Wargaming Esoterica

After Action Reports & Reviews of Simulation War Games ほぼ引退した蔵書系ウォーゲーマーの日記

【参考文献】Roman Toeppel「Kursk 1943」

Kursk 1943: The Greatest Battle of the Second World War (Modern Military History)

Kursk 1943: The Greatest Battle of the Second World War (Modern Military History)

 

昨年、英語版が出た、Roman Toeppelの「Kursk 1943」ハードカバー版を購入。Kindleだと500円でも買えるが、やはり書籍で欲しかったし、ハードカバーでも2500円ほどだったので。

Toeppel氏と言えば、かつては「独ソ最大の戦車戦」と神話的に呼ばれてきた(そして実際には、プロホロフカ戦も言われるほどの規模でなかった)クルスク戦の「作戦史」研究に取り組み、日本のウォーゲーム雑誌でも紹介されていたので、前々から読んでみたかった。数年前に翻訳が出たデニス・ショウォルターの「クルスクの戦い1943」でも、クルスクに固執するマンシュタイン元帥の様子が記されていたが、本書では、作戦前の通信も紹介され、マンシュタインの『私は、南方軍集団で、支障なくクルスクが取れると思っている』という楽観的判断から、ツァイツラーへの執拗なプレゼンが続くあたり、なかなか面白い。

しかし実際、1943年春~夏の東部戦線で、先手で攻めるのか、後手で守るのかという作戦立案から行うウォーゲームというと、あいにく自分には思い浮かばない。OCSも、この時期は空白地域だし、個人的にはTSWWの後期東部戦線を扱う「Vengeance」で試してみたい気が……(しかしユニット多そうだな)

クルスク戦で個人的に興味があるのは、もっと戦術レベルの話になるが、モーデルの第9軍が北部から攻め込んだ、ポヌィリ(Ponyri)村の戦闘である。ずいぶん前からASL(Advanced Squad Leader)で、ポヌィリ村の戦いをヒストリカル・モジュールで出すと予告されており、2016年発売の「ASL Journal #11」では地図盤も公開され、当時は2017年発売と言われていたが、いまだに音沙汰が無い。

で、ポヌィリ戦と言えば、フェルディナント重突撃砲を装備した第653、第654重駆逐戦車大隊が投入されたものの、大きな損害を被り『フェルディナントは機関銃を装備していなかったから、ソ連軍歩兵の近接攻撃で撃破された』と昔は言われていた。

ただToeppel氏の本書には、第654重駆逐戦車大隊の戦闘詳報『フェルディナントが歩兵に対して弱いという最初の不安は、根拠の無いものだった。発砲時の衝撃や、見た目の大きさから、フェルディナントに接近してくる歩兵はいなかった』も載っており、そのあたりも神話的な部分だなと。以前読んだ、独ソ戦車戦シリーズの「重突撃砲フェルディナント」にも、火炎瓶だけで撃破されたフェルディナントはごく少数との分析が載っていたし(実際には砲爆撃や地雷による損害が多かった)、ヒトラーお気に入りのフェルディナントを『あれは使えなかった』とすることで、ヒトラー自身の評価を下げようという意図があったのかもしれない。

まあ、そのように戦略・作戦・戦術、いずれのレベルでも神話の多いクルスク戦なので、近年の「作戦史」研究には目を通しておきたいなと。