacity)を意味する部隊戦力(Force Factor)と、近代化(Modernization)レベルが記されている。このゲームでは『軍隊の規模 Capacityと伸びしろ Capabilityは違う』としており、部隊戦力が小さくても、近代化レベルが高ければ、高い戦闘能力を発揮できるようになっている。逆に、部隊規模が大きくても、近代化されていなければ……ということ。

近代化レベルは最高で7だが、たとえば定番シナリオの開始時には、アメリカは近代化レベル3の部隊を20個、世界各地に配置しているが、中国は近代化レベル3✕5個、レベル2✕5個、レベル1✕5個となっている。北朝鮮は、近代化レベル1✕10個のみ。ただしこの近代化レベルは、資源コストを消費することによって、後々上げることが可能であり、その管理もまたこのゲームの要素になっている。

ちなみにこのカウンターは、レーザーカットされており、その切断面が焼け焦げた?のか、触っただけで手が真っ黒になるほど汚れている。自分は、汗拭き用のフェイシャルペーパーで汚れを拭き取ったが、取扱いには注意するように。もっと良いカウンター製造会社あるだろうに……(^_^;) 

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部隊戦力(Force Factor)を左右するのは、近代化(Mod)レベルだけでなく、即応性(Readiness)によっても増減される。つまり各国は、自国の軍隊をただ増やすだけではなく、近代的な改修を行い、即応性を高めておくことが求められる。もちろんそれを行うコストも限られているし、すべての部隊を近代化したり即応性を高めることも難しい。ではどの部隊を強化し、それをどの地域に配置するのか、という点で悩まされるはず。特にアメリカ国防総省プレイヤーとしては、全世界すべての地域に部隊を展開させるのか、それとも一部はNATO/EUに任せるのか、あるいはどこかを見捨てるのか、という選択もあり得るだろう。

上写真右は、戦闘解決表だが、そういった戦力の増減を行ったうえで、戦闘比を割り出し、双方の近代化レベル差を修整値として10面体ダイスを振り、青と赤チームどちらの勢力が勝ったか負けたかを判定する。また、これとは別に、非戦闘的な相互作用(Interaction)……つまりプロパガンダやハイブリッド戦等を解決する表も存在する。  

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各国には、行動(Action)カード、投資(Investment)カード、国内事件(Domestic Event)カードが用意されているが、その枚数は各国毎に異なる。

各ゲームターンは、①赤・警告フェイズ②青・投資と行動フェイズ③赤・投資と行動フェイズ、④資源配分更新フェイズ、⑤世界情勢要約フェイズと進み、地図盤上のターン記録トラックは、16ターンまで用意されている。

①赤・警告フェイズでは、まず赤プレイヤーたちが、ゲーム上での国際情勢から、これから数ターン先の戦略を考え、それに合致するカードを自分の手札から3枚(うち1枚は必ず行動カード、うち1枚は必ず投資カード)を公開する。この3枚は、本当にプレイするかもしれないし、青プレイヤーに対する偽の警告でもいいし、実際にプレイしなくてもいいと。それを受けて、ゲーム管理者である白チームが、状況説明(ブリーフィング)を開始し、各赤プレイヤーたちに、その意図をある程度説明するように指示する。

たとえば中国プレイヤーは、この時点でいったん「アメリカ国防総省内の中国担当官」みたいな立場になり、自分で中国の戦略を組み立て、3枚カードを選んで公開したうえで、白チームから指示されたら『どうやら中国は北朝鮮に武器を輸出するようですぞ』と、青プレイヤーたち(アメリカとNATO/EU)に話すと。またこの状況説明は、あくまで青プレイヤーたちの戦略的判断を悩ませるものであって、ゲームに勝つために騙そうとするものではないと。

その状況説明を受けた後、②青・投資と行動フェイズで、青プレイヤーたちが自国の軍隊の配置転換、近代化、即応性の改善などを行い、場合によっては軍事行動に出ると。

そして③赤・投資と行動フェイズで、赤プレイヤーたちが、実際にコストを払って行動カードを処理したり、軍隊の改善などを行う。

その後、④資源配分更新フェイズで、各プレイヤーは新たな資源ポイントを獲得し、最後に⑤世界情勢要約フェイズでは、白チームが、このターンに発生した世界情勢の変化や、起きたかもしれない仮定なども含めて、現実世界の物語としてナラティヴ的に語ると。

このルール進行、かなり曖昧に書かれているが、やはり一般的なボードゲームとは違って、きっちり勝敗を争うゲームではなく、あくまで教育的ツールなので、各プレイヤーも紳士的に振る舞うことが求められる。また、教育的なゲーム進行を阻害しないためにも、白チームのファシリテイターたちがいるわけで、赤プレイヤーたちも、シナリオ設定や白チームのガイドラインに沿った行動が求められる。 

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青プレイヤー(アメリカとNATO/EU)側は、行動カードが少なく、国内事件と投資カードが多い。投資カードは、自国の軍備を増強するカードであり、大半は10面体ダイスを振って、どれだけ軍備増強が進捗したか、しなかったかを判定する仕組み。

国内事件カードは、シナリオに従って、白チームによって発動される。アメリカの国内事件を見ると「テロリストによる攻撃」「迎撃ミサイル実験の成功/失敗」「アメリカ大使の発言がソーシャル上で炎上」等々があり、それによって軍備の進捗や、配備・増強コストに影響する。ちなみに日本に関係したカードもあり「中国の軍事的脅威を懸念した日本が、アジア太平洋地域でのアメリカ軍の展開コストを肩代わり(削減)してくれる」というもの。日本はお金で貢献するしか……

NATO/EU側の国内事件には「シリア難民による女性殺害事件によってドイツで極右が台頭」「住民投票によってスコットランドがイギリスから離脱」等もあり、現実世界同様に悩みそう。 

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対する赤チーム(ロシア、中国、北朝鮮、イラン)は、行動カードが多め。ロシアと中国の行動カードは、グレーゾーンでの圧力=ハイブリッド戦略から、実際の武力侵攻まで、さまざまな段階によって行われる。ロシアには、他国の大規模選挙に介入したり、サイバー戦を仕掛けるカードもあり、中国には一帯一路(シルクロード)や、アフリカ諸国ヘの投資など経済的行動カードもあり、南シナ海での緊張を高めるカードもあり、あの手この手という感じだ。一方、北朝鮮とイランは、長距離ミサイルのテストによる挑発や、外交交渉によってポイントを稼ごうとするカードが多い。北朝鮮には、韓国へ侵攻するカードもあるが、それも特殊部隊によるものだけか、韓国島嶼部への限定的な侵攻か、あるいは全面的な侵攻かと、選択肢は複数揃っている。

そんな赤チームも、白チームによってネガティヴな国内事件を引き起こされる可能性がある。ロシアなら「市民の蜂起」「第三次チェチェン戦争」「ISISによるモスクワ攻撃」「プーチンの退任」が、中国なら「軍事人的資源の弱み(教育の低さ)」「ベトナム漁民殺害による関係の悪化」、 北朝鮮なら「指導者の死」、イランなら「民主主義者が選挙で選ばれる」等々。まあ、いずれも現実的な可能性のある事態だし、それにどう対処するかという教育的側面もあるわけだ。

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さらに白チームは、国際事件(International Event)カードも使用できる。こちらは「シリアの難民危機」「ボコハラム」「在日米軍の増強(日本はまたコストを肩代わり)」「韓国による太陽政策(親北朝鮮寄り)」「カシミール地方での核物質盗難」「中国の経済活動に対するアフリカ労働者の反発」「イスラエルによるイラン核施設への爆撃」 「中央アメリカでのハリケーン被害」「湾岸諸国での産油量減による原油価格の上昇」「エボラウィルスが南米に感染拡大」「南スーダンでの虐殺」「トルコとクルド族の対立」「ギリシャが押し寄せる難民に悲鳴」「インドと中国の武力衝突」「インドとパキスタンの武力衝突」「中国のシルクロード戦略へのテロ攻撃」「インドネシア地震津波」「ベラルーシが西側諸国に接近」等々、こちらも現実味のあるイベントが用意されている。

とまあ、長々と書いたが、まさに国防のプロフェッショナル向け教育ツールで、非常に興味深いシステムを搭載している反面、とても自分のような民間ホビー・ウォーゲーマーが手を出せるシロモノではなかった。そもそも人数が揃わないし、ソロプレイにも向いていない。

と言って、我が家で死蔵するのももったいないので、どこか国防、軍事、安全保障に関連する公的機関や研究所、大学等々で、このゲームが欲しいところに無償でご寄贈しようと思う。この記事を読んでご興味を持たれた関連機関の方は、takeo.ichikawa@gmail.comまでご連絡を。一応、開封済みですが、駒などは未切り離し状態です。特に厳正な審査も抽選もせず、こちらが贈りたいところへお贈ります(^_^)

【参考文献】ローマン・テッペル「クルスクの戦い 1943」

昨年、英訳版を買ってあったRoman Toeppelの「Kursk 1943」の日本語版が出たので購入。先につまみ読みしていたとは言え、やはり日本語版があった方が気楽に読める。英訳版を紹介した時にも書いたが、内容的には、クルスク戦に関する(独ソ双方の)意図的な捏造や、無自覚な間違い、単なる勘違い等々を検証し、その真相を解き明かそうとするもの。ちょっと残念だったのは、英訳版には存在していた地名索引と部隊名索引が無かったこと。自分的には、ウォーゲームの参考にする時、地名や部隊名から情報を拾うことも多いので。まあ、そこは英訳版を活用すればいいか。 

しかしあいにく今現在、自分の手元には、クルスク戦を中心に扱ったウォーゲーム・タイトルが無い。2006年に再版されたSPI「Eric Goldberg's Kursk」も、たいしてプレイしないうちに手放したし、OCS(Operation Combat Series)の次回作「Third Winter」は、1943年9月以降の東部戦線ということでクルスク戦の後だし。いっそBCS(Battalion Combat Series)で、プロホロフカあたり出来ないか。そして数年前から予告されている、ASLヒストリカル・モジュールのポヌィリ戦はいつ出るんだろう……

【Advanced Squad Leader】「Blood Reef : Tarawa」Gamers Guide

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先日、MMPからVeteran's Day Saleのお知らせが来たが、いやもう、MMPで欲しいゲームはあらかた買ったわ、今さら値引きされても2個目も要らんし……と思っていたが、ASLのヒストリカル・モジュール「Blood Reef:Tarawa」のゲーマーズガイドをまだ買っていないことを思いだした。本体である「Blood Reef:Tarawa」は買い逃したままだが、いつか手に入れるかもしれないし、手に入れた時にこちらの冊子も無いと困るし……ということで注文。セールのおかげで、本体冊子はたった8ドルだったが、送料が16ドル。うん、送料の方が高かったね…… 

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内容は、キャンペーンゲームの分析を中心に、アメリ海兵隊の戦車、LVTに関する史実記事、ルール的なQ&A等々。すでに絶版の「Blood Reef:Tarawa」も、国内外のオークションでは5万円ほどで出ているので、買おうと思えば買えるけど、いいとこ3万円ぐらいで入手したいかなと。今年はつい「A Bridge too Far」に4万円オーバーを費やしてしまったが、あれはアルンヘム戦モジュール+黒い武装親衛隊カウンターセットという価値があったからで、タラワ戦だけで5万円を出す気はない。上陸戦も面倒そうだし。とは言え、どこかでひょいと手が出てしまうかもしれないが……