Wargaming Esoterica

After Action Reports & Reviews of Simulation War Games ほぼ引退したウォーゲーマーの日記

【参考文献】H.P.ウィルモット「大いなる聖戦(上下)」

大いなる聖戦:第二次世界大戦全史(上)

大いなる聖戦:第二次世界大戦全史(上)

 
大いなる聖戦:第二次世界大戦全史(下)

大いなる聖戦:第二次世界大戦全史(下)

 

前々から読もうと思っていた、軍事史家H.P.ウィルモットの第二次世界大戦全史「大いなる聖戦(上下)」を購入、読了。初版は1989年だが、2008年に出された改訂版の翻訳。

この手の第二次大戦の通史で、日本語でも入手しやすいものというと、以前ならリデル・ハートの「第二次世界大戦」、最近ではアントニー・ビーヴァーの「第二次世界大戦 1939-45」がある。リデル・ハートの書は、やはり軍事史家らしく、第二次世界大戦の政戦略や作戦、軍人の決断や、部隊の行動に重きを置いていた。ある意味、ウォーゲーマーが直接参考にできる内容だったとも言えるが、ホロコーストに関する言及は一カ所しかなかったはず。それに対してアントニー・ビーヴァーは、ホロコーストや戦時暴力などに晒された民間人の被害にも数多く言及しており、 第二次世界大戦期間の歴史といった趣があった。

それに比べるとウィルモットの本作は、やはり軍事史家なので、リデル・ハートのように軍事面に焦点を当てているものの、リデル・ハートとは違って、軍人名が極力省略されている。ヒトラースターリンといった政治指導者の名前は出てくるものの、お馴染みのグデーリアン、パットン、ジューコフといった名前は一切出てこない。そもそも前書きで『太平洋戦争に勝利したのはマッカーサーではない』『1942年秋のエルアラメインの戦いは、モントゴメリーとロンメルの一騎打ちではない』としているし、そのような将軍個人の活躍が誇張されていることに苦言を呈している。マンシュタインにしても、第三次ハリコフ戦での「後手からの一撃」は過大評価であり、本当にマンシュタインが軍事的天才だったなら、クルスク戦以降の東部戦線をどうにか出来ただろうと。

そのため本書での記述も、政治家や軍部の指導により、その国の軍隊や部隊がどのように行動したかを書き連ねた形となっている。さながら、将軍ユニットの無い戦略級ウォーゲームの経緯を読んでいるようで、これはこれで非常にスッキリしている。

第二次世界大戦に限らず、歴史を知る場合に、英雄的人物やそのエピソードを通して見ると、たしかに分かりやすい面はある。ただ、どうしても英雄伝には誇張や隠蔽の可能性もあるので、だったらそういった面を極力廃してしまえばいいじゃないかというスタンスなのかもしれない。ある意味ストイックだし、むしろ第二次世界大戦の軍事的展開そのものが浮き彫りになっているようにも感じた。もちろん、ウォーゲーマー向きの通史だと思う。是非是非。