Wargaming Esoterica

After Action Reports & Reviews of Simulation War Games ほぼ引退した蔵書系ウォーゲーマーの日記

【The Second World War】「TSWW : Day of Infamy」

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と言うワケで、2月に初めてのTSWWシリーズ「Day of Infamy(屈辱の日)」(2017年発売)を購入した。ボックスアートの『ギョク山を登る』という謎ワードが怪しい雰囲気を醸し出しているが、これは台湾の最高峰・玉山(ぎょくざん)を、日本統治時代は新高山(にいたかやま)と呼び、そこから生まれた真珠湾攻撃命令を意味する暗号文『ニイタカヤマノボレ』=『ギョク山を登る』ということなのだろう。ちなみに「Day of Infamy」は、真珠湾攻撃を受けた翌日、アメリカのルーズベルト大統領が議会の演説で用いた『昨日は、合衆国にとって屈辱の日であった』から来ている。

本作は、1941年~1943年の北部太平洋……真珠湾奇襲、ウェーク島、ドゥーリトル隊の東京空襲、アッツ島キスカ島、ミッドウェー島での戦闘などを扱っている。陸上の作戦級がメインだったエウロパシリーズが、どのように日米の空母戦を表現しているか、興味津々である。

今回購入したのは、地図、カウンターシート、チャートは印刷されているが、ルールブック、シナリオ、戦闘序列はPDFデータ化されているLieutenant版(215ポンド、125円換算で26900円)である。ルール等も印刷されたColonel版で245ポンド(約30630円)、すべてがデータ化されたQuatermaster版では55ポンド(約6900円)である。自分の場合、ルール等を翻訳したいので、データ版の方がありがたい。

※2019年5月10日:日本語ルールをYahoo! TSWWグループにて公開。

https://groups.yahoo.com/neo/groups/etsww/info

https://groups.yahoo.com/neo/groups/etsww/files/DayofInfamy/

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地図盤は全11枚だが、その大きさはまったく異なっている。まずDOISZという4枚の大型戦略地図があり、その中の、ハワイ・ミッドウェー方面の拡大地図(というかエウロパ=TSWWの通常スケール)が3枚、アッツ・キスカ方面が3枚、ウェーク島が1枚入っているという構成だ。 

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こちらが4枚の戦略地図盤をつなげた図。西は日本列島、東はハワイ諸島、北はアリューシャン列島、南はマーシャル、ギルバート諸島まで含まれている。海上部隊、航空部隊は、この戦略地図盤と通常の地図盤を行き来しつつ、任務を行う。 

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こちらがハワイ~ミッドウェー方面の通常地図盤。1ヘクス=24kmという、エウロパ=TSWWスケールでハワイ諸島を描くとこうなるわけだ。

収録シナリオは「真珠湾奇襲」「第一次ウェーク島攻略」「もしもウェーク島アメリカ軍の救援部隊が到着していたら」「第二次ウェーク島攻略」「アメリカ軍空母によるウェーク、マーカス、ギルバート諸島への空襲」「ドゥーリトル隊の東京空襲」「AL(アリューシャン)作戦」「MI(ミッドウェー)作戦」「戦前の日本海軍が想定した対米戦艦決戦」「もし日米が、空母ではなく戦艦を量産して1943年に決戦していたら」「日本軍による仮想ハワイ上陸作戦」「マーカス、ギルバート諸島での戦闘」「珊瑚海海戦(プレイにはSingapole !他が必要)」「アッツ島奪回作戦」「キスカ島奪回作戦」「もし日本海軍が主力機動部隊をアリューシャン方面に投入していたら」「日本軍がハワイを占領した後の、アメリ海兵隊による逆上陸作戦」「アッツ島沖(コマンドルスキー諸島)海戦」と、かなり盛りだくさんになっている。

このシナリオを見ても分かるように、仮想設定も豊富で『お前はどこのアドテクノスか!』と言いたくなるほど。史実のミッドウェー海戦シナリオにしても、さまざまなオプション(損傷していた空母瑞鶴の投入、アリューシャン作戦を中止して空母隼鷹、龍驤を投入する、空母サラトガ、ワスプの投入など)があり、ゲームシステム全体としては史実的なディティールを取り入れつつ、多様な可能性を追求できるゲームにもなっている。 

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カウンターシートは8枚、カウンター総数は2240個。その大半が艦船と航空機である。

さて太平洋の空母戦ゲームでは、日米戦闘機の評価に関する話題がよく見られる。本作に収録されている機体を簡単に挙げると、日本軍では九六式艦戦(A5M4)が空戦攻撃力5・空戦防御力4、零戦二一型(A6M2)が攻撃7・防御5、零戦二二型(A6M3-22)が攻撃8・防御6、一式戦・隼I型b(Ki-43Ib)が攻撃6・防御6、隼II型bが攻撃7・防御6、二式戦・鍾馗II型(Ki-44-II)が攻撃8・防御6と、たしかに全体的に、攻撃偏重・防御軽視になっている。

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対するアメリカ軍は、F4F-3初期型ワイルドキャットが攻撃6・防御6、F6F-3/-4ヘルキャットが攻撃9・防御7、F4U1初期型コルセアが攻撃10・防御8、P39Dエアラコブラが攻撃7・防御5、P40Kウォーホークが攻撃7・防御6、P38Gライトニングが攻撃6・防御7となっている。

空戦の解決は、お互いの攻撃力と防御力を差し引くため、零戦二一型(7-5)とF4F-3(6-6)が戦えば、お互い「+1」という互角の解決欄でダイスを振ることになる。ただしCEV(戦闘効率補正)という練度・戦術面での差異がダイス修整に入り、1941年では日本軍が優位に、1942年からは互角に、1943年以降はアメリカ軍優位になる。つまり零戦とF4F-3は、ハードウェア的には互角で、戦術や技量というソフト面で差がつく形になっている。

とは言え、航空機マニアからすれば『ハードウェア面だけにしても、この額面戦闘力は納得いかん!』という声もあるかもしれないが、あいにく自分はあんまり航空機に思い入れは無いので『へー、そういう評価なんだ』で終わっている。あしからず。

ちなみにアメリカ海軍は、1943年3月から「管制迎撃システムの導入により、レーダー装備の空母上空でCAP(戦闘空中哨戒)にあたっている戦闘機は、攻撃力2倍」という、マリアナ七面鳥撃ち的なルールが適用されるため、そうなるともはや機体の優越などどうでも良くなるような……(^_^;)

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艦船も、さすが駆逐艦まで1隻1ユニットとなったため、両軍とも膨大な量の艦船が収録されている。中には、大和型戦艦4番艦「遠江(Totomi)」5番艦「摂津(Settsu)」なる仮想艦もあるが、ここで艦船マニアの皆さんは『いや大和型4番艦に予定されていた名前は、紀伊だろう』と言われるかもしれない。ところが本作には、ワシントン軍縮条約前に建造が予定されていた戦艦と巡洋戦艦、いわゆる八八艦隊の艦艇も収録されており、紀伊の名前はそちらに使われているので、重複を避けるため、別の名前を付けたらしい。いやしかし『うーん、紀伊という名前は使えないから、同じ日本の旧国名から、遠江と摂津にしよう』と決めたデザインチームのセンスよ……(^_^)

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こちらがその八八艦隊。戦艦加賀、土佐、紀伊尾張あたりは、実際にその名前が予定されていたはず。ますます強まるアドテクノス臭……

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対するアメリカ軍にも、建造が中止された戦艦サウスダコタインディアナ、モンタナ等が登場し、仮想戦艦決戦シナリオで日本軍の八八艦隊と相まみえるはず。とは言っても、戦艦同士の砲撃戦というのも、ただ殴り合うだけで、あまり面白くないかも。

ちなみに旧エウロパシリーズでの水上砲戦は、遠距離・中距離・近距離・雷撃距離の4つで行われたが、TSWWでは、遠距離・近距離・雷撃距離の3つになっている。このあたり、旧エウロパのルールで砲戦なんぞやったことが無いので何とも言えないが、何らかの改良が加えられた結果なのかもしれない。

そして海戦、空母戦と言えば、索敵ルールも気になるところだが、TSWWでは、盤上に艦隊マーカーを置いて動かし……なので、相手プレイヤーからどこに艦隊がいるかは分かってしまうのだが、これは国家諜報活動によって、ある程度、敵の動きはつかめているという想定であり、実際に攻撃する際には、索敵によって正確な位置を発見する必要がある。つまりVGフリートシリーズと同様のシステムになっている。

また1ターン=半月というスケールで、両軍どれだけ動けるかだが、各ターン、自分のプレイヤーターンの移動フェイズと突破フェイズ、相手方プレイヤーターンの移動フェイズと突破フェイズでそれぞれ移動でき、その移動途中で戦闘が行えるため、1ターン中にお互い4回ずつ移動・戦闘が行えるような感じか。このあたりは、実際にプレイしてみないと、それで納得できるのかどうか、面白いのかどうか分からないが…… 

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とにかく艦船にしろ航空機にしろ、状況設定にしろ、自分ごときの浅学な人間には拾いきれないほどの小ネタが満載なので、マニアの方は是非、中身を確かめていただきたい。

一応、ルールは訳したので、近いうちに小規模シナリオから試してみようと思う。TSWWが、作戦級の海戦・航空戦ゲームとして成立しているかどうか、確かめたいところだ。

【The Second World War】TSWW:21世紀のアドバンスド・エウロパ・シリーズ

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ここ一ヶ月半、Blogを書いていなかったが、ウォーゲームに触れていなかったわけではない。むしろここ一ヶ月半、延々と、あるウォーゲームのルール和訳に没頭していたのだ。それが、今回ご紹介するDiffraction Entertainment社のTSWW(The Second World War)シリーズである。

このTSWWシリーズは、簡単に言うと「21世紀のエウロパ・シリーズ」である。かつてGDW社から発売されていた、第二次欧州大戦の作戦級エウロパ・シリーズは、1990年代にGRD社に引き継がれ、さらに太平洋戦線も扱うグローリー・シリーズ、第一次大戦版のグレート・ウォー・シリーズも出版されたが、GRDも今では活動を停止し、エウロパ・シリーズも完結していない(海外サイトの書き込みを見ると、権利を乗っ取られたようにも読める)。そのGRDの終焉と入れ替わるようにして、2010年から発売されたのが、DE社のTSWWシリーズである。

自分も学生時代、ホビージャパン社からライセンス生産されたエウロパ・シリーズをひととおり買ったものの、ユニットの多さや、スタック計算の面倒くささ(何割が自動車化されているか)や、航空ユニットと艦船ユニットにシルエットが無い(数字のみで雰囲気が出ない)、小規模シナリオが無いという理由から挫折し、すでに全作処分してしまっている。たしか1日がかりで「フランス崩壊」の地上ユニットを並べたものの、この後、航空ユニットも並べるのかと思った瞬間、心が折れた記憶が……

そんな自分がなぜか、この2月にふとこのTSWWシリーズが欲しくなり、30年ぶりに再挑戦してみることになった。せっかくコレクションも断捨離したのに、ここでまたシリーズを増やすのかと思ったが、欲しくなってしまったんだから、仕方ない。まあ、OCS(Operation Combat Series)では扱いきれない、より大きな戦役をプレイするには良いかな……とも思ったが、実際にルールを読んでみると、むしろOCSより細かい部分が多く、これはむしろ「21世紀のアドバンスド・エウロパ・シリーズ」じゃないかと驚いた。

とりあえず1ヶ月半かけて、ようやくルール(英文130ページ以上)を訳し終わったので、紹介記事を書ける段階と相成った。なにしろネット上には、日本語で読めるTSWWの詳しい紹介記事が無く、そもそもどういう作品が出ているのか、GDWのエウロパ・シリーズとどう違うのかも、良く分からない状況なので、この記事が参考になれば幸いかと。

ちなみに日本語ルールの公開については、販売元に相談中であり、デザイナーのJohn Bannerman氏からも『TSWWを紹介してくれるなら、これを使ってもいいよ』と快く、沢山の画像を送っていただいた。今回の記事に使用している画像のいくつかも、Bannerman氏からのご提供のモノである。

※2020年7月21日 TSWW公式フォーラムにて日本語ルール公開。


ではまず、現在までに発売されているTSWW作品と、将来発売予定のラインアップについて…… 

 

TSWWシリーズタイトル一覧

・欧州戦線(年代順)

・「La Guerra」(プレオーダー中) 正確にはTSWWシリーズではなく、BTW(Between The War)シリーズ。スペイン市民戦争を扱う。 

・「Hakkaa Paalle」(2016年発売) フィンランドでの冬戦争と、ドイツ軍による仮想スウェーデン侵攻戦 (1941年、42年、43年想定)を扱う。

・「Blitzkrieg」(2010年発売、現在、改訂版がプレオーダー中) 記念すべきTSWWシリーズ第一作。現在ではメーカー品切れだが、改訂版となる「Blitzkrieg II」がプレオーダー中。1939年~1943年の初期電撃戦……ドイツ軍によるポーランド侵攻、フランス侵攻、ノルウェー侵攻、バトル・オブ・ブリテンとあしか作戦(イギリス本土上陸)、戦艦ビスマルク追撃戦、ディエップ強襲、仮想・連合軍フランス侵攻スレッジハンマー作戦、ラウンドアップ作戦も扱う。GDWのエウロパ・シリーズで言えば「ポーランド電撃戦」と「フランス降伏」と「ナルビク強襲」と「英国本土決戦」がワンボックスに詰め込まれているようなもので、「Blitzkrieg II」では、カウンターシート24枚=カウンター総数6720個が予定されている。

・「Balkan Fury」(2011年発売) バルカン半島での戦闘……イタリア軍アルバニア侵攻、ドイツ軍のギリシャ、ユーゴ侵攻、クレタ島侵攻、イギリス軍のタラント港空襲、マタパン岬沖海戦を扱う。

・「Mare Nostrum」(2013年発売) 地中海・北アフリカ・中東での戦闘をすべて包括し、マップ33枚で西はスペイン・ポルトガル、東はイラン・イラク、南はケニアウガンダまで、カウンターシートは18枚=カウンター総数5040個という超大作。あいにくメーカーにはQM版(データ版)しか在庫が無いが、まだショップ在庫も見かけるし、いずれ「Blitzkrieg」同様「II」が制作されるかもしれない。

・「Madacascar」(2013年発売 ミニモジュール) 1942年、ヴィシー・フランス領マダガスカル島への連合軍の侵攻、アイアンクラッド作戦を扱う。

・「Barbarossa」(恐らくもうすぐ、2019年発売予定) 21世紀版「Fire in the East」。1941年~1943年の東部戦線……バルバロッサ作戦、青作戦、火星・天王星土星作戦、マンシュタインの反撃、セバストポリ攻略、ムルマンスク船団護衛を扱う。予告ではマップ20枚、カウンターシート24枚=カウンター総数6720個、両軍の戦闘序列は合計350ページ以上という、ウォーゲーム史上最大級のモンスターゲームになる予定。ちなみにボックスアートは、2種類から選べる。

・「Operation Merkur」(2014年発売 ミニモジュール) 1941年のドイツ軍によるクレタ島侵攻作戦を扱う。1ターン=半月ではなく、1ターン=5日スケール。

・「Operation Battleaxe」(2016年発売 ミニモジュール) バトルアクス作戦と、仮想ドイツ軍によるトルコ侵攻、ソ連軍によるイラン侵攻も含む。 

・「Liberation」(プレオーダー中) 1943年以降の西部戦線……シチリア島、イタリア上陸とゴシックラインでの戦闘、オーバーロード作戦、マーケットガーデン作戦、バルジ戦、戦略航空戦争を扱う。

・「Vengeance」(プレオーダー中) 1943年以降の東部戦線……クルスク戦レニングラード解囲、ドイツ中央軍集団の崩壊、バグラチオン作戦、ハンガリー戦、ベルリン戦を扱う。 

・太平洋戦線(年代順)

・「The China Incident」(企画中) 1937年~1945年の日中戦争ノモンハン事件を含む国境紛争、さらには1949年まで延長して共産党軍による中国支配を扱う。

・「Day of Infamy」(2017年発売) 1941年~1943年の北部太平洋での戦闘……真珠湾ウェーク島、ドゥーリトル隊の東京空襲、アッツ島キスカ島、ミッドウェー島を扱う。

・「Singapore !」(2015年発売) 1941年~1945年までの東南アジアでの戦闘……日本軍によるマレー、ビルマスマトラ、ジャワ侵攻、セイロン空襲、インパール作戦を扱う。

・「I Shall Return」(プレオーダー中) 1941年~1945年までのフィリピン戦……日本軍の侵攻、捷号作戦、仮想対日戦プラン・オレンジを扱う。

・「Operation Watchtower」(プレオーダー中) 1941年~1943年の南部太平洋での戦闘……珊瑚海海戦、ガダルカナル島ラバウル航空戦、南太平洋海戦を扱う。

・「Kamikaze」(企画中) 1943年以降の中部太平洋の戦い……タラワ、マリアナ諸島硫黄島、沖縄での戦闘に加え、日本本土侵攻ダウンフォール作戦を扱う。 

GDWやGRDでのエウロパ・シリーズの頓挫を見ると、ついつい『全部出せるのか?』と思ってしまうが、この9年間でかなりの作品がリリースされているし、これだけでも十分遊べると思う。恐らく近いうちに「Barbarossa」が発売されるし、いったん品切れた「Blitzkrieg」も再版するようなので、シリーズの整備は頑張っているようだ。

TSWWシリーズ最大の問題は、その価格である。正直、かなり高い。ただしルールやシナリオだけデータ化したLieutenant版や、地図盤やカウンターシートまでデータ化したQuartermaster版は、より安価になっているので、そちらを利用する手はある。メーカーではVASSALモジュールも用意しているので、データのみのQM版だけ買って、プレイはVASSALで……ということも可能だ。自分は、ルール和訳のためにデータ化されたルールブックが必要だったので、Lieutenant版を購入している。

エウロパ・シリーズとの違い:基本部分】

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ゲームスケールは、エウロパ・シリーズと同じく、1ヘクス=15マイル、1ターン=半月(5日バリアントもあり)である。1地上ユニットの規模(軍団~師団~旅団~連隊~大隊)も同じだが、艦船ユニットは、駆逐艦まで1ユニット1艦となり、航空ユニットは表面がウイング(40機)、裏面がスコードロン(20機)になっている。1艦1ユニット方式は、艦船ファンとしては嬉しいものの、プレイは面倒になるという、痛し痒しな部分もあるが、艦船はシルエット、航空機はカラーイラストになっているのが嬉しい。

ゲームの進行は、エウロパ・シリーズとあまり変わらず、移動・戦闘・反応移動・突破移動である。またゲーム判定に使うダイスは、6面体ではなく、すべて10面体となっている。

 エウロパ・シリーズとの違い:陸戦】

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まず大きな違いとして、戦闘効率補正(CEV:Combat Efficiency Valiable)という概念が導入されている。 CEVは、各国の時期別の士気や練度を表し、戦闘力を増加・減少させる係数になっている。たとえば上の画像(冬戦争)では、ソ連軍歩兵師団(茶)は戦闘力11と10、フィンランド軍歩兵師団(白)は戦闘力5になっている。額面戦闘力だけ見れば、21:5=戦闘比4対1になるだろう。

しかし1939年のフィンランド軍のCEVは1.4、ソ連軍のCEVは1.0なので、その数値を掛けると、フィンランド軍師団は5✕1.4=7、ソ連軍はそのまま10と11となる。さらに指揮官マンネルハイム(Mannerheim)と連絡線がつながっていれば、その防御指揮能力=CEV+0.5が得られるので、フィンランド軍師団の戦闘力は、5✕1.9=9.5戦力となる。

また補給ルールも、細かくなっている。補給線が通じている地上ユニットは、一般補給下にあると見なされ、防御時にはその額面戦闘力で防御できる。しかし一般補給下で攻撃する場合には、戦闘効率補正✕0.75となってしまう。上の図で言えば、もしソ連軍の2個師団が、どちらも一般補給下で攻撃するなら、10✕1.0✕0.75=7.5戦力と、11✕1.0✕0.75=8.25戦力となり、2個師団足しても15.75となる(端数は残す)。戦闘比を出す場合は、15.75÷9.5=1.66対1となり、d100を振って、小数点数値の66以上が出たら1対1となり、66未満なら2対1となる。いずれにしろ額面4対1だったのが、2対1か1対1になるし、最終戦闘比は d100を振るまで分からないわけだ。

攻撃時に100%戦闘効率補正を発揮したい場合は、攻勢補給という補給ポイントを上乗せして追加消費する必要がある。攻勢補給を消費すれば、額面通りの21戦力対9.5戦力で、21÷9.5=2.21となり、d100を振って21未満なら3対1になる。つまりOCS同様、補給の無い所では攻勢が成り立たないのだ。

また旧来のエウロパ・シリーズでは、スタック内の戦車・対戦車RE(連隊相当)の割合を計算するのが面倒だったが、TSWWでは、割合ではなく、スタック内にどれだけの戦車・対戦車スタックポイント(連隊相当)があるかだけ算出し、その数によってダイス修整を導き出すので、そこは簡単になっている。

とは言え、このように、ひとつの地上戦闘を解決するのに、非常に多くの手間がかかるのは事実。もちろんメイアタックなので、攻撃したいところや、攻勢補給を消費したところだけ処理すれば良いし、こういった計算を楽しめる人向きのゲームなのだろう。

さらにエウロパ・シリーズとの違いとして、オーバーランが戦闘比10対1のみではなく、戦闘比7対1から可能(その代わり損耗も大きい)にもなっている。

 エウロパ・シリーズとの違い:空戦】

 エウロパ・シリーズとの違い:海戦】

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海空戦については、ソロプレイした時に詳しく触れるが、ひととおりルールを読んだ感じでは「陸戦ゲームのオマケ」ではなく、それぞれのシナリオが、作戦級の航空戦・海戦ゲームとしても成立しそうに思える。特に海戦は、1艦1ユニットになったものの、あくまで1ターン=半月というおおざっぱなスケールなので、どこまで面白く、納得できる形で表現されているか、興味津々だ。

また空戦や海戦でも、CEV(戦闘効率補正)がダイス修整として影響を及ぼしている。太平洋戦線で言うなら、1941年は日本軍の方がCEVが高く、1942年では日米互角、1943年以降からアメリカ軍のCEVが勝り、日本軍はどんどんCEVが落ちていく。

このCEVをはじめ、各ゲームで史実的根拠に満ちたルールが多々あり、恐らく旧来のエウロパ・シリーズよりも史実に沿った展開になると思われる。自分は、それでも大丈夫なウォーゲーマーなのだが、夢想的な展開が欲しい人には厳しく感じるかもしれない。なるようにしかならないじゃないかと。

また時間も手間もかかるため、例会などでプレイするには限界があるが、ソロプレイ環境が整っている自分なら、楽しめそうだなと思っている。すでに2作、入手してあるので、この日記に続いて購入記録を書いたら、連休中にはソロプレイする予定。昭和時代に挫折したエウロパ・シリーズに、平成の最後・令和の最初に取り組むというのも、自分の中では、なかなか面白いなあと思っている。

【参考文献】ピーター・ナヴァロ「米中もし戦わば 戦争の地政学」

アメリカ・トランプ政権の国家通商会議委員長、ピーター・ナヴァロの「米中もし戦わば」が文庫化されたので購入。著者は、ゴリゴリの中国脅威論者だそうだが、アメリカ政権側が今、中国とのどのような危機を想定しているか、という点では、ウォーゲーマー的にも参考になる。近未来の米中戦争をテーマとした、アメリカ発の商業ウォーゲームも、こういった想定がベースになっていると思われるし、現代仮想戦ゲームの背景を知るには良いかなと。まあ、あくまで中国脅威論者というバイアスはあるだろうが、想定そのものは興味深い。

【参考文献】「ラスト・オブ・カンプフグルッペ VII」

ラスト・オブ・カンプフグルッペVII

ラスト・オブ・カンプフグルッペVII

 

最新刊「ラスト・オブ・カンプフグルッペ VII」を購入。ようやく最新巻にリアルタイムで追いついた。今回気になった記事は、まず「第18砲兵師団」。「OCS:Hube's Pocket」でも、この部隊が登場するが、実際プレイした時は、ソ連軍を迎え撃つ予備・阻止砲撃部隊として配置されたが、戦線全体が長大すぎて、そのすべてをカバーしきれなかった。当然、その阻止砲撃の切れ目にソ連軍が攻め込んでくるので、なかなか役割が果たせなかった記憶が……

また第88重戦車猟兵大隊も「OCS:Hube's Pocket」に1ユニットとして登場するが、練度=AR(アクションレーティング)は5と最高なものの、自発的な攻撃はできず、防御のみという、ある意味、正しいキャラクター付けがされていた。

こういった背景記事を読むと、また「OCS:Hube's Pocket」に触れてみたくなるな……

【参考文献】エリノア・スローン「現代の軍事戦略入門 増補新版」

現代の軍事戦略入門【増補新版】陸海空からPKO、サイバー、核、宇宙まで

現代の軍事戦略入門【増補新版】陸海空からPKO、サイバー、核、宇宙まで

  • 作者: エリノア・スローン,奥山真司,平山茂敏
  • 出版社/メーカー: 芙蓉書房出版
  • 発売日: 2019/03/11
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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カナダの戦略研究家エリノア・スローンの「現代の軍事戦略入門 増補新版」を購入。2015年に翻訳が出た旧版は未見。各章毎に、21世紀の海戦、陸戦、空戦、核戦力、非正規戦、平和維持活動(旧版から追加)、軍事トランスフォーメーション、サイバー戦争、宇宙戦力に関する戦略の進化や比較がまとめられている。今現在の戦争の様相を説きながら、各領域での、戦略思想の違いを俯瞰できるのも便利だなと。

戦略研究というのも、学問のひとつなので、それぞれの学派?でどのように意見が違っているのか、どのような問題を見据えているのかが分かるのも興味深い。

ただ、自分の場合、ここまで最先端の現代ウォーゲームには触れていないし(いいとこ「Labyrinth」「A Distant Plain」程度)、断捨離した結果、今では第二次大戦のゲームばかり所有しているので、本書で得られた知見をシミュレーションできる機会はしばらく無さそうだ。

本書でも扱っている、不正規戦、サイバー戦などを上手くまとめた21世紀の現代戦ウォーゲームがあれば触れてみたいが、あいにくまだ視界に入っていない。自分の場合、もはや失われつつある通常戦争の方に興味があるが、今現在の、ハイブリッド戦争や、マルチドメイン領域を扱ったウォーゲームで良いモノがあればとも思っている。

【Advanced Squad Leader】「Red Factories」

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事前注文していたASLのヒストリカル・モジュール第10弾「Red Factories」(1942年のスターリングラード市街戦の一部)が到着。なんと1989年に発売されたヒストリカル第1弾の「Red Barricades」(赤いバリケード大砲工場周辺での戦闘)を再版したうえ、それと連結する「Red October」(赤い10月武器工場周辺での戦闘)も付け足したという、ASLヒストリカル史上最大規模のモジュールとなっている。事前注文だけで約2000個が売れていたあたり、全世界のASLer待望のモジュールとも言えよう。

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こちらが約30年ぶりにリメイクされた「Red Barricades」の新版マップ(2枚)。もちろんタイトル通り、赤いバリケード大砲工場周辺が描かれている。これを描いたのは、旧版と同じくCharles Kiblerだが、旧版のグラフィックが使用に耐えなかったので、あらためて描き直したとのこと。

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こちらが旧版の「Red Barricades」(1989年発売)。地図盤を比べてみると、建物の輪郭は、やはり新版の方がクリアで、LOS判定もし易そうだ。それにしてもこの旧版、たしか自分がウォーゲームからいったん離れる前の学生時代、発売当時に購入したはずだが、これもほとんどプレイしないまま、約30年が経過し、そのまま新版に移行……というのも、なんというか申し訳ない(箱絵は旧版の方が好きかも)。 

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そしてこちらが初お目見えの「Red October」マップ(2枚)。川岸には、丸い石油備蓄タンクや、北の渡船場も見える。「Red Barricades」と4枚連結することも可能だが、まあ、そんなプレイは無理だろう。

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地形オーバーレイは、7枚収録。そのほとんどが、瓦解した建物を置き換えるものになっている。これは便利。本来は、瓦解した1ヘクス毎に瓦礫マーカーを置くのだが、正直プレイの邪魔だし、いっそこのように、まるまるグラフィックを入れ替えた方が分かりやすくてGood。 

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カウンターシートは、8枚収録。うち2枚が「Red Barricades」(再版)、6枚が「Red October」(新規)になっている。もちろん、独ソ両軍の歩兵カウンターが山のように追加されているが、特筆すべきは、リニューアルされた防御射撃カウンターではないかと。それぞれどの火力(分隊の固有火力か、支援火器か、車両の主兵装か、車載機銃か)で防御射撃を行ったかが分かるようになっている。つまり「これは分隊の固有火力で防御射撃をしたけど、支援火器はまだ撃ってないよ」と表示できるわけで、この新方式は、今後のモジュールでも追加され、標準化されるのだろうか? 

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シナリオは「Red Barricades」用が14本(旧版に収録されていた7本+追加7本)、「Red October」用が7本収録。キャンペーンゲームは「Red Barricades」用が4本、「Red October」用が3本、さらに両者連結の(つまりマップ4枚連結の)「Red Factories」用が1本収録。さすがにそこまでは無理としても、いずれ一度は大型シナリオにたどり着きたいものだが、果たして……

ちなみにASLでスターリングラード戦と言えば、2007年に「Valor of the Guards」も発売されている。こちらは「Red Factories」よりも南の地域、第一鉄道操車場から中央渡船場を扱っているが、あいにく「Red Factories」と連結はできない。いや連結されても困るんだが、両者の地図盤の間には、激戦地ママイ墳丘墓(クルガン)があるはずなので、いずれそれだけ出版されるかも? しかしこちらも2011年にセールで購入して以来、いまだに一度もプレイしておらず、カウンターも未切り離しのままだ。翻訳もあることだし「Red Factories」より先に「Valor of the Guards」を供養プレイした方が良いかもしれない。「Valor of the Guards」は、出版後に雑誌などでシナリオが多数追加され、最終的に27シナリオまで達したので、いろいろ遊べるはずなのだが……

というワケで、昨年後半から続いたASL整備フェイズ(ヒストリカル再収集フェイズとも言う)も、これにて一段落。手元にはすでにホルム、ハッテン、ブダペスト、ヒュルトゲン、エルスト、ガダルカナルスターリングラードと、なかなかの面子が揃ったので、まずは翻訳のある「Festung Budapest」か「Valor of the Guards」あたりから触れてみたいと思う。

【Grand Operational Simulation Series】「Atlantic Wall : D-Day to Falaise」ルール翻訳中 Part.1

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昨年購入した「Atlantic Wall」が、積まれたままなので、ようやく重い腰を上げて、ルール翻訳を開始した。実際に訳したのは、ゲーム本体に入っているルールではなく、Decision Gamesサイトで公開されている、ver4.0ルール(2016年10月11日付)である。英文ルールで3段組み70ページ。さすがに読みにくいので、日本語ルールは2段組みにしたが、目次だけで6ページ、総量は100ページを超えるだろう。ちなみにこれは、あくまで「Atlantic Wall」の個別ルールだけの話で、これとは別に、GOSSの基本ルール(これまた英文3段組み70ページ)が存在するわけだ……

とりあえず今現在、ルール27.0まで到達し、シナリオ情報、空挺、上陸以外のルールは訳したが、それでも2段組み40ページ近くある。普通のウォーゲームなら、とっくに全ルール訳し終わっていてもおかしくない分量だ。さすがに疲れたので、いったん間を置いて、また取りかかるつもりだが、ここまでに訳したルールの中でも、印象的だったことをメモしておこう。

https://decisiongames.com/wpsite/e-rules/

・1.2.7d 生け垣カッター戦車

他のノルマンディ戦ゲーム同様、本作でもボカージュと生け垣は、ドイツ軍に対して有利な防御効果を授けてくれる。しかし7月15日以降、アメリカ軍はダイス判定を行い、それに成功すると、M4シャーマン全部隊に対して、十分な生け垣カッター(ヘッジホッグ)が行き渡ったと見なし、M4シャーマンが参加した戦闘では、ボカージュと生け垣の防御効果が無効化される。ん?M4シャーマンだけ?俺、子供の頃、ヘッジホッグカッターの付いたM5スチュアート戦車のプラモ作ったんだけど、M5じゃダメなの?と思ったが、まあ、そういう解釈らしい。

・26.5.2b グロスドイッチュラント装甲師団の投入

ドイツ軍は、史実ではノルマンディ戦に投入されなかった、グロスドイッチュラント(GD)装甲師団を、国防軍最高司令部(OKW)の予備部隊として登場させても良い。ただし登場位置は、10面体ダイス1個を振ってランダムに決定される。出目が0~2ならドイツ本国(分かる)、3~4ならベネルクス三国(分からないでもない)、5~6ならカレー(分からないでもない)、7ならレンヌ(むむ)、8ならアレンソンで6月6日夜間ターンから行動開始(おいおい)、そして9なら……サン・ローから6ヘクス以内に配置し、6月6日午前ターンに捜索大隊と装甲擲弾兵連隊1が活性化、同日午後ターンには全師団が活性化するという。サン・ローにGD師団!D-Dayに活性化!つまりオマハ海岸に急行してアメリカ第1・第29歩兵師団を襲ったり、半島部に進出してアメリカ第82・第101空挺師団を襲えるわけで、それはちょっと試してみたいと思った(ダイス目で9が出たことにして)

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27.0 戦略地図

正直、ここまで本作のルール量が多くなった原因の多くは、このルールにある。このディスプレイ1枚入れたおかげで、ルール量が15%~20%ぐらい増えているような……。しかもこれ、単なる盤外移動だけではなく、盤外戦闘もあり、そのための戦闘ルールもあるため、実質「1944年夏の西部戦線のポイント・トゥ・ポイント式のミニゲーム」が、余計にひとつ追加されているようなものだ。まあ、付けてしまったものは仕方ないが、やはり、ここまでやる必要は無かったなあと。

……という感想を得たあたりで、次は「Atlantic Wall」のシナリオ情報、空挺ルール、上陸ルールに取りかかるつもりだが、いつ再開するかは未定。多分、今年発売される予定のGOSS第4弾「Lucky Forweard」を入手した後かもしれない。それまでは、また積みゲーに戻るが、ここまで訳しておけば、一応進捗したということで……(本当に疲れた