Wargaming Esoterica

After Action Reports & Reviews of Simulation War Games ほぼ引退した蔵書系ウォーゲーマーの日記

【参考文献】「太平洋島嶼戦 第二次大戦、日米の死闘と水陸両用作戦」

太平洋島嶼戦: 第二次大戦、日米の死闘と水陸両用作戦
 

新刊「太平洋島嶼戦」を購入。太平洋戦争での、島嶼部を巡るキャンペーン(戦役)と作戦分析ということで、非常にウォーゲーマー向きな内容になっている。題材としては、真珠湾作戦、ウェーク島ガダルカナル島、ソロモン海、アリューシャン列島、東部ニューギニアマーシャル諸島サイパン島、ビアク島、ペリリュー島、レイテ島と、開戦初期から末期までの島嶼戦の変遷も追える。

記事の大半は雑誌「歴史群像」に収録されたものだそうで、2011年には同じように記事をまとめた「歴史群像アーカイヴvol.18 太平洋島嶼戦」も出ているが、こちらにはタラワ島、硫黄島沖縄戦の記事もあり、両方持っていてもあまりカブることはない。  

手元にあるウォーゲームで言うと「CSS:Saipan」「CSS:Guam」「CSS:Tinian」が、太平洋での水陸両用作戦を扱っているが、これらはすべて、島嶼戦キャンペーンで言えば、最後の詰めの一手のような作戦部分であり、上陸するまでの制空戦やら海上戦までは包括されていない。

我が家にあるウォーゲームで、島嶼戦キャンペーンを包括するとなると、やはり「TSWW:Day of Infamy」か。こちらは、本書でも扱っている真珠湾作戦、ウェーク島戦、アリューシャン戦役はもちろん、1941年12月にもし日本軍がハワイ上陸作戦を行っていたらというシナリオもあり、それによって奪われたハワイ諸島へ1942年7月にアメリカ軍が逆上陸をかけるシナリオもあり、仮想島嶼戦キャンペーンを実験するには格好のタイトルだと思う。史実の展開や結果を知らずに行う島嶼戦って、結構、面白いのでは。またTSWWの次の新作「Operation Watchtower」(すでにプレオーダー済み)は、南太平洋戦域、つまり本書でいうところの、ガダルカナル戦、ソロモン戦、ニューギニア戦を扱うので、そちらも含めて、いずれTSWWで、さまざまな島嶼戦キャンペーンを味わってみたいと思う。

【参考文献】「大元帥 昭和天皇」

大元帥 昭和天皇 (ちくま学芸文庫)

大元帥 昭和天皇 (ちくま学芸文庫)

  • 作者:山田 朗
  • 発売日: 2020/07/10
  • メディア: 文庫
 

7月にちくま学芸文庫から文庫化された「大元帥 昭和天皇」を購入。昭和天皇は、アジア太平洋戦争において、どのような政戦略を持ち、軍事指導に介入していたのか、を分析した一冊。ちょうどアジア太平洋戦争の政戦略級ゲーム「Storm Over Asia」も届くタイミングだったので、あらかじめ買って予習のつもりで読んでいた。本書を読むと、当時の戦況に対して、かなり細かい指摘をしていたり、どこかでアメリカ軍に決戦を強いれないかという、昭和天皇の攻勢主義的な性格が見て取れる。もちろん、もう総力戦の時代なので、ひとつの決戦・会戦で形勢を逆転するのは難しいだろうが、そういう認識でいたという事実を知るのも興味深い。「Storm Over Asia」のようなゲームレベルで、日本を指導する立場を体験するなら、その一部であった昭和天皇の軍事面を知っておくことも参考になるかと。 

GMT「Storm Over Asia : Prequel to A World at War」

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GMTの新作「Storm Over Asia」が到着。こちらもサブタイトルに「A World at War前夜」とあるように、WWII戦略級ゲーム「A World at War」の前段階として、1935年~1940年のアジア太平洋戦域の政戦略を扱い、その結果を「A World at War」の開戦時戦力として持ち越すこともできる。言うなれば、ヨーロッパ戦域を扱う「The Gathering Storm」の姉妹編。

本作でプレイヤーが担当するのは、日本、中国、イギリス、ソ連という面々。一応、2人プレイでは日本vs中英ソ、3人プレイでは日本vs中国vs英ソというゲームも可能。もちろん、当時の中国にはさまざまな派閥があったが、本作では、国民党を中心として描いている。日本の国家戦略も統一がとれていなかったと思うが、そこもある種の「総意」として扱いながらも、ランダムイベント等でさまざまな派閥が勝手に動き始め、プレイヤーが望むような政戦略はなかなか取れない、という仕組みになっているはず。

また「The Gathering Storm」では、主要国(独伊英仏ソ)が、中小国に自国の旗カウンターを配置してその影響度を示すという仕組みだったが、「Storm Over Asia」では、中国の軍閥(Warloads)に対して、中小国のように旗カウンターを配置する。日本寄りの軍閥、国民党寄りの軍閥という形になるのだろう。また、ソ連は「The Gathering Storm」同様に結束度ルールがあり、粛清を行えば行うほど国家としての結束は高まるが、「Storm Over Asia」では、中国にも結束度ルールがある。これは国民党を基準として、中国の意思統一度を測るものであり、国共合作(United Front)ルールもあり。恐らく最新ルールは、専用サイトで更新されるはず。

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こちらが地図盤。中国は複数のエリアに分かれ、それぞれ日本、国民党、共産党軍閥、いずれかの影響度を受け、その影響度合いによって国共合作が進むか、後退するかという判断にもなる。COIN的だなあ。それ以外では、インド、ビルマ、タイ、マラヤ、オランダ東インド領、オーストラリア等があり、こちらにはイギリスなり、ソ連なりの影響や機密作戦などが行われるはず。 

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ランダムイベントカードは80枚(The Gathering Stormは144枚だった)。日本側のイベントをざっと見ると「関東軍の拡大」「拡大派の熱狂が高まる」「天皇が軍事的解決を支持する」「民意による拡大への圧力」「若手士官が大陸への拡張と建設に取り憑かれる」「財閥が政府立案者に協力する」「造船所の労働者たちが、愛国的な行動として休日を返上して働く」「豪雨により、日本国内の収穫が減じる」「参謀本部がコントロールを失う」……等々があって、後世の日本人としては、ああ、そっちに行ってはいけないのに!と思うような方向に行ってしまうのだろう。史学的にも『なぜアジア太平洋戦争は起きたのか?』というのは大きなテーマだと思うが、その原因となった複数の要素を垣間見れるという意味では、本作もなかなか教育的かもしれない。

また、9枚の中国軍閥リーダーのカードもあるが、あいにくこの顔写真を拝見して『ああ、あの人ね』と分かるほど、自分は歴史に詳しくない。張学良ってこういう顔だったんだな、という程度。それとも、今現在の中国人ウォーゲーマーの皆さんなら、すらすら分かるのだろうか。まあ、こちらとしては、あまり知らないからこそ、ゲームを通じて知るしかない。

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ほとんどが(部隊ユニットではなく)マーカー類というのは「The Gathering Storm」と同じ。 ただし「A World at War」にも登場する、日本軍空母「Koryu」「Yatagarasu」「Yurei」ユニットはあり、その建造を早めることも可能性としてはあり。

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「The Gathering Storm」発売の際に、購入者から『セットアップが分かりにくい』というクレームが来たせいか、本作では図版入りの解説シートが入っている。ソ連の粛清トラックも「The Gathering Storm」より見やすくなっている。もちろん記録シート類も多い。 

「Storm Over Asia」のルールそのものは、「The Gathering Storm」と体裁はほぼ同じなので、その差分さえ分かってしまえばプレイできるはず。とは言え、昨年末に「The Gathering Storm」を買って以来、本体ルールも70%ぐらい訳したが、この作業が遅々として進んでいない。「The Gathering Storm」は、各所で「ルールブックが読みにくい」と評されていたが、たしかに訳していても、あまり面白くない。分量的にはTSWWの方がずっと多いのに、あちらはルールを読むのが面白かったんだけどなあ。

実際、自分がもし本作をプレイしたら、自分の国が悪夢のような戦争に突き進んでいくプロセスを観察するわけだから、暗澹たる気持ちになりそうだ。しかし戦争前の日本の状況を学ぶことも大切だし、せっかくなら、こういったレベルのゲームで学びたいとは思う。一応「The Gathering Storm」の翻訳はまた再開すると思うが、正直言うと、他に誰か訳してくれるとありがたいなあと(^_^;)

【参考文献】クリストファー・R・ブラウニング「増補版 普通の人びと:ホロコーストと第101警察予備大隊」

昨年、文庫化された「普通の人びと:ホロコーストと第101警察予備大隊」を購入。原著初版は1992年だが、1997年に他の研究書との論争の経緯が追加されており、今回の文庫版はその増補版。昨年、発売された際にも話題になり、すぐ重版がかかっていたが、自分は手を出していなかった。

と言うのも、これはごく個人的な感受性の問題なのだが、自分の場合、ホロコーストはもちろん、虐殺や強姦といった題材に向き合うと、その被害者や被害者遺族などに感情移入してしまい、心がしんどくなるので、ノンフィクションだろうとフィクションだろうと、書物だろうと映画だろうとテレビドラマだろうと、なるべくそれらを避けるようにしている。正直、殺人事件を扱うサスペンスドラマ等も見ない。なので先日購入した「イワンの戦争」にも、ソ連兵による強姦などの記述があったので、そこはちらっと目に入れただけで飛ばしている。そして本書も、きっと読んだら辛くなるんだろうなあと思って、手を出さなかったのだ。もちろんホロコーストという事実については、人類として学ぶべきだが、こちらにも個人の事情があるし、こういったメンタルは鍛えればどうにかなるものでもないので、とりあえず知っているというレベルで勘弁してくれと。ウォーゲームの資料としても、予備警察大隊が出てきたり、ましてその行動がシミュレートされているゲームなんてまず無かったし。

しかし「TSWW:Barbarossa」では、枢軸軍警察部隊による対パルチザン戦も再現されており、さすがに本書で扱う第101警察予備大隊ユニットまでは無かったが、それが所属していたルブリン管区の警察部隊ユニットがあったので、ああ、これはちょっと目を通しておいた方がいいかなと。 

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実際「TSWW:Barbarossa」での警察部隊は、ウォーゲームのユニットとしては非常に頼りなく描かれている。戦闘効率補正(CEV)は一般部隊ユニットより低く、戦線後方に敵が突破してきた等の緊急事態でない限り、一般部隊ユニットには隣接できないし、隣接しても戦闘ダイスには不利な修整がつく。つまり戦闘部隊としては、完全に足手まとい。また、一般的に言うZOCも無いが、対パルチザン専用のZOCだけ持ち、強い敵には弱く、弱い敵には強いという描かれ方だ。またSS警察部隊のほとんどが、カッコ付きの戦闘力……つまり攻撃はできず、防御しかできないため、ただ単に守備位置に配置され、施設を襲撃に来たパルチザンに対して不利なダイス修整を与える、という受け身の任務しかできない。そういう意味では、単なるお留守番部隊としてしか表現されていないし、ゲーム上、残虐行為を働くわけでもない。

とは言え、その警察部隊が史実上、お留守番中に何もしていなかったワケではなく、そこが本書で克明に分析されている。「TSWW:Barbarossa」の戦闘序列でも、この手の警察部隊については、しつこいほどに『この部隊は最終解決に関与し……』と注釈が入っているし、単なるネタユニットとしてではなく、かなり教育的に扱っていると思う。

なにしろ「TSWW:Barbarossa」のようなビッグゲームになると、保安部隊専従プレイヤーを割り当ててプレイすることも可能だが、もしその任務を割り当てられたら『くそっ、パルチザンの奴ら、面倒だな。早く増援でカミンスキー部隊(周囲2ヘクスの対パルチザンゾーンを持つ)来ないかな』と思うかもしれない。また逆に、前線で装甲部隊を扱うプレイヤーからすれば『後方の面倒な汚れ仕事は、保安部隊に任せておけ。俺たちには関係無いし、何があったかは知らない』と思うかもしれない。そういった職務的心情を、ウォーゲーム・プレイヤーとして担当することで垣間見ることも、教育的ではないだろうか。

Command Magazine #154 「The Caucasus Campaign」

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コマンドマガジン154号「コーカサス・キャンペーン」を購入。この雑誌を買ったのは、2013年10月発売の113号「アンティータムの戦い&ゲティスバーグ会戦」以来、7年ぶりである。しかしその113号も、大阪に行った際、コマンドマガジン編集部の方に夕飯をご馳走になったお返しに買ったモノなので、ある意味、義理返し。自発的に買った号となると、 さらにその前の112号「ナルヴァの戦い」以来、32号ぶり。まあ、ゲームジャーナル誌も、2013年9月発売の48号「信長後継者戦争」以来、やはり7年間買っていないしね。あと、2013年というのが、自分にとって大きな節目の年だったなと。

今号の付録「コーカサス・キャンペーン」も、2010年にGMT版を買ったものの、まったく遊ばないまま、断捨離してしまった。そのことについて、特に後悔はなかったが、あらためて日本語版が出るということで購入した次第。後から、この「コーカサス・キャンペーン」の前段となる「Stalingrad'42」も出たし、この機会に揃えておくかと。 

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スケールは違えど、同じシモニッチ作の「Stalingrad'42」と並べてみたり。 

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一応、近年のシモニッチWWII作戦級は、ある種のスタンダードだと思っているので、手元に置いといても邪魔にはならんでしょう。しかし今、自分の目の前には「TSWW:Barbarossa」という高い山がそびえているので、コーカサス戦にしてもTSWWで味わってみたいと思っている。今回の再版もありがたいのだが、新作ラッシュに埋もれて、またプレイせずに死蔵する可能性大…… 

 

【参考文献】キャサリン・メリデール「イワンの戦争 赤軍兵士の記録1939-45」

イワンの戦争:赤軍兵士の記録1939-45

イワンの戦争:赤軍兵士の記録1939-45

 

引き続き「TSWW:Barbarossa」の、というか独ソ戦の参考文献紹介シリーズ。2012年に邦訳が出たものの、その後、品切れとなっていた「イワンの戦争 赤軍兵士の記録1939-45」が今年に入って再版されたので、こちらも購入した。再版は喜ばしいと思うが、7000円オーバーはなかなかのお値段。この「イワンの戦争」も、2012年に出版された際に書店で手に取ったが、個人的にはあまり興味の無い「下からの歴史」寄りだったので、スルーしたと思う。もちろん歴史研究としては「下からの歴史」も大切なのだが、あくまで個人的な好みで言えば、自分はウォーゲーマーとして「上からの歴史」的な作戦分析を読むのが好きなので。今回、あらためて新版を読んでみて、たしかに前線で戦うソ連軍兵士の心情なり状況はよく分かったが、自分の中ではあくまでそこ止まり。しかし本書の中でも 「OMSBON(Otdel'naya Motostelkovaya Brigada Osobogo Nannachenia=特殊作戦用独立自動車化旅団)」のエピソードが出てきたので、ああ、この部隊って有名だったんだなと再認識した。まあ比較的、ドイツ軍側を描いた書籍を読むことが多いので、バランスを保つ意味でも、ソ連軍側の書籍も読んだ方が良いのだろう。

【参考文献】ロドリク・ブレースウェート「モスクワ攻防1941 戦時下の都市と住民」

「TSWW:Barbarossa」のルールを訳していたら、特別ルールとして「ドヴァトール将軍の騎兵コマンド」やら「OMSBON(Otdel'naya Motostelkovaya Brigada Osobogo Nannachenia=特殊作戦用独立自動車化旅団)」なる、知らないネタが多々あって、これなんか元ネタ本があるのかと思って探してみたらこれにぶち当たった。2008年に邦訳が出ていた、ロドリク・ブレースウェート(元イギリス諜報部員にして駐ソ大使)の「モスクワ攻防1941」。たしかに出版されているのは知っていたが、「戦時下の都市と住民」というサブタイトルから、ははーん、民衆史なんだろうなと思ってスルーしていた。しかしあらためて読んでみると、たしかに「下からの歴史」寄りだが、独ソ戦の、ソ連側の雰囲気が伝わる、なかなか面白い一冊だった。 ということで「TSWW:Barbarossa」オーナーは是非是非。