Wargaming Esoterica

After Action Reports & Reviews of Simulation War Games ほぼ引退した蔵書系ウォーゲーマーの日記

【The Second World War】「TSWW : Day of Infamy」

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と言うワケで、2月に初めてのTSWWシリーズ「Day of Infamy(屈辱の日)」(2017年発売)を購入した。ボックスアートの『ギョク山を登る』という謎ワードが怪しい雰囲気を醸し出しているが、これは台湾の最高峰・玉山(ぎょくざん)を、日本統治時代は新高山(にいたかやま)と呼び、そこから生まれた真珠湾攻撃命令を意味する暗号文『ニイタカヤマノボレ』=『ギョク山を登る』ということなのだろう。ちなみに「Day of Infamy」は、真珠湾攻撃を受けた翌日、アメリカのルーズベルト大統領が議会の演説で用いた『昨日は、合衆国にとって屈辱の日であった』から来ている。

本作は、1941年~1943年の北部太平洋……真珠湾奇襲、ウェーク島、ドゥーリトル隊の東京空襲、アッツ島キスカ島、ミッドウェー島での戦闘などを扱っている。陸上の作戦級がメインだったエウロパシリーズが、どのように日米の空母戦を表現しているか、興味津々である。

今回購入したのは、地図、カウンターシート、チャートは印刷されているが、ルールブック、シナリオ、戦闘序列はPDFデータ化されているLieutenant版(215ポンド、125円換算で26900円)である。ルール等も印刷されたColonel版で245ポンド(約30630円)、すべてがデータ化されたQuatermaster版では55ポンド(約6900円)である。自分の場合、ルール等を翻訳したいので、データ版の方がありがたい。

※2019年5月10日:日本語ルールをYahoo! TSWWグループにて公開。

https://groups.yahoo.com/neo/groups/etsww/info

https://groups.yahoo.com/neo/groups/etsww/files/DayofInfamy/

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地図盤は全11枚だが、その大きさはまったく異なっている。まずDOISZという4枚の大型戦略地図があり、その中の、ハワイ・ミッドウェー方面の拡大地図(というかエウロパ=TSWWの通常スケール)が3枚、アッツ・キスカ方面が3枚、ウェーク島が1枚入っているという構成だ。 

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こちらが4枚の戦略地図盤をつなげた図。西は日本列島、東はハワイ諸島、北はアリューシャン列島、南はマーシャル、ギルバート諸島まで含まれている。海上部隊、航空部隊は、この戦略地図盤と通常の地図盤を行き来しつつ、任務を行う。 

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こちらがハワイ~ミッドウェー方面の通常地図盤。1ヘクス=24kmという、エウロパ=TSWWスケールでハワイ諸島を描くとこうなるわけだ。

収録シナリオは「真珠湾奇襲」「第一次ウェーク島攻略」「もしもウェーク島アメリカ軍の救援部隊が到着していたら」「第二次ウェーク島攻略」「アメリカ軍空母によるウェーク、マーカス、ギルバート諸島への空襲」「ドゥーリトル隊の東京空襲」「AL(アリューシャン)作戦」「MI(ミッドウェー)作戦」「戦前の日本海軍が想定した対米戦艦決戦」「もし日米が、空母ではなく戦艦を量産して1943年に決戦していたら」「日本軍による仮想ハワイ上陸作戦」「マーカス、ギルバート諸島での戦闘」「珊瑚海海戦(プレイにはSingapole !他が必要)」「アッツ島奪回作戦」「キスカ島奪回作戦」「もし日本海軍が主力機動部隊をアリューシャン方面に投入していたら」「日本軍がハワイを占領した後の、アメリ海兵隊による逆上陸作戦」「アッツ島沖(コマンドルスキー諸島)海戦」と、かなり盛りだくさんになっている。

このシナリオを見ても分かるように、仮想設定も豊富で『お前はどこのアドテクノスか!』と言いたくなるほど。史実のミッドウェー海戦シナリオにしても、さまざまなオプション(損傷していた空母瑞鶴の投入、アリューシャン作戦を中止して空母隼鷹、龍驤を投入する、空母サラトガ、ワスプの投入など)があり、ゲームシステム全体としては史実的なディティールを取り入れつつ、多様な可能性を追求できるゲームにもなっている。 

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カウンターシートは8枚、カウンター総数は2240個。その大半が艦船と航空機である。

さて太平洋の空母戦ゲームでは、日米戦闘機の評価に関する話題がよく見られる。本作に収録されている機体を簡単に挙げると、日本軍では九六式艦戦(A5M4)が空戦攻撃力5・空戦防御力4、零戦二一型(A6M2)が攻撃7・防御5、零戦二二型(A6M3-22)が攻撃8・防御6、一式戦・隼I型b(Ki-43Ib)が攻撃6・防御6、隼II型bが攻撃7・防御6、二式戦・鍾馗II型(Ki-44-II)が攻撃8・防御6と、たしかに全体的に、攻撃偏重・防御軽視になっている。

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対するアメリカ軍は、F4F-3初期型ワイルドキャットが攻撃6・防御6、F6F-3/-4ヘルキャットが攻撃9・防御7、F4U1初期型コルセアが攻撃10・防御8、P39Dエアラコブラが攻撃7・防御5、P40Kウォーホークが攻撃7・防御6、P38Gライトニングが攻撃6・防御7となっている。

空戦の解決は、お互いの攻撃力と防御力を差し引くため、零戦二一型(7-5)とF4F-3(6-6)が戦えば、お互い「+1」という互角の解決欄でダイスを振ることになる。ただしCEV(戦闘効率補正)という練度・戦術面での差異がダイス修整に入り、1941年では日本軍が優位に、1942年からは互角に、1943年以降はアメリカ軍優位になる。つまり零戦とF4F-3は、ハードウェア的には互角で、戦術や技量というソフト面で差がつく形になっている。

とは言え、航空機マニアからすれば『ハードウェア面だけにしても、この額面戦闘力は納得いかん!』という声もあるかもしれないが、あいにく自分はあんまり航空機に思い入れは無いので『へー、そういう評価なんだ』で終わっている。あしからず。

ちなみにアメリカ海軍は、1943年3月から「管制迎撃システムの導入により、レーダー装備の空母上空でCAP(戦闘空中哨戒)にあたっている戦闘機は、攻撃力2倍」という、マリアナ七面鳥撃ち的なルールが適用されるため、そうなるともはや機体の優越などどうでも良くなるような……(^_^;)

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艦船も、さすが駆逐艦まで1隻1ユニットとなったため、両軍とも膨大な量の艦船が収録されている。中には、大和型戦艦4番艦「遠江(Totomi)」5番艦「摂津(Settsu)」なる仮想艦もあるが、ここで艦船マニアの皆さんは『いや大和型4番艦に予定されていた名前は、紀伊だろう』と言われるかもしれない。ところが本作には、ワシントン軍縮条約前に建造が予定されていた戦艦と巡洋戦艦、いわゆる八八艦隊の艦艇も収録されており、紀伊の名前はそちらに使われているので、重複を避けるため、別の名前を付けたらしい。いやしかし『うーん、紀伊という名前は使えないから、同じ日本の旧国名から、遠江と摂津にしよう』と決めたデザインチームのセンスよ……(^_^)

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こちらがその八八艦隊。戦艦加賀、土佐、紀伊尾張あたりは、実際にその名前が予定されていたはず。ますます強まるアドテクノス臭……

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対するアメリカ軍にも、建造が中止された戦艦サウスダコタインディアナ、モンタナ等が登場し、仮想戦艦決戦シナリオで日本軍の八八艦隊と相まみえるはず。とは言っても、戦艦同士の砲撃戦というのも、ただ殴り合うだけで、あまり面白くないかも。

ちなみに旧エウロパシリーズでの水上砲戦は、遠距離・中距離・近距離・雷撃距離の4つで行われたが、TSWWでは、遠距離・近距離・雷撃距離の3つになっている。このあたり、旧エウロパのルールで砲戦なんぞやったことが無いので何とも言えないが、何らかの改良が加えられた結果なのかもしれない。

そして海戦、空母戦と言えば、索敵ルールも気になるところだが、TSWWでは、盤上に艦隊マーカーを置いて動かし……なので、相手プレイヤーからどこに艦隊がいるかは分かってしまうのだが、これは国家諜報活動によって、ある程度、敵の動きはつかめているという想定であり、実際に攻撃する際には、索敵によって正確な位置を発見する必要がある。つまりVGフリートシリーズと同様のシステムになっている。

また1ターン=半月というスケールで、両軍どれだけ動けるかだが、各ターン、自分のプレイヤーターンの移動フェイズと突破フェイズ、相手方プレイヤーターンの移動フェイズと突破フェイズでそれぞれ移動でき、その移動途中で戦闘が行えるため、1ターン中にお互い4回ずつ移動・戦闘が行えるような感じか。このあたりは、実際にプレイしてみないと、それで納得できるのかどうか、面白いのかどうか分からないが…… 

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とにかく艦船にしろ航空機にしろ、状況設定にしろ、自分ごときの浅学な人間には拾いきれないほどの小ネタが満載なので、マニアの方は是非、中身を確かめていただきたい。

一応、ルールは訳したので、近いうちに小規模シナリオから試してみようと思う。TSWWが、作戦級の海戦・航空戦ゲームとして成立しているかどうか、確かめたいところだ。